×

高校バスケ部わずか6人…経営難で “最後の夏”全国大会への“軌跡”【バンキシャ!】

2024年8月19日 9:09
高校バスケ部わずか6人…経営難で “最後の夏”全国大会への“軌跡”【バンキシャ!】

深刻な経営難に陥り、生徒数が激減した和歌山県の高校。バンキシャは、そのバスケットボール部を取材しました。部員は3年生の6人だけ。それでも高校バスケの頂点を決めるインターハイに出場。全国に挑む、たった6人のバスケ部。最後の夏を追いました。【バンキシャ!】

この夏、バスケットボールの高校日本一を決める戦い、インターハイが行われた。会場で一際、注目を浴びていたのが、和歌山の南陵高校。部員は3年生の6人だけ。

部員
「人数はあんまり関係ないので」

「やるだけなのでやるしかない」

「頑張ります」

部員が6人になったのは、学校が深刻な経営難に陥ったため。厳しい環境の中、逆境を乗り越え、全国に勝ち上がってきた。

しかし大会中、アクシデントが発生。窮地に追い込まれてしまう…。わずか6人で全国に挑んだ南陵高校、その最後の夏の戦いを追った。

***

和歌山にある南陵高校をたずねると、広い体育館を使い6人だけで黙々と練習に励んでいた。人数が少ないため練習にはひと工夫が必要。用意していたのは、赤い三角コーン。

バンキシャ!
「コーンは何に使う?」

部員
「ピック(選手)の代わりです」

バスケは1チーム5人で戦うスポーツ。試合形式の練習では人数が足りない。コーンを選手に見立てて、やるしかない。

バスケ部を率いる和中監督も、6人だけのチームを指導する難しさを感じていた。

和中監督
「長くて1時間半くらいで練習終わるんですけども、練習強度あげたりすると、ケガにもつながるし、そこは今年一番の悩みというか」

ケガで一人でも欠けてしまうと、練習すらままならないのが現状だ。

ハンディとなることも多い中、キャプテンの二宮くんは6人だけのチームに自信を持っていた。

キャプテン 二宮くん
「人数は少ないんですけど、みんな一人一人が勝ちたいと思っていて」

「メンタル(の強さ)っていうのが僕たちの武器なんで」

6人だけで臨んだ和歌山県大会で見事、優勝。全国への切符をつかみとった。

「これ全部、歴代の先輩がもらった賞状です」

実は4年連続で全国大会に出場している南陵高校、かつては県内屈指の強豪として知られ、全国から多くの選手が集まってくるほどだった。

キャプテンの二宮くんも、中学時代にはプロチームの下部組織で優勝したこともある実力者。愛知県の中学校からスポーツ推薦で入学、ほかの部員とともに寮で共同生活を送っている。

バスケ部で唯一の留学生がナイジェリア出身のアブバカくん。203センチの恵まれた体格をかわれスカウトされた。入学当初は日本語を話せなかったが猛勉強し、今では漢字の書き方を学ぶほど上達した。

アブバカくん
「好きな言葉は“やるしかない”」

才能あふれる部員たちが集まる南陵高校だが深刻な経営難に陥り、教職員の給与未払いや公共料金の滞納など問題が多発。不安を抱いた生徒たちが相次ぎ転校し、和歌山県からは新たな生徒の募集を禁止された。

その結果、全校生徒は18人にまで激減してしまった。40人以上が所属していたバスケ部も今では6人だけに。

バスケ部員が暮らす寮も大変なことになっていた。

部員
「ここから水が降ってくる」

大雨が降ると、このありさま。

部員
「もうないと信じたい…梅雨終わったし」

部員
「あと1回くらいあるやろ」

さらにバスケ部が練習する体育館でも…

部員
「あそこ光っている…外から見ると穴があいてて、そこからハトが中入ってきて、フン落とされて、それを僕らが毎日掃除している」

老朽化した設備を修理する余裕すらなくなっていた。

過酷な高校生活を強いられたが、バスケ部を離れることはなかった。そのワケは…

キャプテン 二宮くん
「やっぱ…こいつらのおかげ。仲間っていうか家族なんで。みんな支えてくれたんで、僕がやめたくなった時も。だから残れたかな」

インターハイまであと8日。

「おはようございます」

連日、猛暑が続くが、練習を行う体育館にエアコンは無い。マネジャーもいないため、練習前の準備もすべて6人で手分けして行う。

練習が始まった。しかし暑さのせいか、この日は動きにキレがない。集中力を欠いたプレーも。その直後だった…。

和中監督
「もう終われ。こんな練習意味ない」

突然、監督が練習を打ち切り、体育館を離れてしまった。

部員たち
「なんでこうなったかわかってる?」

「一生懸命さが1ミリも感じられない…マジで」

「どうなの? 一生懸命やってた?」

「あんまり?」

「去年みたいに人数がいないから、盛り上がりがないのはわかる」

「人数少ない…しょうがないそれは」

「けど一生懸命さがなくなるのは、それは違うと思う」

「きついのはわかる…暑いし、ここ」

「エアコンもついてないし環境悪いのわかるけど、でも頑張るしかないんだから頑張ろう」

「絶対勝とうマジ」

“過酷な環境を言い訳にはしない”――6人の練習は続いた。

そして迎えたインターハイ当日。

「着いたっす」

ここが、夢の舞台。6人で挑む最初で最後の、夏の戦いが始まる。全国の強豪53校が頂点を目指す戦い。

キャプテン 二宮くん
「チームワーク、団結力っていうのが一番ほかのチームより僕らは強いと思うので、そこが見せたい」

いよいよ試合開始。黒のユニホームが南陵高校。相手は白の宮崎、延岡学園。インターハイを制したこともある強豪だ。

たくさんの部員を抱える相手チーム。ベンチにも7人が控える。一方、南陵ベンチは1人だけ。相手は次々と選手を交代させていく。

人数的には不利な状況。しかし、南陵は粘りのディフェンスを見せ、互角の展開に持ち込んでいく。

前半をなんとか同点でしのぎ、後半に入ると、キャプテンの二宮くんが3Pを決め、流れを引き寄せる。さらに、二宮くんから、最後はアブバカくんへ。シュートが決まる。

しかしこの時、アクシデントが…。相手の肘がアブバカくんの顔を直撃し、目尻を大きく切ってしまった。6人だけの南陵高校。1人でも欠ければ、勝利は遠のいてしまう。

「これでいい、OK」

応急手当てだけ済ますと再び、コートへ。その後も全員で泥臭くボールを追い続ける。

そして、終了のブザー。接戦を制し、勝利をあげた。6人全員が思いをひとつに戦った結果だった。

キャプテン 二宮くん
「仲良さそうにやって、楽しく終われたんで。あしたも頑張ります」

***

試合は連日続く。2回戦の相手は関東を制した強豪だ。6人の最後の夏、どこまで行けるのか。

6人だけの南陵高校が次に挑むのは、関東大会王者の八王子学園。白のユニホームが南陵。格上相手に真っ向勝負を挑む。ひるむことなく、走り続ける。

しかし、力及ばず敗戦。

「礼、ありがとうございました」

6人で挑んだ最後の夏が終わった。

キャプテン 二宮くん
「どの部分とってもやっぱり自分たちより格上で、差を感じましたね」

でも試合後、嬉しいことが。ファンになったという子どもたちが握手を求め、やってきたのだ。

6人だけの戦いは、多くのファンの心に刻まれた。

*8月18日放送『真相報道バンキシャ!』より