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「観光立国」実現への課題

2016年1月2日 23:09

 去年1年間に日本を訪れた外国人旅行者数は、先月19日時点で1901万人を突破した。これは、3年前の2012年の倍以上の人数で、ビザの緩和や免税制度の拡充などが功を奏したためとみられている。

 最も多いのは中国からの旅行者で、彼らが大量購入する様子を表した「爆買い」という言葉は、流行語大賞を受賞した。こうした中、外国人旅行者が日本で消費した「旅行消費額」も伸びていて、去年1年間では3兆円中盤に迫るとみられている。

 さらなる消費拡大に向け、2016年度からは、免税対象となる一般物品の購入額が半分の5000円に引き下げられるほか、免税店から海外の自宅へ直送する際の手続きの簡素化が始まる。

 一方で、外国人旅行者の急増に伴い、多くの課題も浮き彫りになっている。


【受け入れ態勢の整備】
 「ホテルの予約がなかなかとれない」と感じたことはないだろうか。外国人旅行者の急増を背景に、人気の高い観光地では宿泊施設不足が起きている。札幌、東京、大阪、京都などでは稼働率が9割を超えるホテルもあり、国内の観光客やビジネス客が宿泊先の確保に苦労するケースも増えている。

 そのため、国は、自宅やマンションの空き部屋を外国人旅行者に有料で貸し出す「民泊」の検討を進めているが、旅館業界からは「旅館業と同様に厳しい規制を適用すべき」との意見も出ている。

 一方で、既存の旅館の生産性を向上させるため、国は「旅館の経営者の人材育成」「外国人にとって不慣れな和式トイレの洋式化」「国際放送を見られるよう放送設備を整備」などの旅館の取り組みへの支援を強化することにしている。


【地方への呼び込み】
 また、国が重視しているのが地方への呼び込みだ。外国人旅行者の旅先は「ゴールデンルート」と呼ばれる東京、大阪、京都などに偏る傾向にある。特に、東北地方ではいまだに東日本大震災の影響で外国人旅行者数は落ち込んだままだ。

 しかし、観光による地方活性の面でも、外国人に訪日のリピーターになってもらう面でも、彼らをいかに地方に呼び込めるかが課題となっている。

 こうした中、観光庁では「地方でストーリー性を持ったモデルルートの策定」「外国語の表記が不十分な観光地の案内板など多言語対応の支援」などを進め、新たな旅行需要を作ろうとしている。

 また、高速バスも低価格で良質な交通サービスとして注目されており、今年春には新宿南口に1日のバス発着便数が約1600という国内最大のバスターミナルが開業予定となるなど、インフラ整備も進んでいる。


【インバウンドとのバランス】
 その一方で、日本から海外に出かける人の数は伸び悩んでいる。去年は円安基調を背景に海外旅行を控える日本人が多く、特にこれまで人気の高かった中国や韓国は、反日ムードやMERS(=中東呼吸器症候群)の影響などから旅行者数が落ち込んだ。

 また、フランス・パリで起きた同時多発テロの影響も受け、1970年以来、45年ぶりに出国者が外国人旅行者数を下回る見通し。

 しかし、旅行を通じてその国の人や文化と接することで他国への理解が深まり、国際感覚も向上するとされる中、田村観光庁長官は「観光は貿易と同じでバランスが大事。2016年はインバウンド(訪日外国人旅行者)だけではなく、アウトバウンド(日本人の海外旅行)もいかに伸ばすか、官民挙げて取り組まなければならないという年だ」と述べている。

 これまで政府が掲げてきた「2020年までに訪日外国人旅行者数2000万人」という目標。来年にも達成が視野に入ったことから、政府は安倍首相を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を立ち上げ、今年度内に次の目標と必要な方策をまとめる方針。