事件から58年。静岡県で起きた一家4人殺害事件の再審＝やり直し裁判で、静岡地裁は、死刑が確定していた袴田巌さんに「無罪」判決を言い渡しました。判決で地裁は「3つの証拠を捜査機関がねつ造した」と認めました。

無実を訴え闘い続けた袴田巌さん（88）と姉・ひで子さん（91）。ひで子さんは26日朝、“潔白”を意味する白い装いで静岡地裁へ。そして午後4時すぎ…

記者
「袴田巌さんに無罪判決。無罪判決と掲げられました」

死刑が確定していた袴田さんに無罪判決が言い渡されました。

事件が起きたのは1966年6月。静岡県の旧清水市で、みそ製造会社の専務宅が全焼。焼け跡から刃物で刺された痕のある一家4人の遺体が見つかりました。逮捕されたのが住み込み従業員で、元プロボクサーの袴田巌さん（当時30）。

無実を主張し、取り調べでも…

袴田さん（警察の取り調べの録音）
「他に犯人が挙がったらどうする」

取調官（警察の取り調べの録音）
「ないよ、挙がりっこない」

袴田さん（警察の取り調べの録音）
「いや必ず挙がる、必ず挙がるだろう」

しかし、連日長時間に及ぶ取り調べの末、逮捕から20日目に…

袴田さん（警察の取り調べの録音）
「大変恐ろしいことをやったと思っています」

袴田さんは自白しました。その理由について、袴田さんは、家族への手紙に“自分の命を守るためだった”と綴っています。

裁判で、袴田さんは無罪を主張。しかし事件から1年2か月後、みそタンクの中から大量の血痕のついた“5点の衣類”が見つかり、さらにその後、袴田さんの実家から同じ生地のズボンの端切れ、共布が見つかったことが決め手に。1980年、袴田さんの死刑が確定しました。

その後も、獄中から無実を訴え続けた袴田さん。事態が動いたのは逮捕から48年後でした。検察が開示した“5点の衣類”の鮮明な写真から、1年以上みそに漬かっていたのは不自然などと指摘が。

そして2014年…

「再審開始」

釈放された袴田さん。年齢は78歳になっていました。

その後、審理は長期化したものの、東京高裁が去年、「捜査機関により証拠がねつ造された可能性が極めて高い」として、裁判のやり直しを決定。15回にわたる審理を終え、26日、判決の時を迎えました。

裁判には長い拘禁生活で精神をむしばまれた袴田さんに代わり、姉のひで子さんが出廷。午後2時…

裁判長
「主文、被告人は無罪」

判決の直後、顔を赤らめ目に涙を浮かべた、ひで子さん。傍聴席では拍手が湧き起こりました。静岡地裁は、捜査機関による“3つのねつ造”があったと指摘。

1つ目は争点だった“5点の衣類”についてです。

裁判長
「1年以上、みそ漬けされた場合、血痕の赤みが残るとは認められない」

“5点の衣類”は捜査機関によって血痕をつけるなどの加工がされ、みそタンクに隠されたもの、つまり“ねつ造”と指摘しました。

また、袴田さんの実家から見つかった「ズボンの共布」についても“ねつ造”と指摘。そして「自白」についても、苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べによるものと判断。こうした点から無罪判決を言い渡しました。

同じ頃、自宅にいた袴田さんにも、知らせが…

「巌さん、いいことあったって連絡きました」

半世紀を超える闘い。裁判長は 最後に…

裁判長
「裁判所として時間がかかり申し訳ない。真の自由を獲得するには時間がかかる。ひで子さんには心身ともに健やかに過ごしてほしい」

午後4時すぎ、裁判所から出てきたひで子さん。弟の無罪判決に安堵（あんど）の表情を見せました。