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「自分以外の誰かのために…そして殺処分のない社会に」保護犬・保護猫ボランティアの思い

2023年3月15日 6:15
「自分以外の誰かのために…そして殺処分のない社会に」保護犬・保護猫ボランティアの思い
コロナ禍で癒やしを求めて、犬や猫などのペットを飼い始めた人もいるのではないでしょうか。新しい家族との大切な時間、愛おしい空間はかけがえのないもの。一方でペットと暮らすことには、その命を預かる責任が伴います。保護犬・保護猫のボランティア活動に従事している「HugKu-Me」理事長の牛島加代さんは「誰かのために何かをするということは、自分の心も育んでいる。相手が喜んでいる姿を見て、ともに喜び合うという気持ちを育めると、犬や猫に優しくなれる」と語ります。尊い命を守るために、牛島さんが大切にしている思いとは――。
<取材・文=市來玲奈(日本テレビアナウンサー)>

■「友達だった」野良犬が保健所に…

牛島さんが保護活動を始めるきっかけとなったのは、小学生の時のある経験でした。

「学校から帰ってくるとよく野良犬と遊んでいました。小学4年生の時、友達だった野良犬が保健所に…。犬が殺されてしまうのは悲しい。そういうことがないようにしたい。それで保護活動に参加したいと思いました。ただ、何をしたら参加できるのか分からなかったので、犬のプロになるべくトリマーの道を選びました」

現在は千葉県でトリミングサロンを経営する牛島加代さん。保護犬・保護猫の譲渡先が決まりやすいようにボランティアでトリミングする団体を2013年に設立してから現在に至るまで10年間、活動を続けています。

牛島さんは毎月動物愛護センターへ出向いて、ボランティアで保護犬のトリミングをしています。同時にプロのトリマーにも声をかけて、一緒に取り組んでいます。そのなかで動物愛護センターの収容棟や収容されている犬や猫たちの実態を説明するなど、トリマーに向けて保護・譲渡の啓蒙活動もしています。一方で地域の人たちとの交流会を企画し、保護犬・保護猫の譲渡会なども実際に行っています。2022年3月時点でこれまでに1800頭の保護犬のトリミングをし、300頭以上の犬や猫の保護・譲渡につなげたといいます。

牛島さんによると、動物愛護センターで収容されている犬や猫で目立つのは、“飼育放棄”によるものだといいます。しつけができない、飽きてしまった、引っ越しで飼えなくなった……。そうした理由のために犬や猫が新たに収容され、殺処分数はゼロになってはいません。

■一人一人ができることを持ち寄って

「『一匹でも多くの命を救いたい。でも保護活動って何をしたらよいのか分からない』という人は意外に多い」と牛島さんは話します。だからこそ牛島さんの団体では、掃除・裁縫・移動の際の運転など自分の得意なことを持ち寄って活動することを心がけています。

「保護活動となると、犬の知識や扱い方が分からない、殺処分の現場を見るのは辛い…などとハードルが上がってしまうけれど『それならできる!』ということを私が発信していきます。参加することで変わるし、当事者意識が出てくると思うんです。できることを、できる人が、できる時に持ち寄って何ができるのか考えることが好きなんです」

「これは野良猫用の捕獲器を包むための布です」と可愛らしいイラストが描かれた布を見せてくれました。

「裁縫が得意な方が作ってくださって。本当に素敵ですよね。誰かのために何かをするということは、自分の心も育んでいるんですよね。相手が喜んでくれて、一緒に喜び合うという気持ちを育めると、自然に犬や猫にも優しくなれると思います」

■「地域の中で優しい気持ちを育む」

昨年12月、日頃から保護犬の世話のボランティアをする地域の子どもたちとチャリティークリスマス会を実施した牛島さん。企画から運営まで、子どもたちでおこなったそうです。

「売り上げは保護活動のために使います。自分たちで働いて、お金をお預かりして、誰かのため(保護犬や保護猫)にシェアをしていく。そういう経験をした子どもは大人になった時に動物を虐めたり、安易に飼育したりするような人にはならないと思うんです」

人が社会を作っていき、その中で犬や猫などのペットが飼育されている。だからこそ根本である、コミュニティにおける人と人の繋がりが大切だと牛島さんは話します。

「いきなり社会を変えることは難しいかもしれませんが、未来の子どもたちを教育していくことで殺処分がなくなる社会に、そして優しい気持ちを育むことでいじめのない社会にしたい。地域の中で優しい気持ちを育んでいきたいんです。だからHugKu-Me(ハグクミ)という名前にしました」

■「私はもう自分自身が救われていますね」

「犬と猫を飼うってとても大変なこと。人間はいつか手が離れていくけれども、ペットは一生世話をしなくてはいけない。お金もかかるし、手間もかかる…。でもこんなに純粋に、真心こめて自分のことを100%受け入れてくれる存在はペットだけだと思うんですよね」

牛島さんは自身が続けてきた活動を改めて振り返ると、このように話しました。

「犬って絶対に人を裏切らないし、人に受けた愛情や恩を忘れない。虐待されてきた犬をたくさん見てきて心のケアもしていますが、犬って人を許すんですよ。あんなに殺されかけたのに、あんなに飢えて死にそうになったのに…。命の尊厳すら奪われたのにもかかわらず、人に対して愛情を示せる。命としてこんなに美しいのかと。命が救われて、また人を好きになってくれて、その純粋な気持ちを私たちに返してくれている、本当に美しい物語なんです。私はもう自分自身が救われていますね。本当に楽しいです」

◇◇◇

牛島さんの一つ一つの言葉、眼差しは温かくも、真っ直ぐで揺るぎないものでした。犬や猫の保護活動は身近なようで、ハードルが高く感じてしまうかもしれません。ただ取材を通して感じたことは、「あのわんちゃん、猫ちゃんどうしたんだろう」。この気づきを持てるだけで一歩なのだと。その一歩を次は何に向けていくのか、牛島さんをはじめ多くの苦労を抱えながら活動してくださっている方々に寄り添い、想いを繋いで育んでいくことが大切だと実感しました。牛島さんは今後もチャリティーイベントを予定しているとのことです。(日本テレビアナウンサー・市來玲奈)

【連載企画】『動物とともに生きる、』
コロナ禍で新たに犬や猫などの動物を飼い始める人もいます。ペットは幸せを与えてくれるかけがえのない存在。しかし同時に“命を預かる責任”が伴います。日本テレビ系列のニュース番組『news every.』のコンセプトは「ミンナが、生きやすく」。この連載では、動物とともに生きていくうえでの大切な気づきを取材します。