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監督が怒ってはいけない大会 バレーボール「嫌いになった」益子直美さんが開催するワケ

2022年6月10日 5:34
監督が怒ってはいけない大会 バレーボール「嫌いになった」益子直美さんが開催するワケ

未成年のスポーツ指導で体罰やパワハラが問題になっている。バレーボール元日本代表の益子直美さんは8年前から「監督が怒ってはいけない」小学生大会を開催。選手時代、実はバレーボールが嫌いになり、辞めたかったという益子さん。大会の狙いとは。

──「監督が怒ってはいけない大会」を始めた理由は?

子どもたちが怒られているところを見たくなかった。私は中1でバレーボールを始め、中1の夏ごろからレギュラー、中2でエースになって、そのあたりから怒られるようになり、大好きだったバレーが嫌いになった。25歳で引退するまでどんどん嫌い度が増して、辞めたい、逃げたいという気持ちが大きくなった。すごく寂しいこと。好きという気持ちがないと続かない。子どもたちは怒られると悲しそうな顔をし、全然楽しそうじゃない。バレーを始めた小学生が楽しめる環境を作りたいという思いで「監督が怒ってはいけない大会」を始めました。勝利至上主義だと一定の選手だけ使い、サブの選手が出る機会が少ない、振り落とされ、競技を続けられない子が増える。スポーツは勝利を目指すものですが、感性が豊かになり、相手を思いやる気持ち、人間力が学べるツールでもあります。

──試合中、すぐベンチを見て監督の反応をうかがう子もいるというが、監督が怒らないと雰囲気は変わるのか

すごくチャレンジが生まれます。監督さんは「小学生だから何もできないと思っていた」とおっしゃるが、小学生でも自主性、主体性が生まれます。そこを育てる声かけ、コーチングをぜひ見つけてほしい。私自身、厳しくされたから強くなれたと思っていたが、嫌いになり長く続けられなかった。その弊害、副作用みたいなものがすごく大きかったなと。本当の厳しさってなんだろうと1回考えていただきたいなと思います。

■怒りを封印しても勝利と育成が手に入る

(取材当日の)開会式で、ある監督さんが「この大会は勝ち負けでなく楽しむ大会だ」とあいさつされて、私は「あっ!」と思った。怒りをまず封印し、どんな言葉かけ、指導ができるかチャレンジしてくださいとお願いしているけれど、怒りを封印=勝負を手放すではない。怒りを封印しても、勝利と育成が手に入る。そこを目指したいと思っていて、スポーツは勝負なので、そこを手放さずに指導者にチャレンジしてほしい。公式大会やトーナメント戦で負けられない時には、怒りを使う指導で、私たちの大会では「怒り」を封印すればいいと思っている指導者がいる。「今日は見守るだけ」はなしで、褒める、勇気づける言葉かけの場にしてもらいたい。私は、この大会中しか子どもたちと会えない。でも、指導者さんは、この選手がどういう声かけでこうなるのか知っているはず。私は怒られて育ち、ミスすると怒られるから無難なプレーしかできなかった。いろいろなタイプの子がいて、怒られても成功体験になる強い子もいれば、私みたいに自信がなくて、怒られるとネガティブになる子もいる、私には(どう指導すればいいか)答えはない。指導者が情熱を持って接してくださっているので、一人一人選手を見極めて声かけをしてほしい。

■人に与えられた厳しさよりも、自ら厳しさを作る方が成長する

私自身、挫折したことがないんですね。現役時代。人に与えてもらった目標、目的だけをこなしていたんで。自分でこうなりたいと決めて、壁が来たら乗り越えるということをしていないんで、挫折と感じない。なので、乗り越える力が全然ついていなかった。大人になっても、人のせいにし、私には無理とずっとあきらめていた。自分で決めたことをこつこつ行動して、壁が来たら乗り越えられるように学んで、達成できた時にものすごく自信につながる。人に与えられた厳しさより、自ら厳しさを作る方が本当に成長があると思います。

──自分たちで作った目標なら、届かなくても学びがあるし、達成したらうれしいですね

「どうしたら楽しめると思う?」と問うと、子どもは「皆の声かけ」とか「真ん中に集まってみる」「(勝敗でなく)15点とることを目標に」とか、いろいろ言います。「こうしろ」でなく、自ら決めて行動できるような声かけを私は意識している。

──親も勝敗にこだわってしまう

親御さんには子どもが悩んだ時、話を聞いてほしい。私も中3で一度バレーから離れた時、母が賛同してくれた。あの時、母が「根性なし、なぜ辞めるの」と言ったら、私は心を閉じたと思う。寄り添って聞いてくれたという思い出がすごく残っていて。1人でも自分の味方がいるとわかるとすごく強くなれる。一番身近な親御さんに、子どもの一番のサポーターになってもらいたい。

──子どもが辞めたい、休みたいと言う場合、理由があるのですね、怠けているとかでなくて。

はい。理由を聞いてあげてほしいが、時間がかかると思う。子どもはすごく繊細で、親に心配をかけたくないと思っている子がたくさんいます。私自身も小学校の時にいじめられたことを親に一切言えなかった。監督と同じで、親御さんはずっとお子さんのことを見ているので、察してあげて、ペップトーク(注:選手を励ます短い激励の言葉)で声をかけてほしい。

■怒る指導から科学に基づいた指導に

怒る指導、パワハラ的指導をうけてきたアスリートはたくさんいて、脱落した子も、成功体験でプロになる子もいる。怒る指導について、アスリートが「こう思う」と言える環境にしなければと思う。私もそうでしたが、日本ではスポーツは楽しんでは駄目と思っている方がまだたくさんいる。でも、怒る指導による子どもの脳への影響など、脳科学の結果が出ている。私たちの頃はそういう研究はなかったので、しょうがなかったが、もう怒って勝ちにこだわる時代は終わった、役割は終えたと思っている。科学に基づいた新しい指導法にアップデートする時代が来ている。

──怒られないと競技が好きなままで育ち、言われなくても練習したくてたまらない子、プロになる人も出るなど好循環が?

東京オリンピックでもチャレンジ精神、学びがたくさんあり、真に楽しむ、勝利も目指すけど、ライバルが友達に戻る瞬間、感動的なシーンがたくさんあった。そういったことを増やしていければ。私は小学生にはトーナメントは必要ないと思う。1回負けたら終わり、負けた理由の克服が数か月後になる。リーグ戦なら、すぐ再チャレンジでき、別の選手を使うこともできる。勝利至上主義だとスポーツ嫌いになる子が多くなるので、日本のスポーツの価値観を変えていかないと。私や運営スタッフもスポーツマンシップを学び、細々とですけど伝えてきたので、活動を続けていきたい。