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米中覇権争いの火種!?「情報の大動脈」海底ケーブルのナゾと迫る安全保障リスクとは

2022年1月28日 21:13
米中覇権争いの火種!?「情報の大動脈」海底ケーブルのナゾと迫る安全保障リスクとは

1月15日、南太平洋の島国トンガで発生した海底火山の大規模噴火。

南海の孤島と世界をつなぐ唯一の海底ケーブルが切断されたことによって、噴火や津波被害のみならず、インターネットはもちろん国際電話も一切繋がらず、世界と隔絶された日々が続きました。

グローバル社会に不可欠な海底ケーブルとは?この海底ケーブルを巡って米中覇権争いや安全保障の脅威も。

1月26日放送のBS日テレ「深層NEWS」では、『重要インフラ「海底ケーブル」日本に迫る危機』と題して、サイバーセキュリティーが専門の慶応大学大学院の土屋大洋教授と、20年以上にわたって海底ケーブル事業に携わり、国際間でつなぐケーブルのグランドデザインを手がけてきたNTTリミテッドの佐藤吉雄氏をゲストに、知られざる「海底ケーブル」の謎に迫りました。

■「情報の大動脈」海底ケーブルとは

インターネットや国際電話、金融取引などに欠かせない重要インフラである海底ケーブルは、国際データ通信の99%を担うとされています。

アメリカの調査会社によると、稼働中または建設中の海底ケーブルは世界に464本、総延長は130万キロに及ぶといい、地球30周分にものぼるとも。

またNECの最新ケーブルは1秒間にDVD1万3300枚分のデータを送信でき、500万人が快適にインターネット通信できるといいます。

右松健太キャスター
「海底ケーブルの切断に通信の遮断、島国トンガに暮らす人たちにとってどのような影響が?」

慶応大学大学院土屋大洋教授
「海底ケーブルに島国、日本もそうですが国際通信の99%を頼ってるんです」
「トンガの場合、だいたい8割ぐらいがSNSの情報と言われているんですが、SNSは家族や友人、海外にいる人たちがどうなってるのかということを共有するために使われているわけです」
「それから観光の国ですから、飛行機やホテルの予約が不可欠ですが全部止まってしまった。自分たちがいまどうしてるか分からない。トンガに来たいという人もどうしようもない。絶望的な状況だったと思います」

■切断された深海の海底ケーブルをどうやって修復?

右松キャスター
「切断された海底ケーブルの修復はどのように?」

NTTリミテッド佐藤吉雄氏
「まず故障点は、この中継器と中継器の間というくらいの大まかなところは分かります」
「両極から信号を送りながら故障点をもっと具体的なものにしていき、最終的に着いたところでケーブルをフックで引っかけて持ち上げます」
「引っかけるところも、敷設時のデータというのがあるので、だいたい緯度・経度でこのあたりかなというところでフックを落とし、今回その切れたところはおそらく水深2000mくらいかと思いますが、そこまでフックを下ろして1kmぐらい引っ張り、引き上げていくと」
「水深2000mだとフックを沈めるまでに数時間かかってしまう。(1回で)引っ張って引っかかればいいんですけど、引っかからなければ何回かトライしなければいけない」

右松キャスター
「そうすると、海底に沈めて、ずっと這うようにフックで探して引っかかったらそれを上げていく?」

佐藤氏
「そうですね。引っかかると張力がかかり針が振れるので、それで分かります」

■海底ケーブルの通信能力は人工衛星を圧倒

笹崎里菜アナウンサー
「通信衛星が中心だと思っていた。なぜ海底ケーブルの需要が圧倒的に高い?」

土屋氏
「海底ケーブルの方が早くて安いんです。人工衛星というのはいろんなタイプがありますが、静止軌道衛星というのは高度36000km上にあります。データが上がって、また下りてくるまで時間がかかってしまうわけです。1990年ぐらいまで、国際電話をかけると「もしもし」って言ってから「もしもし」と(返答があるまで)時差があったと思いますが、あれは人工衛星使っていたからです」
「いま色々な遠隔ツールが出てきて、リアルタイムで話ができるようになっているのは海底ケーブルの中に大量のデータを流すことができるからなんです。これはもう人工衛星が全く太刀打ちできない大きな技術革新なのです」

■日本―アメリカ間はどのくらいの長さの海底ケーブルが?

右松キャスター
「例えば東京からアメリカのロサンゼルスまで直線距離で約9000km。この2つの都市を海底ケーブルでつなぐと、どのくらいの長さの海底ケーブルが必要に?」

佐藤氏
「海底ケーブルはピンと張るわけにはいかない。少し余裕を持たせます。用意するものとしては1万kmぐらい必要になります」

右松キャスター
「海底には起伏がある。日本の近くにある日本海溝の水深が8000m程。ここはどうするのか?」

佐藤氏
「吊り橋になるようなことは決してできなくて、海底面に着底させなければいけない」
「吊り橋状態になると、そこが故障の原因になるのです。潮流とかで擦れていくので。必ず海底面に着地させる」

土屋氏
「ぶらぶらしているとそれこそ、潜水艦が引っかけてしまったりします。本当に静かに海底の真っ暗なところにあって、その中を光信号がピカッと通ってるわけです」

■「海底ケーブル」切断は経済にも影響が。

土屋氏
「2006年に台湾沖で(大地震の影響により)海底ケーブルが切れたことがあるんです。台湾の沖合にはたくさんケーブルがあるのですが、地震で切れたことで台湾を中心に東側と西側のインターネットに分かれてしまったことがあるんです」
「そうすると日本にいる投資家が香港市場やシンガポール市場にアクセスしようと思ったら、地球の反対側を回らないといけなくなるわけです。我々が電子メール送るときは全く問題ないですが、一瞬の高速(金融)取引を争っている人たちからすると市場競争に負けてしまう場合もあるわけです」
「通信事業者あるいはそのお客さんである金融機関からは『1mでも短くしたい』『とにかく速くしてほしい』ということなんです。(それでも)海底火山や岩場がないところなどやはり安全なルートを通さなければならない」
「実は海底ケーブルが切れる一番の要因は漁網なんです。底引き網でガリガリと引っかかることで切れてしまう。あるいは大きな船が、いかりを落とす。海底ケーブルはとても硬いものですが、それにゴトンと落ちてくると切れてしまう。そういうことがないルートを引きたい。でも短くしてほしい。そのせめぎ合いの中でケーブルは引かれているんです」

■海底ケーブルのシェアは米欧日で9割、しかし中国企業の台頭も

海底ケーブルは、業界最大手サブコム(アメリカ)、ASN(フランス)、そしてNEC(日本)の3社で世界シェアの9割近くを占めています。

一方、4番手につけて存在感を高めているのが中国の通信機器最大手ファーウェイの傘下だった「HMNテック」。

海底ケーブルをめぐっても、米中の主導権争いが激化しています。

笹崎アナ
「米中争いの舞台となったのは、南太平洋の島国です。ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの3か国では、世界銀行が主導して海底ケーブルの敷設事業が計画されていました。グアム方面からミクロネシアまで、既存の海底ケーブルを接続させる事業で、当初入札で最も低い価格を提示したのは中国企業の「HMNテック」でした。しかし、中国企業の参加が安全保障上の脅威だとするアメリカの警告を受け入れ、最終的に入札を無効に。そして12月、日本はアメリカとオーストラリアと共に島国敷設事業への支援を発表しています」

笹崎アナ
「なぜアメリカは中国による海底ケーブルの拡大に神経を尖らせた?」

土屋氏
「グアムには米軍基地があります。そこからネットワークを伸ばして島嶼国につなぎたいということだったのですが、中国製のケーブルが入ってしまう、陸揚げ局の中にも(中国製の)設備が入るかもしれない。そうすると、データが抜かれるのではないかということをアメリカ政府が心配し始めたのです」
「トランプ政権時、ポンペオ国務長官が「クリーンネットワーク(注)」を提唱した。ネットワークをクリーンにしなきゃいけないと。これは、中国の製品やサービスをアメリカのネットワークから排除しないと、アメリカの人たちのプライバシーが侵害されるっていう(主張)なのです。」
(注:米政府は2020年8月、通信網や携帯電話アプリ、クラウドサービス、海底ケーブルなど通信関連の5分野で、中国企業を排除する「クリーンネットワーク」計画を提唱)

■いまや国家が関与「海底ケーブル」の重要性

右松キャスター
「海底ケーブル事業は民間事業だと思うが、国家が関与することになってきた状況をどう見る?」

土屋氏
「19世紀に海底ケーブルが出てきたときには、国家や国営企業が(海底ケーブル)を引くというものだったのですが、第2次世界大戦後は民間の純粋なビジネスになっていて、我々も研究者もよく分からないほどプライベートの世界だったのです」
「しかし、安全保障にかかわる問題だということになり、いまは純粋にビジネスの論理だけではできなくなってきたっていうことです。"地経学"とか"地政学"という言葉がこの世界で使われるようになってきています」

■海底ケーブルは第3の「一帯一路」?

右松キャスター
「中国が、南太平洋の島嶼国で影響力を強めることにオーストラリアも強い警戒感を示している。中国は、『一帯一路』のように海底ケーブルを通じて中国製の基幹インフラを拡大させる狙いも?」

土屋氏
「『一帯一路』は陸路と海路です。サイバースペースは第3の道なのです。『デジタルシルクロード』という言葉もあります」
「中国は、中国と直接つながらないところにも海底ケーブルを世界中でいま敷設し始めているんです。例えば、アフリカのカメルーンとブラジルとの間で引かれているケーブル。これもブラジル企業でなくて、中国企業とカメルーンの通信企業がオーナーになっているのです。我々からすると中国につながらない海底ケーブルをなぜ中国企業が持っているんだということが不思議なくらいで、いま中東・アフリカで、中国系の海底ケーブルが出てきているんです」

土屋氏
「ナウルやキリバスというのは外交問題があり、太平洋島嶼国はかつて台湾と国交を持ってた国が多かったわけです。いま中国が外交関係にどんどんひっくり返し始めているところがあり、この援助と一体化して、中国との外交関係を結びたい、結ばせたい、台湾の力を弱めたいという思惑もあるのではと我々は疑っています」

読売新聞編集委員飯塚恵子コメンテーター
「世界で最初に敷設された海底ケーブルは、1850年の英仏間のドーバー海峡でした。19世紀は英国が世界の通信ケーブルの約3分の2を作っていたといいます。海底ケーブルでも英国が当時の最先端をいっていたわけです。世界でグローバルな長距離通信サービスを最初に展開したのはイギリス。地上では、大手電気通信事業者のブリティッシュテレコムなどがインフラを整備し、多くの旧植民地が今もそれを維持しています。イギリスは植民地を失っても、ネットワークは支配し続けてきた。海底ケーブルも、これに貢献していたことになります。これによって各地の通信規格が決まることも重要ですが、大事なのは、通信傍受もやりやすかったとされることです。イギリス政府の情報機関の一つで、通信傍受や暗号解読を行う政府通信本部(GCHQ)があります。世界的な通信インフラを利用し、アメリカよりも早く、世界の広い地域で通信傍受の能力を積み上げてきたと言われています。今、この領域をアメリカと中国が狙っているといえます」

■切断?傍受?「海底ケーブル」をめぐる安全保障の課題とは

海外からのニュースや金融取引、エンタメ、そしてオンライン会議、授業など。あらゆる情報が海底ケーブルを行き来しています。政府は安全保障面でも危機感を募らせています。海底ケーブルを切断するなどして、通信を妨害。また、海底ケーブルと、地上のネットワークの中継地点である「陸揚げ局」のデータの破壊や窃取、監視などが不正に行われる可能性が懸念されています。

右松キャスター
「海底ケーブルを意図的に切断する目的は?どうやって切断されると考える?」

土屋氏
「現在の海底ケーブルはものすごく電圧かかっているものですから、例えば人間がノコギリで切ろうとしたら感電死してしまいます」
「海底ケーブルを切るというのは第1次世界対戦のときからあります。ドイツとイギリスとの間で宣戦布告が行われた瞬間にイギリスはドイツの海底ケーブルを切ったのです。これは相手の情報のルートをコントロールしてしまうということが目的としてあったと思います」「現代であれば、金融取引です。事件が起きたとなると市場が動きますから」

右松キャスター
「有事が発生したときは海底ケーブルも切断されるものだと念頭に置いておくといった防衛上の措置は重要?」

土屋氏
「そうですね。これは第1次、第2次世界大戦の経験から見て、海底ケーブルを切るというのは、最初に行われることだと思います。日本の場合は特に島国ですから危険だと思います」

右松キャスター
「安全保障上の懸念として、海底ケーブルと陸地を結ぶポイントとなる『陸揚げ局』から情報が盗まれるリスクが想定されています。日本の陸揚げ局は千葉県南房総市や三重県志摩市に集中していますが、そもそも陸揚げ局における懸念とは?」

土屋氏
「海底ケーブルそのものに流れているのは光信号です。これを傍受して理解するっていうのはまずできないと思います。そうすると、陸揚げ局の中でデータを処理して、あるいは電気信号に変換してコンピューターで読めるようにすることが必要なんです」
「陸揚げ局の内部は通信事業者が管理しているところですから、そこに政府機関が入ってきて、ということはできないと思います。日本ではやっていませんが、他の国ではそこからデータを分岐させる。光信号のまま、一つは目的地の通信事業者に行き、もう一つはどうも(傍受したい)政府機関に流れてるのではないか、みたいなことが行われているんだと(推測されます)」

右松キャスター
「原子力発電所などのように、陸揚げ局も防護対象に加えた方がいいのでは?」

土屋氏
「その通りなんですけども、各社が相乗りで、ケーブルを作っているわけです。その日本の陸揚げ局でも、外国の事業者の人が入ることができるようになってるわけです。そうすると、なかなか人の管理というのが難しい。そこが課題かなと思います。」

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