“荷物搬送”募集に応募したら、突然“強盗”に変更 「ホワイト案件」から誘い込まれる闇バイトの実態
埼玉県さいたま市・所沢市、東京都練馬区・国分寺市で相次いだ民家を狙った“強盗事件”。このうちさいたま市の事件で逮捕された実行役の男らの供述などから見えてきたのは、SNS上で高額報酬をちらつかせ、犯罪にはあたらない仕事、いわゆる「ホワイト案件」から誘い込み、突然仕事内容を変えるという巧妙な手口だった。(さいたま支局 浅賀慧祐)
■およそ1か月、埼玉・東京で相次ぐ“強盗事件” 闇バイトを通じて集まった匿名・流動型犯罪グループの犯行か
およそ1か月の間に埼玉と東京で相次いだ4件の強盗事件。住民が縛られたり、刃物のようなもので切りつけられたりするなどし、被害者や地域住民の恐怖は計り知れない。
最初の強盗事件は9月18日に発生した。さいたま市西区にある民家に4人組の男が押し入り、高齢の親子を粘着テープで縛るなどしてケガをさせ、現金やクレジットカードなどを奪って逃走した。
さらに、9月28日~10月1日のわずか4日間で、東京都練馬区・国分寺市、埼玉県所沢市と相次いで3件の強盗事件が発生。
いずれも闇バイトで集まったメンバーで構成される「匿名・流動型犯罪グループ」による犯行とみられ、埼玉県警と警視庁は共同捜査を開始。指示役などの特定を進めるとともに、一連の強盗事件の全容解明を進めている。
最初に発生したさいたま市の強盗事件については、10月2日までに実行役の男4人が逮捕された。埼玉県警は、この4人の供述などから「実行役募集から逮捕にいたるまでの経緯」を公表。そこから見えてきたのは、通常のアルバイトに応募したのに、いつのまにか強盗に関わることになる巧妙で恐ろしい仕組みだった。
■実行役募集から逮捕までの経緯 ~実行役4人がすべて逮捕されたさいたま市の強盗事件~
埼玉県警によると、さいたま市の事件で実行役として逮捕された4人が、強盗に関与することになった経緯とは以下の通りだ。(逮捕された4人の供述に基づく)
①SNSを利用して「荷物の搬送」「人を運ぶ仕事」など、犯罪にあたらない仕事、いわゆる“ホワイト案件”に応募する。その際、高額報酬をちらつかせられる。
②秘匿性の高いアプリをインストールすること、そして使用することを案内され、指示役とみられる人物とやりとりを行うことに。
③仕事のための身分確認などを装い、本人確認として顔写真や運転免許証など身分証の画像を送信する。
④仕事の待機場所を指示され、ほかに指示された人物と合流する。
⑤すると、急に仕事内容が変わり、強盗を指示される。
⑥犯罪行為への関与をためらうと、指示役とみられる人物から「個人情報を知っている」「どうなるかわかっているだろうな」「覚悟しろよ」などと脅される。家族などのことを考え、恐怖心から断れず、強盗事件への関与を決断。
⑦強盗事件へ関与。
⑧しかし、事件に関与したことによる報酬を受け取ることもできず、警察に逮捕されることに。
逮捕後は、それまでの生活が一変。自身のスマートフォンなどから、“小遣い稼ぎ感覚”で気軽に始めた行動が、家族を巻き込み、一生後悔することにつながるという。
■小遣い稼ぎが突然、“強盗”の実行役に…入り口は犯罪にあたらない「ホワイト案件」
特筆すべきは事件に関わることになる「入り口」だ。
実行役らは、最初は犯罪にあたらない仕事、という名目で高額報酬をちらつかされ、SNSに応募したとみられている。捜査関係者によるとさいたま市の事件の実行役の中には、「ドライバーの仕事、ホワイト案件」という書き込みにSNSでアクセスしたという趣旨の話をしている者もいるという。
こうして「入り口」に入ると、本人確認として顔写真や身分証の画像を送ることになる。抜け出せないように、名前や住所などを指示役側に“握られる”というのだ。
10月1日に発生した埼玉県所沢市の強盗事件で実行役として逮捕された3人も「SNSで仕事を見つけて応募したが、仕事が変更になり、強盗に加担していた。気づいたときには抜け出せない状況だった」という趣旨の話をしているという。
指示役とみられる人物は仕事の内容が変わった途端、態度を変えるという。その態度は、事件への関与から抜け出せない状況に拍車をかけ、気がついたときにはもう後戻りできない。
所沢市の事件では逮捕された3人のうち1人は、指示役から秘匿性の高いアプリを使った音声通話で「『逃げたら殺す』『逃げてんじゃねえよ』と言われた」という趣旨の話をしているという。
埼玉県警はSNS上での高額報酬をうたうアルバイトの募集の中には犯罪に直結するものがあるとして、広く注意を呼びかけるとともに、もし巻き込まれそうになった場合は速やかに警察に相談するよう呼びかけている。