×

14年間バレーボールを経験・佐藤梨那アナ 荒木絵里香と考える部活動の“勝利至上主義”

2023年12月9日 22:05
14年間バレーボールを経験・佐藤梨那アナ 荒木絵里香と考える部活動の“勝利至上主義”
(左から)佐藤梨那アナウンサー、荒木絵里香さん

ここ数年、バレーボール強豪校での体罰が相次いで発覚しています。春高バレーの優勝校では、監督が生徒を怒鳴りながら平手打ちの暴行をして解任に。全国大会常連校では、生徒の髪をわしづかみにするなどの暴行の容疑で顧問が逮捕される事態も。その体罰や行き過ぎた指導の背景にあると考えられるのが、勝つことを一番の目標にする“勝利至上主義”です。

小学校から大学までの14年間バレーボールに打ち込んでいた私、日本テレビアナウンサーの佐藤梨那も、小学生の時に“勝ち”にこだわるチームでプレーをしてきました。

スポーツ競技の中で“勝利を目指す”ことは技術向上などにもつながる大切な要素ですが、クラブチームや部活動において子供たちに「“勝つことが最優先”の指導をすることは正しいのか」。バレーボールが、子供たちにとって面白さや楽しさを感じ続けられる競技になるために、どのような取り組みが必要なのかを考えていきます。

今回、日本代表として4大会連続で五輪に出場し、2012年のロンドン大会で銅メダル獲得に貢献した荒木絵里香さん(39)にインタビュー。“勝利至上主義”のあり方、いま指導者に何が求められているのか、お話を聞きました。

■ 勝利至上主義…「厳しいや苦しいを、はき違えてはいけない」

小学4年生の終わりに身長が170センチあり、母の勧めでバレーボールを始めたという荒木さん。しかし最初に入ったのは、理不尽な指導や暴力があるチームでした。「これはスポーツではない」という両親の助言で、そのチームをやめバレーボールから距離を置いた時期もあったといいますが、高校は選手の自主性を重視する指導方針の下北沢成徳に入学。インターハイ・国体・春高バレー優勝の3冠を経験しました。

◇◇◇◇

佐藤:荒木さんがどのように考えるかなと思ってお聞きしたかったのが、小学生、中学生で“勝つため”の指導をしてしまうと、高校でいきなり自主性を求められるのは、なかなか難しいところもあると思うんです。“勝利至上主義”は「まだ小学生、中学生なのに」と思うところもあるんですけど、どう思われますか。

荒木:「勝つ」ということに対して、今いろいろな競技で問題になっているじゃないですか。日本一を小学生で決めない競技もあったりして。でも勝つ喜びも、もちろんあるじゃないですか。そこはすごく難しいところだなと思います。

勝つために体罰は必要なのか、体罰してまで勝たなきゃいけないのか。厳しいとか苦しいを、はき違えてはいけないと思うんですよね。頑張り方のはき違えってすごくあるなと思っていて。勝つことが、やっぱり子供時代、学生時代の目標だし、勝つとうれしいし、でも、それ以上に大事なことはたくさんあると思うので、そこをはき違えないように。

海外の話を聞くと勝利を求めていなくて、選手をどう育成できるかを大事にしている。トップのカテゴリーでなくても、そういったシステムが作られているのを見ると、日本は勝利至上主義で、今が大事(という指導方針が多い)。「ここで勝たないと」が一概に悪いとは言わないけど、「じゃあその先に何があるか」というところまで考えていけたらいいのかなと思いますね。

■周りの大人たちに求められることとは

2022年、全日本柔道連盟は「行き過ぎた勝利至上主義の散見」を理由に、全国小学生学年別柔道大会を廃止すると発表しました。また、全国ミニバスケットボール大会では、決勝トーナメントを廃止し、優勝などの順位付けをしない全国大会を開催するなど、 “勝利至上主義”の考え方を見直す動きが出てきています。

そして、日本オリンピック委員会(JOC)が中心となって行われている取り組みも。アスリートを取り囲むすべての関係者が知識や学びを得て、選手、子供たちが力を発揮できるように支えていく『アントラージュ』という取り組みで、指導者や保護者などを対象にワークショップなどを開催しています。

荒木さんは、父は早稲田大学ラグビー部を経て、社会人チームの選手・コーチとして活動、母は中学・高校の体育教師というスポーツ一家に生まれました。両親の支えで幼少期にいい経験が積めたということもあり、指導者や保護者、周りの大人たちのサポートが、子供たちにとってとても重要だと話します。

◇◇◇◇

荒木:私は両親にスポーツのあり方、正しい方向にサポートしてもらえたのが、自分の競技人生の中で、人生の中で大きなものになっています。なので周りでサポートする大人の重要性が、体罰やいろいろな問題に直結すると思うので、そこの体制を整えることだと思います。

社会は変化していくし、昔は当たり前だったことが今では絶対あり得ないことになっているし、子供たちも変わるし、そうした中でみんながうまく変化を受け入れながら、進化できるような指導スタイルや周りのサポート、保護者含めてアントラージュ全員が意識を持っていく。小さなことの積み重ねを大事にしていくことしかないのかなと思います。

■荒木絵里香の願い「好きだとはっきり言えるような競技であってほしい」

荒木さんは2021年に現役を引退。26年間の競技生活を終え、Vリーグのトヨタ車体クインシーズでチームコーディネーターとして活動しています。2022年には、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に進学しました。選手の時とは異なる目線でバレーボールと向き合う荒木さんに、今後の目標を聞きました。

◇◇◇◇

荒木:今年の夏に指導者のライセンスの一番下にチャレンジして、まだ合格通知はもらってないんですけど。大学院でもコーチングを専攻して、指導についてまだ学んでいる最中。自分が指導する機会の中では、答えは(選手が)自分で見つけるものだと思うので、ヒントや考えるポイント、意識を少し伝えられたらと今は考えながら選手と話をしています。

佐藤:子供たちにとっては、バレーボールはどんな存在であってほしいですか。

荒木:自分がそうであったように、夢中になって上手になりたいという思いや、上手になれる喜びが感じられて、バレーボールを通していろいろな人間関係や、目標を立てて、それをどうやったら達成していくのか。バレーボールを通じていろんなことが学べる素晴らしい競技だと思うので、そこの面白さを自らみんなが求めて、バレーが好きだとはっきり言えるような競技であってほしいな。子供たちにとってそういうものであってほしいなと思います。

佐藤:将来子供たちに指導するようになった時に何を一番大切にしたいと考えていますか。

荒木:「夢中」を大事にしたい。夢中になって競技することを邪魔したくない。子供たちが上手くなりたい、こうしたい、という思いをまっすぐ伸ばしてあげたい。そのために導いてあげたい、そういった指導をしてあげたいなと思います。今後もバレーボールが自分の中心であることは変わらない。指導の勉強もしたいし、女性の働き方や、女性アスリート、ママになって競技を継続した経験も、自分がこれから伝えていける部分だと思う。いろんな面で勉強しながら、これから経験しながら進んでいきたいなと思っています。

【取材後記】

「子供たちの夢中を大事にしたい」という荒木さんの温かい思いを聞いて、相手を思いやることの大切さを改めて感じました。子供には大人のサポートが必要で、その大人たちの言葉や行動がさらに子供たちの力に変わっていくからこそ、私も手を差し伸べられる大人でありたいと思います。26年という現役生活を引退して環境が変わり、新たな活動に対してお話される荒木さんの姿はまさに「夢中」でした。これからどんな挑戦をされるのか、伝えられる日がとても待ち遠しくなりました。

(取材・文 佐藤梨那)