衆院選に対するネットの声をAIで「見える化」ブロードリスニングで見えてきた意見の変化とは?(選挙戦前半編)
日本テレビは今回の衆院選に際し、AIエンジニアの安野貴博氏のチームと共同で、AIを使ってインターネット上の選挙に関する声を分析した。選挙の公示前後の比較で見えてきたのは、今回の選挙戦や「政治とカネ」の問題への高い関心と、生活を向上させるための具体的な経済政策の実行を求める声だ。
●AIで選挙へのネットの声を分析する「ブロードリスニング」
今回、日本テレビと安野氏のチームが分析に用いたのは、安野氏が都知事選で用いた「ブロードリスニング」と呼ばれる手法だ。X上の投稿から抽出した政治・政党に対する意見や要望、政策に関する意見などをAIが分析。似た意見をグループ(クラスタ)化し、マッピングする仕組みだ。選挙について、人々が抱く思い・意見の傾向を大まかに把握することができる。
分析は「選挙全体に関する声」「各党の公約や政策に関する声」「各政党への声」の3つの分野でそれぞれ実施。結果は日本テレビのニュースサイトで順次公開されている。
ただAIの分析にはファクトチェックの機能が備わっていないため、個別の投稿の内容の真偽は、各人がそれぞれで確認する必要がある点には注意が必要だ。また分析にあたり、誹謗中傷や、単なる事実の提示などの意見表明ではない投稿などは、できる限り取り除いて表示している。
●衆院選全体:投票先への迷いが…野党への複雑な思いも
まずは選挙の公示前(10月6日から12日まで)と公示後(10月15日から18日までの選挙戦前半)で、衆院選全般に関する声を見てみよう。
公示前の分析では「消費税と裏金問題への関心」「野党共闘と選挙戦略」などに関する投稿が大きなグループとなっていた。一方、選挙戦前半の分析では、投票へ行く意思表明や、選挙に関する一般的な話題に関する投稿が最も大きなグループとなり、選挙に関する多様な話題が挙がっていることがうかがえる。
また、「投票参加の重要性」に関する投稿も多く、グループが形成されている。ただ、「選挙区の選択肢と候補者への不満」というグループも大きな割合を占めた。このグループの投稿からは、選挙戦序盤ということもあってか、投票先に迷う人が一定程度いることがうかがえる。
また、「野党の政策提案と批判の不一致」というグループでは、個別選挙区での野党共闘が成立していないことに対する批判や、政権交代への本気度が感じられない、という声もみられた。またこのグループには、自民党議員の政治とカネの問題に対する意見も含まれているが、自民党を批判する声がある一方、選挙ではより具体的な政策議論をしてほしいという声もみられる。
一方、小さいものの、公示前後で継続してグループが形成されているのが、衆院選の投票に合わせて行われる、最高裁の裁判官の国民審査に関する投稿だ。審査にあたっての情報不足が指摘されていて、裁判官の経歴や過去の判例などを確認してから審査に臨みたいという意見がみられる。
●政策に関する意見:「政治とカネ」「経済・消費税」への高い関心続く
一方、政策に関する意見についての分析を見ると、公示後の選挙戦前半では、「政治とカネ」問題をめぐる声が大きな塊となった。自民党に対する批判の声がある一方、野党がいわゆる「裏金問題」で与党を批判することを優先し、政策議論が十分行われていないのではないか、と指摘する声もみられた。
また、公示前後を通じて、経済政策に関するグループが複数形成され、物価高など、生活環境の改善を望む有権者の関心の高さがうかがえる。特に複数の野党が掲げる「消費減税」に関する意見が数多くみられるが、中には消費減税の実現性を疑問視する声や、社会保障費の財源に関する議論を同時に行うべき、との意見もみられた。
選択的夫婦別姓や同性婚をめぐる議論、能登半島の災害被災地への復興対応が選挙によって遅れることへの懸念の声などは、公示前後を通じて一定のグループを形成している。
●安野貴博氏 「話題の中心が、自民党から選挙・政策全体へ」
今回の公示前~選挙戦前半戦にかけての人々の声の変化について、安野氏は「公示前と比較すると、自民党に関する話題が中心だったところから、選挙全体へと話題が広がっている」と分析する。
衆院選全般に関する声では、公示前は自民党総裁選直後であったこともあり、自民党・石破政権への批判や裏金問題への批判などに話題が集中していたが、公示後は、選挙への関心が高まる中、裏金問題批判ばかりで政策議論がないことへの批判などが増えている。
また政策に関する議論では、公示前に見られた安全保障に関する話題のグループが公示後はなくなり、経済政策・税制改革への関心が高まっている。安野氏は、「こちらも、各政党の政策・主張に対して国民の関心が強い部分が現れた形だ」と指摘する。
後半戦に突入した衆院選。人々の政治に対する声や意見を、各党が訴えや政策に反映していけるのかにも注目だ。