外国人労働者で人手不足解消なるか
「人手不足なので営業時間を短くします」街のレストランにこんなポスターが張り出されていることも珍しくない。深刻な人手不足の解消に向けて、政府は2019年4月、新たな在留資格「特定技能」を新設し、外国人労働者の受け入れ拡大に舵(かじ)を切った。果たして人手不足の救世主となるのだろうか。
■新しい在留資格「特定技能」とは?
「特定技能」とは、特に人手不足が深刻な分野に限り、相当程度の知識や技能、日本語の能力を持った外国人労働者を受け入れる在留資格だ。
2018年12月の改正入管法で創設され、2019年4月、施行された。介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野で受け入れを開始。政府は、特定技能で受け入れる外国人労働者を2019年度4万人、今後5年間で34万5000人と見込み、人手不足の特効薬として期待されている。
■広がらない「特定技能」
しかし、現状は、2019年12月13日現在で「特定技能」の資格を取得した外国人は1732人にとどまり、初年度に想定していた4万人には遠く及ばない。最も多いのが飲食料品製造業で303人、農業が169人、産業機械製造業151人となっている。
政府は2019年12月20日、外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議を開き、技能試験の受験機会の拡大や、外国人労働者と企業のマッチング支援策など対応策の拡充を決めた。
技能試験の受験機会の拡大など入り口の施策も不可欠だが、今後、日本で外国人が継続的に働き、人手不足を解消するには、日本で生活していく上での支援が重要だ。
■日本で生活していく壁
外国人労働者が日本で働くということは、その土地で日本人と共に生活していくということに他ならない。働くだけではなく、買い物をしたり、風邪をひいたら病院へ行ったり、市町村のルール通りにゴミ出しをしたり、その土地で生活していくことになる。
そこで一番の問題となるのが「言語の壁」だ。近年はアジア圏からの外国人労働者も多く、受け入れる日本こそ、英語だけでなくタイ語やベトナム語など多言語での対応が求められているのだ。
たとえば医療の分野では、普段の生活で問題なく日本語を使える外国人の場合でも、内容が専門的だったり、ちょっとした表現の違いが誤診につながったりするため、各言語ごとに医療通訳が活躍している。
しかし、こうした医療通訳に関する国からの補助は外国人患者受け入れ拠点病院と指定された大きな病院に集中していて、すべての医療機関が多言語への整備を行うのは難しい。
政府は2019年9月、「行政・生活情報の多言語化、相談体制の整備」を目的として、外国人受け入れ環境整備交付金の対象自治体の拡大を決めた。
しかし、多くの自治体や事業者自身が外国人受け入れのためのコストを担っているのが現状で、多言語への対応などが十分に整備されているとは言えない。
いまや私たちの暮らしや産業の維持には欠かせない外国人労働者。人手不足解消というと労働環境ばかり注目される。しかし、労働力としてではなく、日本で継続的に働き、共に生きていく生活者として外国人労働者を支えるという視点で、より一層の支援策を計れるかが重要になる。