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足りなかった勇気 ~西日本豪雨 父と愛犬の4年間~

2022年7月15日 13:03
足りなかった勇気 ~西日本豪雨 父と愛犬の4年間~
2018年の「西日本豪雨」で妻と息子の3人を亡くした上西美智春さん。「勇気を出して避難していれば…」あの日、倒壊した自宅から助け出された愛犬“福くん”と暮らす日々の中で、上西さんは、自らに問い続けます。

僕は、一生懸命にほえました。

捜索隊員「イヌと3人」

家が土石流にのみこまれ、3日目。「3人がここにいるよ」と、知らせたかった…。でも、母さんと2人のお兄ちゃんは…

上西美智春さん「『逃げよう逃げようとあんだけ言ったじゃん』とか、『なんではよ逃げんかったん』って(嫁さんは)言うかもわからんですね」

僕は全部知っている。父さんの痛み、そして強さも。

僕はフレンチブルの「福」。いまは父さんと暮らしています。

上西さん「はい福ちゃん。心配じゃった。ええ子しとった、福ちゃん」

僕たちの暮らしを見守る3人の写真。お母さんと、お兄ちゃん2人。3人は、4年前の豪雨災害で亡くなりました。

上西さん「流れてきた家が僕の家のほうにあたって、家が崩れたんですよ。(玄関の)ドア開けようと思ったら開かんで、そのときにドンときたんで、そこで挟まれてしまって」

父さんも、右脚を切断する大ケガをしました。搬送された病室で、お母さんとお兄ちゃんたちが亡くなったと知らされました。

上西さん「何日かは目つむったら流れてくる夢を見たりとか。今でも忘れてはないですね」

2018年7月6日。街は、一夜にして姿を変えてしまいました。西日本の広範囲を襲った豪雨。全国で263人が死亡し、8人が行方不明に。

実況「山のふもとにある川角地区に大量の土砂が流れ込みました」

避難の準備は完了していましたが、近くの避難所が空いていなかったため、父さんは避難をためらいました。

上西さん「いつでも逃げられるようにして、車の中に僕が持ってったんじゃけど、もう(外に)出た時がすごかったんで。これで出たら多分戻ってこれんなと思ったんで」

午後8時すぎ、土石流は、僕たちの家をのみこみました。足りなかった勇気…父さんは今でも後悔しています。

上西さん「『早よ逃げときゃ大丈夫だったんじゃない』とか、もうちょっと勇気を出しとけばよかったんかなと思ったり。そしたら、一緒におれるんかなと思って。そこは謝らにゃいけん。謝っても済まないですけどね」

僕たちは、被災した家から1キロ下った場所に引っ越しました。

上西さん「はい、福ちゃんどうぞ」

福くん「ムシャ、ムシャ…」

上西さん「今日けっこう走りますね。もうちょっと走ってやればええんじゃけど、僕が走れんので。やっぱ、生きとってくれたんで、助かったですね。福ちゃんがおったけえ、一緒に住みたいいう目標もできるし、1人よりかは全然違うんで。顔見るだけでも癒やされるんで」

父さんが4年間見ることができなかったアルバム。

上西さん「健ちゃんか、2007年健ちゃんじゃ。かわいかった、ほんまにかわいかった。優太は僕にとっては初めてじゃけ。めちゃくちゃかわいかった。写真はやっと見られるようになったかないう感じですね」

記者「4年経ってやっと…」

上西さん「今だったら見られるかな」

西日本豪雨から4年。

上西さん「(福ちゃんには)長生きしてもらって、病気とかせずに、ずっと一緒におれたらいいと思います」

僕と父さんの暮らしは続きます。

2022年7月3日放送NNNドキュメント’22『足りなかった勇気~西日本豪雨 父と愛犬の4年間~』(広島テレビ制作)を再編集しました。