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LGBT法案、自民党が一転した3つのワケ

2023年2月8日 6:30
LGBT法案、自民党が一転した3つのワケ
岸田首相

LGBT・性的マイノリティーの人たちへの理解を促進するための法案について、自民党は前向きに検討していくことになった。2年前に国会提出が見送られた法案が、ナゼ今、一転して動き出したのか。「3つのワケ」からひもとく。

■ <理由1>「見るのも嫌だ」前・首相秘書官の発言

理由の1つ目は、荒井前首相秘書官の発言。

荒井氏は同性婚などをめぐり「見るのも嫌だ」などと発言し更迭に追い込まれた。

「スピーチライターとしては歴代の経産省出身の秘書官の中でも、ピカイチ」(経産省中堅)と評価されていた荒井氏の発言に、野党だけでなく、政府・与党内からも「首相秘書官は政権を支える人なのに足を引っ張ってどうする」「政権の正当性が問われる」などと厳しい声が相次いだ。

岸田内閣が「多様性のある包摂社会の実現」を掲げながら「多様性を認めない内閣」(立憲幹部)だという指摘もあがった。

岸田首相も周辺に対して「あの考えは言語道断で、どうしようもない」と漏らしていたという。

荒井氏の更迭を受け、週が明けた6日、自民党の茂木幹事長、萩生田政調会長、遠藤総務会長が党本部で集まり、LGBTの人たちへの理解を促進するための法案の扱いについて協議。法案の国会提出に向け、前向きに検討していくことで一致した。

この法案は2021年、超党派のLGBTに関する課題を考える議員連盟が成立を目指したものの、自民党内の保守派からの反対で国会提出が見送られた経緯がある。

政府関係者によると、荒井氏の発言を受けて、岸田首相は自民党総裁として党幹部に対し、LGBT法案の今国会提出に向けた検討をするよう、指示したという。

このLGBT法案は、政府が国会に提出する内閣提出法案=「閣法」とは違い、超党派で成立を目指す議員立法=「議法」の形式を取っているため、国会提出に向けた手続きは政府ではなく党が主導することになる。岸田首相周辺も「議員立法なので、政府としては言えないが、党としてしっかり取り組むことになるのではないか」と期待感を示す。

■ <理由2>G7広島サミット“開催前の成立を”

「ぜひとも今国会で成立をさせるべく、できればG7のサミットをやる前に日本としてのこの意思を明確に示すべきである、このように思っております」(公明党・山口代表)

「今回G7の議長国ということもありますし、今回の出来事を契機に世界からも注目が集まっているので、できればG7までに理解増進法の成立をする、そしてそれを世界発信するというのはいいのではないかと個人的に思う」(自民党・稲田元防衛相)

理由の2つ目は、今年5月に開催されるG7広島サミットだ。

松野官房長官が記者会見で「日本以外のG7諸国は何らかの形で差別を禁止する法令や、同性婚法、またはパートナーシップ制度を有している」と述べるなど、性的マイノリティーへの対応をめぐっては、日本だけが他のG7メンバーと違い法整備が進んでおらず、「世界に比べて意識が低い」と指摘を受けている。

事実、G7メンバー国の中で同性婚が認められていないのは日本だけだ。海外メディアも「日本にはLGBTQ、女性、外国人への偏見が根強く残っている」(AP通信)、「日本は伝統的な男女の役割と家族の価値観に縛られている」(イギリスBBC)などと批判的に報道した。

政府・与党としては、世界からの冷ややかな見方を払拭するためにもG7広島サミット前にLGBT法案を成立させたいとの思惑もある。

■ <理由3>「安倍氏死去で状況が…」“保守”の変化

理由の3つ目は、自民党内の保守派に生じた変化だ。ある自民党幹部は、2年前の国会提出見送りを振り返り「法案は完全な理念法案で、なぜ通らなかったかが分からないくらいの内容。これを今やったとしても何も問題はなく、『差別は許されない』『不当な』などの一部文言の調整があるくらい。あの時、反対していた状況とは安倍氏死去でだいぶ変わってきている」と解説する。

2021年に自民党で法案を審査した際には、党内の推進派と野党が合意した「差別は許されない」とする文言などに保守派が強く反発。「権利を主張する裁判が相次ぐ」「男なのに女だと思って温泉に入ることが起こる」などと主張し、自民党の政調審議会では了承されたものの、最終的に最高意思決定機関である総務会で「党3役(幹事長、政調会長、総務会長)預かり」となった。

その際、反対する保守派を支援していたとされるのが、去年、亡くなった安倍元首相だ。関係者によると安倍氏は、生前、周囲に対して「LGBTの人たちを差別する人は唾棄すべきだと思うが、法律にする必要はない」と話していたという。

また、保守派の議員の一人も「安倍さんは法案に反対していたが、差別を許すことはしなかった」と解説する。

法案推進派の自民党議員は「安倍元首相が生きていた頃は反対せざるを得なかった部分はあると思うが、そんなに反対ではない人もいる」と党内の現状を分析する。

一方で、自民党内からは「安倍さんが生きていたときにまとめたラインを超えると怒る人がいるかも」との声も上がっており、党内で再び議論が紛糾するおそれもある。

国会では立憲民主党はこのLGBT法案はもちろんのこと「岸田政権が本気で『多様性』というなら、選択的夫婦別姓にまで踏み込むべき」と攻勢を強める。自民党内にも世論の反発などもふまえ「この機会に夫婦別姓までやればいい。総理の覚悟次第」(閣僚経験者)という声がある一方、LGBT法案ですら根強い反発があり調整がつくかは不透明だ。

政権が掲げる「多様性・包摂的社会の実現」が“かけ声”だけでなく、政策を実現させ説得力をもつか、岸田総理の「覚悟」が問われている。