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アルビルで医療受けやすく…病と闘う子ども

2017年3月30日 18:41
アルビルで医療受けやすく…病と闘う子ども

 諏訪中央病院・鎌田實名誉院長は、イラク北部にあるクルド人自治区の中心都市・アルビルを中心に、小児がんの子どもたちを支援する活動を行っている。

 アルビルは比較的安全で多くの避難民を受け入れているため、病院の薬が底をついてしまったり、本来、入院させなければいけない患者を受け入れたりできない状況が続いている。

 そこで鎌田さんはNPO法人のスタッフと一緒に、患者が少しでも医療を受けやすい環境を整えたいと、ある取り組みを始めた。

 アルビルにあるナナカリ病院。イラク軍が過激派組織「イスラム国」から奪還作戦を続けているイラク第2の都市・モスルから、多くの患者が押し寄せている。

 そのため、病院を訪れる小児がんの子どもや家族の中には、入院する事もできず、病院の待合室や廊下で寝泊まりする人もいる状態だ。

 そこで、鎌田さんが代表を務めるNPO法人「JIM-NET」は、病院の近くに一軒家を借り、生活や治療に困っている患者の家族が気軽に相談できるサポートハウスを造った。

 この日、相談に訪れたのは去年11月にモスルから避難してきた親子。白血病と闘うマイサムくん(2)は現在、病院から約25キロ離れた親戚の家で暮らしている。

 父親は働く事ができない中、病院までの交通費が負担になっているという。さらに、イラクの国立病院では医療費は原則無料だが、薬不足が続く中、患者を持つ家族は、足りない薬は自分で買うしかないのが現状だという。

 鎌田さんは、薬が不足しているというナナカリ病院へ向かった。待合室で、診察を終えた親子と出会った。腎臓がんと闘うワリードくん(3)とその父親だ。

 診察の結果、ワリードくんは、この日から入院する事になった。

 ワリードくんの父親「モスルの病院で薬がなくなってしまい、この病院へ来ました」

 ただ、ワリードくんの主治医に話を聞くと、ナナカリ病院にも治療に欠かせない抗がん剤は残っていなかった。

 鎌田さん「ずっと(薬は)足りない?」

 ワリードくんの主治医「はい。足りていません。足りない薬は、患者さんが外で買わなければいけないんです。薬が全てそろっていないんです」

 しかし、ワリードくんの父親には、薬を買うお金はない。鎌田さんは急きょ、薬代を援助する事を決め、町の薬局へ向かい、ワリードくんに必要な薬を調達した。

 ただ、もうひとつの問題が。病院では、母親は子どもの病室に寝泊まりする事ができるものの、父親が泊まる場所はない。そこで、鎌田さんのNPO法人が運営する宿泊施設へ。病院の近くにあるホテルの2部屋を借り上げて、泊まる場所のない患者の家族に提供している。

 鎌田さんは、日本の外務省からの支援を受けて小児がんの相談所や宿泊施設を造っているが、救える命ばかりではない。マイサムくんの父親は、アルビル郊外の小さな家に15人もの親戚と一緒に暮らしているが、満足な治療も受けられず、親戚の5歳の子どもを白血病で亡くした。

 イラクはかつて、中東の中では医療先進国だった。マイサムくんの父親は「戦争がなければこんな事にはならなかったのに」と涙ながらに話していた。

 「希望の芽を育てる」―何人もの子どもが命を落としているイラクでは「子どもたちを助けたい」という思いに賛同してくれる現地のスタッフが大勢働いている。中には、シリアから避難してきたスタッフもいる。

 薬もない中、病気と闘い続ける医師もいる。鎌田さんたちは、こうした“希望の芽”を大切にしながら、戦闘の影響で十分に医療の受けられない子どもたちを1人でも多く救いたいと思い続けている。