なぜいま再稼働?福島の教訓は?記者解説
川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1号機について、九州電力は11日午前、原子炉を起動し、再稼働した。福島第一原発の事故後、新しい規制基準の下で全国初めての再稼働となる。社会部原発班・小林史記者が解説する。
Q:新基準で初の再稼働となったが、福島の事故の教訓は本当に生かされているのか?
A:まず、設備の安全性については、地震や津波対策が大幅に強化され、メルトダウンなどを想定した対策や訓練も新たに取り入れられました。その意味では、福島の事故前と比べれば原発内部の安全性は一定の改善が見られていると思います。
Q:九州は火山の多い地域だが、火山噴火への備えについては?
A:火山への対策について、原子力規制委員会は「火山の様子を監視していれば巨大噴火の兆候は捉えられるので、その時点で原発を止めて燃料を運び出せばいい」との考えを示していますが、その兆候をどう捉えるのかは詰め切れていないままなんです。
Q:ほかにも安全性での課題はあるのか?
A:原発の外側、つまり事故が起きた際の住民の避難についてはまだまだ課題が山積しています。例えば新たな避難計画はできたものの、これが審査の対象にはなっていません。そのため、いざという時に本当に機能するのかどうか責任を持ってチェックする仕組みがないんです。本来なら、再稼働前に避難訓練を行って実効性があるかどうかを確認すべきですが、訓練は再稼働の条件とはなっていないため、後回しにされてしまいました。
さらに、寝たきりのお年寄りや入院患者など自力で避難することができない人たちについては、あらかじめ病院などの受け入れ先を決めることになっています。しかし、事前に受け入れ先が決まっているのは10キロ圏内の人たちまでなんです。10キロより外側に住むお年寄りなどの実際の受け入れ先については、避難が必要になってから決めるということになっているので、混乱が予想されて不安だという声もあるんです。こうした点を見ると、「住民の避難」については教訓が生かされたとはやや言い難い状態だと思います。
Q:そんな状況の中、なぜいま再稼働に踏み切るのか?
A:政府は「基準を満たした原発は再稼働する」という大方針を掲げ、審査に合格して地元の同意を得られた原発は粛々と再稼働していくというスタンスなんです。ただ、福島の事故で私たちが身にしみて学んだことは「想定外の事故は起こりうる」ということでした。そうしたリスクを負ってでも再稼働することのメリットは何なのか、政府のいまの説明だけでは国民の理解が得られているとは言い難いと思います。