【首都直下地震シナリオ①】水は?電気は?通信は?・・地震後にライフラインはどうなる?東京都が公表した首都直下地震の新たなシナリオとは
東京都は首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直し、「都心南部直下地震」が起きた場合には約6100人が死亡すると発表しました(2022年5月)。今回の想定では被害の数字だけでなく、地震後に住民がどのような状況に置かれるのか、シチュエーションごとに時系列に沿ったシナリオも示されました。
5回のシリーズで首都直下地震後の状況についてお伝えします。
首都直下地震でライフラインやインフラは果たしてどのような状況になるのでしょうか?その深刻な状況を知って、今から備えておくことが重要です。
■ライフラインは寸断され、被災生活には大きな支障が!!
巨大地震が発生し、東京が大きな揺れに襲われた後は、たとえ自宅が倒壊しなくてもライフラインが大きな損傷を受けて生活に大きな支障をきたすことになります。
■電気は広域で停電し、計画停電が続く場合も!
震度6弱以上の地域では、電柱が傾斜・転倒するうえ配電線が切断されるなどして停電します。
さらに発電所が運転を停止すると、需要に対し供給能力が不足することになってより広範囲な地域で停電が発生。最悪、ブラックアウトになる可能性すらあり、復旧までの期間が長期化する見込みです。地震から1日ほど経つと、非常用電源で電力を維持してきた避難所や各事業所でも燃料が枯渇して停電が拡大します。
一方、電力会社は社会的影響を考慮して、都心の3つの区など首都中枢機能を担う地域などを優先して電力供給を再開しますが、その他の地域では計画停電が行われる可能性があります。
地震から数日経つと、全国の電力事業者間で電力の融通も行われて復旧が進みますが、供給力を超える需要が続いている場合は大規模な計画停電が継続される可能性があります。さらに想定では、発電所等の設備に珍しい希少な部品が含まれている場合、部品調達に数か月がかかり復旧がさらに長期化すると指摘しています。
そして1か月ほどのうちには発電所の多くが復旧し、停電はほとんど解消される見込みです。しかし、発電所を稼働させるには大量の水が常に必要ですが、発電所に水を供給している工業用水が止まったままになった場合、発電所も復旧できないことになってしまいます。
■断水は1か月近く続き、下水管の損傷でトイレも使えなくなる!
上水道は揺れの強い地域や液状化した地域を中心に断水します。管路の被害によって23区部で約3割、多摩地域で約1割の水道が断水する想定です。断水が起きた地域では火災が起きても消火栓などを用いた初期消火が困難となります。給水車や災害時給水ステーションなど給水拠点では給水活動が開始されますが、断水世帯数が多いため水を求める人が殺到して長蛇の列となる場合もあります。
地震から1日経っても断水は継続。さらに、停電エリアでは、被災していない浄水施設でも非常用電源の燃料が枯渇した段階で機能が停止し、断水世帯が拡大して長期化することになります。地震から1週間経っても水道の復旧は遅く、23区部で約2割、多摩地域でも一部で断水が継続しているとしています。
1か月後にはようやく水道管の復旧がほぼ完了して断水は概ね解消される見込みです。下水道も強い揺れや、液状化によって下水管が損傷したり、マンホールが地表に浮上したりなどの被害が発生。都内全体の数%が被害を受けて下水道の利用が困難な状況となります。
下水道が使えなくなると、トイレの使用にも支障が起きます。地震からある程度たつと、停電エリアにある水再生センターやポンプ所などの下水道施設では非常用発電機の燃料がなくなった段階で運転停止となり、下水が使えなくなります。
ようやく1か月後には管路の応急復旧が完了し、下水道利用の制限が概ね解消される見込みです。
■ガスの全面復旧にも1か月ほどはかかる・・・
ガスについては、揺れの大きな地域では安全措置が作動して広域的に供給が停止。「都心南部直下地震」が起きた場合には都内全体で約24%の利用者への供給が停止されるとしています。また、各家庭にほぼ100%設置されているマイコンメーターが震度5弱程度以上の揺れを感知すると自動でガスを遮断します。ガスの供給が停止されたものの被害がないことが確認されたブロックでは、地震発生当日中に供給が再開されます。
しかし、揺れの大きかった地域では建物内や家庭内のガス管が被災している場合があり、一戸一戸個別に安全点検・復旧作業が必要で、多くの利用者がこの作業が完了するまでガスが利用できなくなります。1日から3日が経つと、全国のガス事業者から応援が派遣され、ガス管の復旧が開始されます。ただし、社会的影響を考慮し、首都中枢機能を早期に回復させるための復旧作業が優先的となります。
さらに災害拠点病院、防災拠点などについても、優先的な復旧や臨時供給が行われることになっています。1週間ほど経ってもすべての利用者の安全点検や復旧作業は終了できず、一部の利用者への供給停止が継続し、1か月後になってようやく多くの地域で供給が再開される想定です。
■通信は輻輳(ふくそう)も発生し、安否確認などに支障が!
まずは固定電話ですが、この10年の間に東京の契約回線数は45.6%も減って約半分になっています。その固定電話については、揺れに伴う配線網の被害によって不通となる回線は数%程度に留まると想定されていますが、交換機などが設置されている通信ビルや、橋に渡されている中継伝送路などが被災した場合には不通となる回線が大幅に増加してしまいます。
また、地震後には安否の問合せなどの電話が大量に発生して輻輳(ふくそう)が生じます。警察・消防などの緊急・重要な通信を確保するために、一般の通話は制御されて電話がかかりづらくなります。
そして固定電話での課題が停電です。停電すると電源が必要な電話機(留守番電話・FAX複合機などの多機能電話・光回線を利用した電話など)は使えなくなり、大規模な停電が発生した場合は、電話を使えない地域が大幅に増加してしまいます。安否確認のための災害用伝言ダイヤル(171)、災害用伝言板 (WEB171)の運用が開始されますが、容量に限度があって利用が殺到すると活用できなくなる可能性があるということです。
ただ、日数が経つにつれ徐々に輻輳(ふくそう)も緩和されます。通信の復旧に向けては重要通信を中心としたところから復旧活動が実施されます。そして地震からおよそ1か月後には通信ケーブルの復旧作業が進み、固定電話の通話機能支障は概ね解消されるということです。
一方、この10年で3倍にも契約回線数が増えてきた携帯電話ですが、伝送路の多くを固定電話の回線に依存しているため、電柱や通信ケーブルの被害などによって固定電話が利用困難となる地域では、携帯電話の音声通信もパケット通信も利用できなくなります。
停電については、携帯電話の基地局のほぼすべてに非常用電源が整備されているため、地震発生直後は基地局の機能は維持されます。ただ、災害拠点病院などが立地する重要エリアの基地局では非常用電源が24時間程度確保されていますが、それ以外の地域では非常用電源の容量が少なく数時間後からバッテリーが枯渇して通信ができなくなってしまいます。
携帯電話でも地震発生後にはアクセスが集中して輻輳(ふくそう)が発生し、音声通話はつながりにくくなります。一方、メールや SNS などは機能が継続されますが、サーバーへのアクセスが集中すると、大幅な遅配などが発生する場合もあります。首都直下地震の主な被災地においては、地震発生直後より公衆無線LANのアクセスポイントを無料で開放する「00000JAPAN」の取組が実施され、だれでも無線LANにつなぐことができるようになります。
ただ、停電が起きている地域では設備が停電で動かずに、無線LANへの接続ができない可能性があります。計画停電が実施される場合、基地局の停波やWi-Fi機器の停止によってさらなる通信障害が発生してしまいます。インターネットについても、通信ケーブルや携帯電話基地局が被災した地域では使えなくなります。被災していない地域では、メールやSNSなどのサービスは利用できますが、サーバーへのアクセスが集中すると、大幅な遅配などが起きる場合があります。
1日ほど経つと、都庁や区市町村の庁舎や避難所、人口が集中する地域の一部では、携帯通信会社によって基地局の大ゾーン基地局化や衛星利用型の無線基地車が配備されるなどの対策が講じられ、テキストメッセージ程度の小さい通信量であれば、インターネットの利用が可能になる可能性があります。
■鉄道は1か月後には約6割が運転再開へ
鉄道の被害については、これまでの地震での被害を例にとった想定では、新幹線は線路1kmごとに最大で約5箇所の中小被害が発生。
また、JR在来線や私鉄では都内の鉄道施設のうち最大で約2%で中小被害が発生するということです。揺れの大きかった地域では、鉄橋や高架橋における橋脚の被害のほかに盛土部などで線路の湾曲が発生、さらに液状化に伴う電柱の傾斜や火災に伴う架線の焼失も発生するとみられています。
地震から1週間後には新幹線は全線運行を開始すると想定しています。
一方、JR在来線、私鉄、地下鉄の各路線では、復旧作業が進められるものの、被害の大きな区間を中心に多くの区間で運行停止が継続し、バスによる代替輸送が開始されます。しかし、大量の輸送需要には対応しきれず、出勤困難や帰宅困難の状況が継続します。
そして、1か月後には震度6弱以上の強い揺れが発生した地域でも、約6割の区間が復旧し、順次運行を開始するとしています。ただ、周辺状況も含めどの程度の被害が生じるのか想定が難しく被災状況によっては被害が大幅に増加し、復旧期間が長期化する可能性があるとしています。
■主要道路は緊急自動車専用路となり交通規制へ
道路の被害は「都心南部直下地震」が起きた場合に最も被害が大きくなり、高速道路では都内の橋脚の約9%に中小被害が発生し、一般道路では中小被害が数%発生するとしています。そして震度6弱以上の地域では、道路沿いの建物が倒れるほか、電柱、信号機、歩道橋なども倒壊、火災による交通支障も発生、液状化によって陥没や隆起による段差ができるほかマンホールなどが飛び出してきます。
さらにトンネルの天井の落下なども発生し、至るところで道路が寸断、通行が不能となる想定です。特に木造住宅密集地域では、建物被害が顕著で車両による移動は困難となる見込みです。
緊急輸送道路については沿道の建物の耐震化が進められていて、道路沿いの建物の全壊棟数は都内全体で最大約80棟と見込まれています。特に震度6強以上のエリアでは、特定緊急輸送道路においても沿道で建築物の倒壊が発生して交通支障につながる可能性もあります。
道路の規制も行われます。高速道路は一般車両の流入が規制され、高速道路を走行していた車両は直近の出口から一般道路に出るように誘導されますが、すべての車両が出るまでには少なくとも半日以上かかります。一般道では環状七号線で内側の都心方向に入ろうとする車両は通行禁止となり、環状八号線から都心方向へは車両の通行抑制が実施されます。そして、国道4号、17号、20号、246号、目白通り・新目白通り、外堀通り、高速自動車国道・首都高速道路などが「緊急自動車専用路」となり、一般の車両は通行できません。
数日後には主要な道路は一部の区間を除いて応急復旧が進み、緊急輸送道路は概ね通行できるようになります。しかし、通行できるのは緊急通行車両の標章が交付されている車両だけで、民間企業の活動再開の本格化を踏まえて緊急通行車両標章発行の対象となる車両が徐々に拡大されます。
1か月後になっても生活物資・復興物資の輸送の円滑化のため、国道などでは一部区間で 交通規制が継続します。区市町村道や生活道路では、道路の復旧作業が継続する想定です。
■燃料不足が深刻化する恐れも
地震で製油所や油槽所が被災し、ガソリンなどの石油燃料が不足することが見込まれています。製油所の大半はある程度大きな揺れによって緊急停止します。東京周辺の製油所が稼働を停止した場合、都内への供給が滞ることになります。
さらに沿岸部の埋め立て地に立地する油槽所では、揺れや地盤の液状化などで船舶の接岸が困難となり、燃料の出荷や受入機能が停止してしまいます。ガソリンスタンドでは地震発生直後、設備の倒壊や損壊などにより営業不能となるところがあります。
また、大規模停電が発生した場合は、自家発電設備を備えていない給油所では給油が行えなくなります。1日から3日経つとタンクローリーやタンカー、鉄道によって被災地に向けた燃料の輸送が開始される見込みですが、被災状況によっては燃料の到着までにかなり時間がかかることになります。場合によっては災害対応車両への燃料が不足する事態も覚悟しないといけません。
停電が3日間以上続いた場合には、災害拠点病院などの非常用電源の燃料や暖房用灯油が不足し始めることになります。燃料の在庫切れや給油が滞ると、自動車だけでなく暖房設備や給湯機器なども動かなくなります。そして避難所などへの物資輸送や、被災施設などの応急復旧作業を行う車両の燃料が不足し始め、トラックなどの燃料も不足して物流が停滞・遅延することになります。
ガソリンスタンドには長い行列ができますが、なかなか給油してもらえない状況になります。自宅が被害を受けなかった人たちにもこうしたライフラインのストップや燃料不足は重くのしかかり、物流がストップすることで食料品などの必要な物が入手できない事態が起きてしまうのです。
こうして物資不足の状況が継続すると、先行きへの不安などから、過剰な買い溜めなどが発生し、物資の不足に一層拍車がかかることになると指摘しています。