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「弱い自分が憎い」3歳娘”ネグレクト死 ”母親が吐露した後悔と虐待の過去

2022年2月5日 13:19
「弱い自分が憎い」3歳娘”ネグレクト死 ”母親が吐露した後悔と虐待の過去
裁判には稀華ちゃんが写ったアルバム11冊が証拠として提出された(写真は梯被告のインスタグラムより)

「こんな弱い自分が憎い」。わずか3歳の娘を自宅に1週間以上放置し、衰弱死させた罪などに問われた26歳のシングルマザーは、法廷で涙を流し何度もこう繰り返した。

「人には頼れなかった」という母親。その背景には、自身が過去に親から受けた壮絶な虐待があった。

■愛娘との生活を綴った「のあ日記」

【2016年11月30日】
世界でたった1人の大切な存在に。
華やかで愛される人になってほしいから稀華(のあ)。
ギリギリまで悩んで考えた名前。

【2017年3月3日】
ひな祭り。ごちそう作ったけど、
のんちゃんまだ食べられないけど、来年は一緒に食べようね。
ママ頑張るぞ。

娘との日々を写真とともに記録した1冊のノートが法廷で読み上げられた。
ノートの名前は「のあ日記」。
そこには娘の成長を喜ぶ母親の姿があった。

しかし稀華ちゃんはたった3年でこの世を去った。おととし6月、東京・大田区の自宅マンションでひとり、飢餓と高度脱水症状により亡くなった。わずか3歳の稀華ちゃんを自宅に1週間以上放置し、衰弱死させたとして逮捕されたのは、他ならぬ母親だった。

■3歳の娘を置いて鹿児島旅行に

先月27日、保護責任者遺棄致死などの罪に問われた母親の初公判が開かれた。母親の名前は梯沙希被告(26)。法廷での姿は逮捕時に比べてかなり痩せ、やつれているように見えた。

「一人で生きてくことさえわかんないことだらけだから、のんちゃんを育てていくのはもっとわからなくて全部不安でした」

シングルマザーだった梯被告。夫のDVが原因で離婚した後は、自宅マンションに母娘の2人で住んでいたという。

冒頭陳述などによると、おととし6月、梯被告は交際相手に会いに稀華ちゃんをひとり寝室に放置し、8日間の鹿児島旅行に出かけた。部屋に置いていったのは蓋を開けたペットボトルの水やスナック菓子のみ。鹿児島から帰宅すると、稀華ちゃんの反応がないことに気づく。その後、梯被告は119番通報し稀華ちゃんは病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。

「うちがのんちゃん1人にしたからだ、ごめんねって…どうか助かってくれって思いました」

6月以前にも、たびたび稀華ちゃんをひとり自宅に置いて友人や交際相手と遊びに出かけていたという梯被告。

「家に帰って寝ているのんちゃんを見て、ごめんって気持ちがすごかったです。こんな弱い自分が憎いと思ってました」

法廷で何度も繰り返した「自分の弱さ」。

「人に誘われたら『嫌だ』とか『ごめん』って言えないんです」
「いつも人の顔色をうかがって合わせちゃって。心にある言葉と口から出る言葉が違うんです」

稀華ちゃんをいくら大事に思っていても、人から誘われると断れない――。大人として、母親として、身勝手すぎるといえるこの主張。ただその背景には、梯被告の過去があった。

■幼少期に自分の母親から壮絶な虐待

「イヤだとかごめんなさいって言ったら“おまえとは口聞きたくない”って口を縫われました」

幼少期のことについて聞かれると、梯被告は絞り出すように、かつて自分が母親から受けた虐待について話し始めた。

「気づいたら病院でした。何でここに居るんだろうって」

病院だと気づく前の最後の記憶は、母親から手などを縛られビニール袋に入れられ、自宅の風呂場に投げられたことだった。当時、小学生だった梯被告は、児童相談所の通報によりかけつけた警察に保護された。その後、母親は逮捕・起訴されている。

「人の顔色見て、常に笑って明るくいました。周りの人もみんなお母さんと一緒だと思って、そうしたら何にも言えなくなりました」

遊びの誘いを断ったり、稀華ちゃんを預けるなど人に頼ったりすることはできなかったのか、と何度も質問された梯被告は――

「自分でも何で言えないのかわからないんです。本当はのんちゃんといたいのに、断ろうと思ったら急に怖い気持ちが出てきてしまう」

鹿児島に行ったのも彼氏とその先輩からの誘いを断れなかったからと話し、そんな自分が憎いと繰り返した。

■梯被告と拘置所で約30回面談した社会福祉士は――

梯被告の更正のため、拘置所でこれまで約30回梯被告と面談をしてきた、社会福祉士の橋本久美子さんに話を聞いた。梯被告は最初、橋本さんも驚くほどの“仮面”のような満面の笑みで面談室に入ってきたのだという。

「虐待被害者だから自らも娘に虐待してしまったとは、もちろん言いません。ただ、これまでに『この人なら大丈夫』って大人と出会えていたら、あの子の人生、違ったと思うんですよ」

シングルマザーとして娘を育てるなかで、虐待を受けた自分の親にはもちろん、これまで誰にも頼れなかったという梯被告には「人に頼り、人に相談して良かったという経験が必要だった」と橋本さんは話す。

病院で虐待によるPTSDの診断を受けた後、治療を受けていなかった梯被告。元気な笑顔で面談室に入ってくる一方で、虐待のことに話がうつると急に怯えた子どものような表情になり、ポロポロと泣き出すのだという。

「事件を起こした彼女の心理構造と、環境が影響した人格形成をちゃんと見ていかないといけないと思うんです」

拘置所でも「のんちゃんのアルバムはどこですか」と聞いてくるなど、梯被告が稀華ちゃんを可愛がっていた気持ちは本心だと感じたという橋本さん。虐待された環境で育った人とそうでない人を同じ物差しではかり、バッシングするだけの社会であってほしくないと語った。

■5分にわたり最後に語った後悔

今月1日、判決前の最後の被告人質問で、梯被告は――

「自分がこんなに弱くなければ。のんちゃんの大事な人生を奪って、今までで1番後悔しています。すべて…こんな自分がいけない。のんちゃんがいたから今まで死にたかったけど生きてました。償うためにも、こんな弱い自分から変わりたい」

途中、声を詰まらせながらも、言葉を選びながら5分にわたりはっきりとそう語った。

検察側は、梯被告が常習的に育児放棄を繰り返していたことや、稀華ちゃんをわずか3歳で死なせたという結果の重大さから懲役11年を求刑。一方、弁護側は犯行の背景に梯被告の虐待の過去などがあることを考慮して懲役5年が妥当と意見し、裁判は結審した。

梯被告に科すべき刑の重さは、一般の人から選ばれた裁判員も交え決められる。判決は今月9日に言い渡される。

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