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【農福連携】誰もが働くことの“喜び”を

2017年2月23日 18:06
【農福連携】誰もが働くことの“喜び”を

 「農福連携」―農業と福祉とが連携することを表す言葉で、簡単に言うと「障害のある人が農業に携わる環境をつくる」ことだ。

 農林業センサスによる農業の働き手の推移を見ると、高齢化が進んでいるため1995年には414万人だったのが、2015年には210万人と、20年間で約半分にまで減っている。

 一方で、障害者は働きたくてもなかなか働く場が見つからず、仕事に就けたとしても賃金が低いという状況がある。

 そこで「人手が欲しい農業」と「働く場と賃金の向上を求める障害者」がそれぞれの課題を解決するため、「障害のある人が農業に参加できる環境をつくろう」というのが今、注目されている農福連携という取り組みだ。


■農福連携に積極的な自治体

 諏訪中央病院・鎌田實名誉院長は先週、農福連携を積極的に進めている北海道芽室町を取材した。

 鎌田さんが訪れたのは、4年前に設立された「九神ファームめむろ」。調理場の中では、知的障害や発達障害のある人たちがジャガイモの皮むき作業をしていた。

 九神ファームめむろでは、障害のある20代から60代の24人が働いている。春から秋までは農地でジャガイモなどを栽培し、収穫。さらに、皮むきや芽取りなどの加工をして総菜メーカーへ販売している。加工作業も組み合わせることで、1年中働くことができる職場になっている。

 発達障害のある山本雄大さん(21)は1年半、一般企業で働いていたが、2か月前から九神ファームめむろで働くようになった。

 九神ファームめむろは、一般企業などで働くことが難しい人と雇用契約を結んで、就労の機会を提供して職業訓練を行う事業所で、ここで働く人の多くは一般就労を目指している。

 一般就労の夢をかなえたうちの1人が、パック詰めされたジャガイモの検品作業を担当していた、知的障害のある森寛幸さん(27)だ。森さんは九神ファームめむろで4年くらい働いているが、今年4月から役場で働くという。


■「すみません」も言えなかった子が…

 九神ファーム支援員・古御堂由香さん(41)に話を聞いた。

 鎌田さん「この仕事やっていて、古御堂さん自身はどう?」

 古御堂さん「成長を間近で見ていられるってとてもうれしくて、『すみません』も言えなかった子が、今じゃ電話がかかってきたら、電話を受けてメモをとって、私が帰ってきたら引き継ぎもしてくれるくらい、しっかり働く人になってくれています」

 「障害のある人も安心して暮らせる町にしたい」という芽室町の町長に話を聞いた。

 芽室町・宮西義憲町長「私たちの仕事は、義務教育が終わったらあとは離れる。家庭で引きこもる子もいらっしゃる。だったら、就労をまず支えてあげようと」

 芽室町での障害者の働く場は、農業や食品加工だけにとどまらない。1年半前に造られた食堂「ばぁばのお昼ごはん」でも、障害のある人が調理や接客などをしている。

 このお店で鎌田さんと宮西町長が昼食を共にした。鎌田さんが注文した「しょうが焼き定食」の付け合わせのポテトサラダには、九神ファームで栽培・加工されたジャガイモが使われている。

 この日、接客を担当していた、知的障害のある粟野友美さん(29)はかつて、九神ファームの食品加工場で働いていたが、半年前から一般就労となり、この食堂で働いている。

 鎌田さん「お店に出ている時はどう心がけているの?」

 粟野さん「とりあえず、笑顔であいさつしようと。あと、ホール(スタッフ)のフォローをできる範囲でやろうかと」


■“福祉”をこえて

 鎌田さんは取材中、こんな話を聞いた。障害のある人がどうしても仕事を休まなくてはいけなくなり、「僕が休むと会社が潰れちゃう」と泣きながら電話をかけてきたという。そんな熱い思いで働いている子がいることに驚いた。

 障害のあることは決して特別なことではなく、それぞれの個性だ。定食屋で働いていた女性は子どもが入ってくると、子ども用の椅子、スプーンとフォークをさっと出していた。

 一人一人の個性を生かすことが事業所自体の売り上げにもつながっていく。これからは、福祉という枠組みをこえた取り組みが大切なのではないか。

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