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【若者のメンタル】新生活×春バテで疲れた心「五感を活用」でパワー回復

2023年5月5日 15:00
【若者のメンタル】新生活×春バテで疲れた心「五感を活用」でパワー回復
日常生活のなかで意識的に五感を使うことがマインドフルネスに効果的だという

新学期や新生活で溜まった心の疲れが出やすいこの季節。10代~20代前半の若者は、子どもから大人へと成長していく過程で心の不安を感じやすいため、いっそう注意が必要です。いつもより心のパワーが弱まっていると感じたら、どうすればいいのでしょうか。
東洋大学の学生相談員として約20年間、学生のメンタルケアに取り組んできた臨床心理士の、鳥井いおり相談員に話をききました。

■「作られた自分」から「本来の自分」へ 成長過程で心のパワーが不足しやすい「青年期」

今年の4月は、新生活の緊張感に加え、寒暖差の影響で自律神経が乱れ倦怠感などの症状が現れる「春バテ」の影響を受ける人も少なくありませんでした。5月を迎えた今、例年以上に心の疲れがたまっているかもしれません。

とくに、10代~20代前半ごろは、それまで周囲の大人の影響を受けながら作られてきた自分から、「本来の自分」「新しい自分」へと変わっていくときです。このような時期は心理学では「青年期」と呼ばれ、心のパワーを消耗しやすいとされています。

そのため、良好なメンタルヘルスを保つことは、「本来の自分」「新しい自分」に変わるための大きな力となります。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「周囲の人と自分を比較して『うまくいかない』『やる気が出ない』など悩むことや、『自分はどのような人か?』『今のままの生活でいいのだろうか?』など、自己への戸惑いや漠然とした不安を感じることも、けっして特別なことではありません」

そんな青年期の悩みや不安と向き合い、カウンセリングやグループ活動を通じてメンタルケアをしてきた鳥井相談員。
「イライラしたり、落ち込んだり、無気力になることも、自分の感覚の一部」と話し、ネガティブなものとして無理に取り除くのではなく、一度受け入れてみることを促しています。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「自分自身の感覚の一部として受け入れてあげましょう。いつもと違う自分の状態や気持ちは、何らかのサインであり、内側の声に気づくことが大切です」

自分の心が出している「声」をしっかり聞くことで、自分のことをより深く理解することができ、“心のパワー不足”であれば、休むとか相談機関に行くなどのアクションに繋がるということです。

■青年期の戸惑いや不安とどう向き合う?五感フル活用で今に集中する「マインドフルネス」

さらに、鳥井相談員がすすめるのは「今に目を向ける」ということです。

過去のことを悔やんだり、予測できない未来のことを想像したりすると、余計な焦りや不安が大きくなってしまう可能性があります。そんなとき、「今、自分が感じていることは何か」「今ここにあるものは何か」を確かめることで、焦りや不安をやわらげることができるのです。

このようにして気持ちを落ち着かせるプロセスを、「マインドフルネス」といいます。

マインドフルネスを実践するときに大切にしたいのは、“感覚”です。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「ものの考え方や信念はそんなに瞬間的には変わらないんです。それよりも、その時の感情や気持ちの方が変化しやすい部分でもあります。なので『今の“感覚”』というところが、瞬間的にその人が感じていることに一番近いです」

もし、何となく不安、とかちょっと疲れているなと感じたら、頭で考えるより、マインドフルネス、つまり「今の“感覚”」に注目してみましょう。特別なことではなく、日常生活の中でできることがあります。

鳥井相談員によると、

●食事をいつもより味わう
●季節の花や空を眺める
●風の強さを感じる

など、意識的に五感(見る、聴く、においをかぐ、味わう、触れる)を使うのが効果的だということです。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「日頃はあまり気にすることのない感覚を大切に、五感をフル活用させてみましょう。こうした体験を積み重ねることで、『自分らしさのパワー』を少しずつためて、健康を守りながら、活力を取り戻していくのはいかがでしょう」

日頃から、ふとしたときに空を眺めたり、風を感じたりして、「今の“感覚”」に目を向けてみるのもいいかもしれません。そうした中で、何となくいつもと感じ方が違う、普段よりも調子が良くないと感じることがあれば、決して無理せず、心地よいペースを大切にしましょう。

ルーティーンや頑張ろうと決めたことがあっても、無理に守らなくていいのです。

■「気持ちを言葉にできない…」だからこそ、一緒に向き合ってくれる専門家がいる

「マインドフルネス」の実践などをサポートしてくれるのが、鳥井相談員のような専門家です。
自分の気持ちをうまく言葉にできないからといって、相談をためらう必要はありません。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「感情を表すにも、色んな表現方法が実はあるんですね。だけど、普段それに慣れていないから、少しずつ質問しながら細かく聞いていきます。大体の学生さんが『自分話し下手なんです』とか、『うまく話せないんです』と言います。『それでいいんだよ』というところで、一緒にお話ししていくので大丈夫です。それでも一回(相談に)行ってみようっていう気持ち、それでもう十分大事だよって思います。私たちはお会いできたことをすごくありがたいな、と感じます」

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相談できる機関

●学生向け
「こころもメンテしよう」困ったときの相談先(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/

●働く人向け
「こころの耳」相談窓口案内(厚生労働省)
https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/

■悩んでいる人が身近にいたら…サポートは「あいさつ」から

一方で、身近な人の「元気がないのかもしれない」と感じたら、何かできることはあるのでしょうか。

鳥井相談員によると、最も基本となるのは「あいさつ」です。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「あいさつは、『自分はここにいるからね』と存在を表現する手段でもあります。もしかしたら相手は『一人にしてほしい』と思い、あなたにそう伝えることもあるかもしれません。その際には『何かあったら言ってね」と伝えればオッケーです。あなたがそこにいる、と相手がわかるのは、それだけでとても大きいことです」

とはいえ、誰かのメンタルが気になった時も、決して抱え込みすぎないでください。

臨床心理士・鳥井いおり相談員
「自分自身が精いっぱいなときもあると思うので、そういうときは専門家を紹介するということも大切です」

学業や部活動、仕事などに向き合いながらも、新しい自分を作っていく「青年期」。
つかれたときには少し立ち止まって、自分に優しく、パワーを補給してみませんか。