「半島有事」で緊急輸送?どうする邦人待避
平昌オリンピックの閉会式にあわせて韓国を訪れていた北朝鮮の政府高官が27日、帰国した。パラリンピック後にはアメリカと北朝鮮の軍事衝突の危機が再燃するとの見方もある中、日本政府はひそかにある計画を進めている。
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27日朝、韓国ソウル市内のホテルを出発した北朝鮮の金英哲統一戦線部長。オリンピック期間を通じ“ほほえみ外交”を展開した北朝鮮。一方、アメリカ国防総省は26日、来月の平昌パラリンピックが終われば、延期していた米韓合同軍事演習を実施するとの方針を改めて強調した。そうなれば再び緊迫することも予想される、北朝鮮情勢。
こうした中、懸念されるのが「有事の際に韓国に滞在するおよそ6万人の日本人をどのように脱出させるか」。
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今月、わたしたちのカメラは、広島県の港を官邸幹部がひそかに訪ねる様子を捉えていた。安全保障担当の薗浦首相補佐官だ。案内され、乗り込んだのは海上自衛隊の大型輸送艦「しもきた」。
政府は、アメリカ軍が北朝鮮を攻撃するなどの有事が起きた際、韓国の同意を得た上で、釜山に海上自衛隊の輸送艦を派遣し、在韓邦人をいったん対馬などへ退避させることを想定している。
輸送艦の船内にあったのは車両などを格納する広大なスペース。ここに多くの人を滞在させることができるのか確認する。
輸送艦しもきた・吉野敦艦長「(ここのスペースに人を)どうやって泊めるのってなったときは、いろんな環境下を考えないと大変なことになる」
薗浦首相補佐官「押し込んじゃえばいいよ、っていう話ではない?」
輸送艦しもきた・吉野敦艦長「せめてここに毛布を敷いて、地べたに座っていただくような態勢はとらないとダメなんじゃないかと」
防衛省関係者によると最大でおよそ2000人を運ぶことができるという、この輸送艦。艦内の医務室でのやりとりでは―。
薗浦首相補佐官「(自衛)隊員だけじゃなくて例えば緊急輸送するときに、そういう人も(治療)できるわけ?」
輸送艦しもきた・吉野敦艦長「できます」
『緊急輸送』との言葉が。半島有事を念頭においたものとみられるが―。
薗浦首相補佐官「人を運ぶことを含めていろんな用途に使えることが改めてよくわかりました。(Q.それは朝鮮半島の有事だとか?)うーん、特定の何かのミッションを想定したわけではない」
記者が“半島有事を前提にしたものか”と問うと、薗浦補佐官は言葉をにごした。
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一方、多くの日本人が避難してくる可能性がある対馬。受け入れる態勢はあるのだろうか。対馬市は、政府からの要請などはないものの、準備を急いでいた。
対馬市役所総務課・黒岩大作係長「在韓邦人の方が対馬に一時的に滞在する場合の第一の滞在施設になる厳原体育館です」
日本人が避難してきた場合、市内6か所の体育館や公民館に収容することを想定している対馬市。しかし“心配”な点もあるという。市役所では食料や水などを備蓄しているが―。
対馬市役所総務課・黒岩大作係長「(半島有事の際)在韓邦人の方が何人くるかわからないですけど、この量ではまかなうことは厳しいかと思います」
災害時に市民に配給することを想定したもののため、その数は1600人分のみ。6万人にのぼる在韓邦人すべてを受け入れることは難しいという。
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こうした中、政府はアメリカ軍の協力を得ることも検討している。今月、タイで行われたアメリカや日本など7か国による共同軍事演習。アメリカ軍の航空機を使って、紛争地から日本人を含む避難民を脱出させる訓練がはじめて行われた。
様々な国の人が殺到し“混乱”が予想される中、使われていたアイテムがリストバンドだ。バーコードが表示されていて、番号のようなものがある。バーコードに氏名や年齢などが登録されているため、人定などの手続きにかかる手間を省いてスムーズに避難を進められるという。
こうしたリストバンドは、半島有事の際にも活用することが検討されている。
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もし本当に、朝鮮半島で有事が起きたら日本人は安全に帰国できるのか。政府は、アメリカや韓国と協議を進め計画の具体化を急ぎたい考え。