どう防ぐ?高齢ドライバーの交通事故
2016年に相次いだ高齢ドライバーによる悲惨な死亡事故。近年、交通死亡事故件数そのものは減少しているが、75歳以上の高齢ドライバーが起こす死亡事故件数は減っておらず、ここ10年、毎年400件以上発生している。2017年は高齢ドライバーによる交通事故を減らすための取り組みが強化される。
■現状と実際の事故事例
警察庁によると、75歳以上の運転者10万人あたりの死亡事故件数は9.6件で、これは、75歳未満のドライバーと比べ2倍以上。他の世代と比べ、なぜ多いのか。高齢になると認知能力や判断能力が衰え、若い人よりも突発的なことに対処しづらくなるとされている。
2016年10月には、神奈川県横浜市で87歳男性の軽トラックが小学生の列に突っ込み、男の子1人が死亡。11月には東京・立川市で83歳女性が運転する車が暴走し、2人がはねられ、死亡した。それぞれ、ドライバーには認知症の疑いやブレーキとアクセルを踏み間違えた疑いがある。
■制度上の対策強化は
相次ぐ事故を受け、政府は2016年11月に関係閣僚会議を開催。安倍首相は「今後、高齢運転者の一層の増加が見込まれる」として、取り得る対策を早急に講じるよう指示した。
75歳以上の免許保有者の数は増加傾向にあり、2015年には480万人と10年前の約2倍。車は、高齢者にとって生活に不可欠な移動手段となっているのが現状。
2017年はまず、認知症対策が強化される。3月から改正道路交通法が施行され、75歳以上の高齢ドライバーは、免許の更新時の検査で認知症の恐れがあると判定されると医師の診断が義務づけられ、そこで認知症と診断されると免許取り消しなどの対象となる。また、認知機能の検査は免許の更新時だけでなく、逆走や信号無視などの違反行為をした場合も、新たに義務づけられる。
また、全国の警察で進めているのが、運転の自信がなくなった場合など免許証を自主的に返納する『返納制度』。返納を促すため、免許を返納した高齢者には各自治体でバスや電車の運賃の割引サービスなどを実施しているが、課題になるのがこうした公共交通機関がない過疎地。このため、国は、過疎地での自動運転サービスの導入を検討していて、2017年度には、過疎地で道の駅を拠点にして集落を結ぶ自動運転バスの実証実験が行われる。
■自動車の技術面でも取り組み促進へ
車の技術面では、自動ブレーキの開発・普及も死亡事故の減少につながると期待されている。2016年は、各自動車メーカーが開発中の、歩行者が出てくると自動的に止まるブレーキの性能について、初めて、評価試験が行われた。歩行者を認識して停止する技術は、車両に対応するものよりもハードルが高く、ようやく導入が進んできたところだ。国土交通省は、各メーカーの性能を評価して点数を公表することで、技術の開発・普及を促進することを狙っている。
また、車の中でも特に高齢者が多く乗っているのが軽自動車。軽自動車ユーザーの3割余りが60歳を超えており、国交省は「対策が急務」として、軽自動車メーカー4社に2017年2月末までに技術開発に加え、ソフト対策をとりまとめるよう要請した。オプション購入となっている自動ブレーキやペダル踏み間違い防止装置などを普及させるため、販売店から消費者に積極的に購入を働きかけるなどのメーカーの自主的な取り組みを促す狙いがある。
その他にも、すでにある技術の活用も検討されている。例えば、ドライブレコーダーを使うことで高齢者が運転中の自分の様子を客観的に振り返る仕組みをつくれないかといった案も出ている。
政府は2017年6月をめどに、高齢者の事故防止について総合的な対策をとりまとめる方針。