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親はなぜ叱る…?  “叱る依存”を脱するには…臨床心理士に聞く

2023年5月4日 19:42
親はなぜ叱る…?  “叱る依存”を脱するには…臨床心理士に聞く
臨床心理士 村中直人さん

人は叱られても、実は効果や学びはなく、ただ恐怖から逃れるために、その場の行動を変えているだけだと、臨床心理士の村中直人さんは解説する。

そもそも人には「規範から外れた人を叱りたい」という”処罰欲求”があり、叱る側は快感を得て、どんどんエスカレートして「叱る依存」になることも。どうすればいいのか?『<叱る依存>がとまらない』という著書もある、臨床心理士・村中直人さんに聞いた。

◆叱られても成長や効果はない?

まず最初に知っていただきたいのは、相手のためと思って叱っても、叱られた側の学びや成長の効果は期待できないどころか、ほとんどないと言ってもいいということです。

重要なのは、実際は効果がないが、その場では叱られた側の行動が変わって、非常に効果があるように見えてしまうことです。叱られた側はすごくストレスがかかる状態です。動物でいうと襲われた状態で、深く考えていたら殺されてしまうので、もう何も考えずに「逃げるか」「立ち向かって戦うか」をすぐに選ばなきゃいけないんです。

なので、叱られたお子さんは行動が早くなり、戦うだったらすぐに反抗するし、逃げるだったらとりあえず言うことを聞くことで恐怖、ストレスから逃げるわけです。

本当の意味で学ぶことが難しい状況を作ってしまっている。だから何度叱られても、結局同じことをする。 叱る側は、これだけ叱っても何でわからないの?とすごく不満を感じる。

なお、この場合の「叱る」とは言葉を使って、恐怖、不安、苦痛などネガティブな感情を与えることで、相手の行動を変えよう、コントロールしようという行為を指しています。

感情的に怒るか、相手のためを思って冷静に言うかといった「叱る側」の感じ方ではなく、言われた側が恐怖や苦痛などネガティブな感情を持つどうかです。

◆人には「叱りたい」欲求がある

きつく言って相手にストレスをかけると、すぐに相手の変化がみられる。これは叱る側にとって成功体験、ものすごいご褒美なんですよね。心理学用語で言うと自己効力感。さらにもう一つすごく大事なご褒美があって、「処罰感情」を満たすことなんです。

悪いこと、規範から外れたことをしている人を見ると、罰を与えたい、苦しめたくなる欲求が人にはあることが知られています。

ある研究では、悪いことをした人をみて、罰を与えたいと思っている状況では、脳の中のドーパミンというものを出す回路が活性化しているというデータもあります。 もう脳レベル、生理的なレベルの欲求だということですね。

人は赤ちゃん時代からこの欲求を持っているとも言われている。叱るという行為には、その処罰したい欲求を満たす側面があるわけです。

◆叱る依存とは…

子どもが叱られることに慣れてくると、親が期待するような反応をしなくなるのはよくあることで、すると、叱る側はさらにもっともっとと強く言う悪循環に陥る。エスカレートして叱らずにはいられない、私はそれを「叱る依存」と言っているんですが。元々依存症と言われているものは、なんかすごく苦しみを抱えている人が、苦しみから解放された体験をした時に、その「苦しみから解放してくれたもの」に強く依存していくと考えられています。

だから叱るという行為に関しても、親御さんがすごく余裕がない時、「なんでこんなことするの!」と叱って、自分がそもそも抱えている苦しみをちょっと忘れられる、解放されるような体験をされる方が多いと思うんですね。それが強烈にその次の叱る行為をうみ、はまっていくパターンじゃないかなと思います。

◆では、どうすればいいのか?

ますは、叱る自分や叱ってしまっている人を叱らないでください。先ほど、お話ししたように「叱る」には、学びや成長を促進する効果はないので、自分で自分を叱っても成長しないし学ばない。

では、どうするのかというと、気がついたら叱らなくなっていた、を目指すのがいいかと。「今日も叱ることを3回も我慢したぞ」とやって、成功した人をほぼ見たことがないです。

大事なことは、叱りたくなるような状況自体をどうやって減らすのか、私は「前さばき」と呼んでいますが。一番のコツは、予測力を高めること。どのタイミングで何について怒るだろうかと予測をする。そうすると、叱る自分を客観的に見ることができるようになります。それで実際叱っても全然OK。自分が予測してない場面で叱ることを減らしてほしいです。

例えば、毎朝「用意するのが遅い」と親が怒る、口げんかになるとしたら、親子で話し合って、前の晩に準備してみるとかね。忘れ物が気になるなら、忘れ物をしても問題ないように、学校にも聞いて、学校と家の両方に必要なものを置くなど、叱らなくて済む状況、環境を整える。

さらに、お子さんが「しない」のか「できない」のかを見極めてほしい。親からみて「やる気がないんだ、まじめにやってない」とものすごく叱りたくなる場面でも、実際にはできないんだってこともある。どうやったらできるようになるか、親子で話し合う。そういう会話が増えるほど、だんだんと「叱るを手放す」に近づいていくかなと思います。

◆「家族会議」がおすすめ

この話し合いは問題が起こる前の段階でおこなう「前さばき」がいいのですが、よくあるのは問題が起きた後に、がみがみ言いながら、どうしたらいいか話そう、と、つまり「後さばき」になってしまうことです。

叱られる状況では、子どもは苦痛から逃れようと必死で、理解力が下がっていて、まともに考えるはずがないんです。そこで、おすすめは「家族会議」です。問題があろうがなかろうが、例えば月2回とか週に1回、家族がお互い気持ちよく過ごすために率直に話す時間を作る。

「朝に親子喧嘩多いよね、お互いしんどいよね、どうしたらいい?」「誕生日のケーキどうする?」などと知恵を出し合う。お子さんからは、例えば小遣い増やす要求とかもあるかも。幼い頃から自分の意見を言って、尊重された経験を重ねる。苦しみを与えて人を変えようとする価値観ではなく、意見を聞いてもらえる中で育つと、自ら考えられる人になるんです。

◆人は苦しまないと成長できないのか?

「人は苦しいことをしないと成長できない」という考え方があります。困難を乗り越えて成長していくという側面自体はあります。でも、例えば私はこうなりたいと思う中で、乗り越えるべき困難だから、その人の力になるわけです。

表面だけを捉えて、こいつは苦しみがなきゃだめなんだと誰かが理不尽に苦しみを与えて、乗り越えろ!みたいなやり方は、ほぼ役に立たないというか、むしろ害、つまり自分で考えて動く力をものすごく奪うんです。

◆叱られ続けると「チャンスの扉」を開けられない子に

同じ苦痛を体験しても、それが逃れられない理不尽なものか、自分の行動次第で解決できるものなのかによって得られる体験は全く別になる、と言われます。

よく知られた犬の実験があります。かわいそうなんですけど、犬に電気ショックを与える実験で、一つのグループでは、電気ショックを止めるレバーが実は存在していて、犬がそれを探して操作したら電気ショックを止められる、別のグループの犬は自分ではショックを止められない、つまり一方的に与えられる苦痛、自分ではどうにもならない、という設定です。

次に、その犬たちを箱にいれて脱出することを求めると、全く違う結果になった。自分ではどうにもできない苦痛を与えられた犬たちは、その箱から逃げ出そうとしなかったんですよ。逃げ出そうとしてうまくいかなかったんじゃなくて、そもそも逃げ出そうとしなかったっていうのがすごく大事なところです。

子どもに当てはめて言うと、大人が「叱る依存」の状況、「これができてないんだから苦しみを与えてやる」「お前のためなんだ」と一方的に苦痛を与えて、子どもは苦痛を解除するレバーを与えてもらえなかった状況ですね。

その場合、例えば大学生とか社会人なって急に「さあ、あなたの個性が求められます」「主体的にどんどんチャレンジしていきましょう」 と言われても動けない。

私は「チャンスの扉を開けなくなる」と言うんですけど、その子の目の前にチャンスの扉を設置して、あとは扉を開ければいいだけ、開ければ新しい世界に飛び出せますよ!とお膳立てしても、箱から逃げ出そうとしなかった犬と同じで、そこから動けなくなってしまう。こういったことが、叱られ続けた子のその先には待っている。

だから、もっと早いタイミングで、先ほどの家族会議で意見を相互に聞きあうもそうだし、いろんなチャンスの扉を開ける体験をしてもらう。失敗してもいいよ、自分が決めて自分でやったらうまくいかなかったなと、安心して失敗できる体験を、子どものうちにどんどん積んでおく必要がある。そうするとだんだんセルフコントロール、これで失敗したから、次はどう振る舞えばうまくいくのか、など学んでいくんですよね。

幼い時に「好きなことは後でなんぼでもできるんだから、今は我慢しなさい」と理不尽に行動を抑制、強制されると箱から出られない犬みたいになってしまう。

◆子どもの冒険モードを大切に

自分で考える子どもになるには、冒険モードが大切だと思います。行動は全く同じでも、やりたくて冒険モードでやっているのか、叱られるのが嫌で恐怖、苦痛から逃げる防御モードでやるのか、子どもの内側のモードの違いをみるといい。

見分けるのは簡単で、親が何も言わなくても勝手にやるか。ピアノでも最初は親の勧めだったとしても、うまく冒険モードになったとしたら、なんかふっと気がついたらピアノを触ってるとかね。 やっている内容の良い悪い、役にたつでなくて、日常に埋め込まれたちっちゃな冒険モードみたいなことがすごく大事だなと思っています。

あまりにも親御さんと同一化して、親御さんの願望をかなえることが自分の願望なんだみたいな、この境界線が薄くなることは十分起こり得るので、早いタイミングから、お父さんお母さんはこう思う、あなたはどう思うの、とお互いの主語をつけて話し合う。もちろん全部子どもの要求をのめという話ではなくて、家族会議などやって、子どもの思いがちゃんと取り扱われることが大事。

実は、冒険モードは、子どものうちは封印して、後々になって簡単になれるかというとそうではない。高校生ぐらいまでの間にその芽をつんじゃうと、大きくなっていきなり冒険モードになれといってもなれない。「やりたいことが見つからない」となる。

つまり、これは親が抑圧して消してしまえるものなんだと危機感を持ってほしい。植物で、どうやったら葉っぱがもうちょっと大きくなるかしら、花が早く咲かないかなと、いじり回って、根からぬいてしまうみたいな。

◆叱りたい欲求があるんだと自覚して

処罰感情は、権力者だけの特権なんですよね。 権力や正義の側に立てる人が、権力のない、正義じゃない人をみて感じる欲求なので。大人とか権力がある側は、そういう欲求や感情があるんだってことを自覚していきたいですよね。

パワハラしている人はパワハラと自覚しないのが難しい点なので。「相手のためを思って言ってやっている」という時に、実は、叱りたい欲求があって、それを満たすために言っているのかもとまずは自覚していく。チャンスの扉の前にうずくまり、冒険できない人を育てたくないならば、です。

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