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いま考える“幸せの見つけ方” ~テレビ局報道デスクが“大家族”映画をつくったワケ

2022年5月26日 19:39
いま考える“幸せの見つけ方” ~テレビ局報道デスクが“大家族”映画をつくったワケ
7男3女と夫婦、おばあちゃんの岸さん一家

コロナ禍で暗いニュースもある中、熊本のテレビ局が映画を制作、都内でも公開されています。カメラは10人の子供に恵まれた岸さん夫婦の奮闘に密着。

映画は自宅の全焼、熊本地震、コロナ禍の入院、と困難に見舞われても乗り越えようとする大家族の21年のドキュメンタリーです。

映像コンテンツがあふれる時代。なぜテレビ局が映画を制作したのか? 熊本県民テレビの現役・報道デスクでもある制作者の城戸涼子監督に聞きました。

■岸家の“幸せのヒント”

熊本県宇土市で暮らす岸英治さんと信子さん夫婦には7男3女の子供がいます。

決して裕福ではないなか、家事を一手に引き受けた信子さんと、新聞配達・福祉関係・ドライバーなどと仕事を掛け持ちして働く英治さん。2人は、時に借金を抱えながら子育てをしてきました。

熊本県民テレビの城戸涼子監督は、映画制作の理由に、日本の“変化”があるといいます。

Qなぜ映画を制作?

「取材を始めた2000年からの約20年で、日本の家族は核家族化が進み、多様化しました。時代が変わる中だからこそ、岸さん一家にある“幸せのヒント”を届けたいと思いました」

城戸さんが入社する前から取材が続けられてきた、岸さん一家。初代担当の女性は、信子さんに会って、愛情の深さに引き込まれたと言います。

城戸さんは20代で制作部時代に担当した3代目。その後、異動を経て2019年「NNNドキュメント(日本テレビ系列放送)」で再び担当に。そして2年前、映画制作を会社に提案しました。

Q岸さん家族の魅力とは?

「岸さん夫婦の“近い人にこそ親切に”という姿でしょうか。日本では言わなくても分かるという文化がありますが、相手を大事にしていると言うことを、言葉だったり、あるいは好きだとわかる行動で示すことが鍵だと思いました」

10人の子供がいる岸家には独自のルールがあります。

子供たちには月に一度、自分が生まれた日に夕食に出かけるなど、お母さんかお父さんを独り占めできる約束です。

大変な子育ても楽しもうとする姿に城戸さんは――

「印象に残っているのは、信子さんの言葉で『うちは、お金はないけど“ない”なりに伝えられる愛情がある』って口癖です」

「岸家の料理には“焼き”というのがあります。タコ焼きのタコなしなのですが、みんな大好き、思い出の味なんです」

■命の誕生 ~うれし涙と寂しい涙

カメラは第10子・不動くん誕生の瞬間を追っています。

事前に、命の誕生についてお母さんから聞くなど、受け入れ態勢も万全ですが…お手伝いをすると張り切る一方で、出産の報告を受けた三男が涙を流し「右目の涙がうれし涙、左目からは寂しい涙かな」と語るシーンがあります。

取材者との信頼関係があるからこそ記録されていた“子供心”。その後も親元を巣立つ姿や結婚など、人生の節目を追っています。

■自宅全焼、熊本地震、入院でも「へこたれない」

一家には不幸も襲いかかります。借金、自宅の全焼、熊本地震、そしてコロナ禍の入院。

しかし、常に前向きな姿があるといいます。自宅の焼け跡を訪れた信子さんは、笑顔で取材に応じます。

後日、城戸さんは信子さんから、“あえて子どもたちの前で笑顔を見せた”と聞きます。

「この時も(信子さんが)大事なものは燃えていないね! って子供たちに言うんですよね」

「信子さんがキツいときに『いまこうでも、幸せの扉が待っている、だから出来ることを頑張る』って言葉があって」

「岸家を通して、目の前のことをどう捉えるかで、こうも世界がかわるか、と…。きょうの世界も生活もかわれば、明日の世界も生活も変わるのでは?と思わされてきました」

■なぜテレビ局が映画を? コロナ禍でニュースを伝える思い

しかし、映像コンテンツがあふれ、映像を早送りで見る人も多い時代に、なぜテレビ局が映画を制作したのか? 城戸さんに聞いてみました。

「時代に逆行している部分もあるとは思います。ただ映画好きなのもあり、映画館に居るというのはもう体験に近いと思っていて。会ったことのない人と笑ったり泣いたり。それだけでもいいと思うんです」

撮影も担当した緒方信昭さん、そして佐藤幸一さんと、通常業務の合間に映画編集にあたったという城戸さん。

地元に根ざしたテレビ局だからこその距離感、継続性、小回りが功を奏したと話します。

「入社前から先輩方がつないできた映像記録は、地方局としての関係性や信頼があったからだと思います」

Q伝えたいこととは?

「閉塞感がある時代に、コロナ禍で豪華な食事とかではなくても“手の届く範囲で”の幸せというか。幸せのアンテナを感度を良くして、何かを拾っていけば、暗いと思っていた世界がそうでもないかもしれない、と思えます」

「コロナ禍で大変なこともあるけれど『とらえ方ひとつで、言葉は輝くし、もののとらえようで全てが変わる』と思います」

「家族の幸せを問いかけたい、というか。家族と限らず仲間とか友達とか隣人とか大事な人を見つめるきっかけになれば嬉しいです」

映画「人生ドライブ」はポレポレ東中野で上映中。
6月2日から東京都写真美術館ホール、また他全国各地で上映されます。