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「映画をつくる人たちが消えていく」是枝監督らが訴える“日本映画界の変革”

2022年6月16日 12:09
「映画をつくる人たちが消えていく」是枝監督らが訴える“日本映画界の変革”
6月14日の記者会見(左から内山拓也、岨手由貴子、諏訪敦彦、是枝裕和、舩橋淳、西川美和、深田晃司)

映画監督の是枝裕和さんや西川美和さんらが、日本映画界の労働環境改善や、映画製作への支援をする、新たな団体の設立を目指し、記者会見を行いました。

「日本版CNC設立を求める会」(通称 action4cinema )として4本柱の改革を訴えています。

念頭にあるのは、フランスの国立映画映像センター(=CNC)に相応する機関だと言いますが、背景にあるものとは?

■低収入、長時間労働、睡眠不足

映画監督の諏訪敦彦氏は「コロナ禍で窮地に陥ったミニシアターを真っ先に支援したのは映画ファンによるクラウドファンディングだったが、業界で共助をする団体は必要」と立ち上がった経緯を話しました。

最高益を記録するなど活気を呈してる日本映画界だが、製作本数が増え、作品ごとの予算は減り、労働環境は過酷だと訴えます。

経済産業省の調査によると、日本で映画製作に携わる人の75%はフリーランスで、その6割以上が年収300万円未満。

しかも6割以上の人が契約書をもらっておらず、平均睡眠時間が4時間~6時間という人が半数以上となる実態を紹介しました。

「長時間労働」「低収入」が深刻な状況を訴えました。

フランスでは1日の撮影時間は8時間、昼休みは1時間と決まっているのに対して過酷な状況です。

また芸能業界全体に対するアンケートでは、ハラスメントを受けたと答えた人は4割を超えていました。

映画製作における圧倒的なジェンダー不平等の実態も浮き彫りになっています。

映画監督の内山拓也氏は、自身が30歳と比較的若い年齢であることに触れ「若い人がどんどん消えていく」と実感をもって訴えました。

「製作予算やスケジュールなどで追い込みが生まれると、撮るためには仕方が無いという“旗”のもとで、声をあげられない」「限界を超えながら映画をつくり、闘っている人がいる。このままでは映画を撮れなくなる」と警鐘を鳴らします。

「現在、多様化していると言われる日本の映画界は、スタッフの犠牲の上になりたっている。“持続的”に映画がつくれるようにしなければならない」と話しました。

■‟持続可能な映画製作”とフランスの“循環型”支援

続いて、映画監督の西川美和氏はフランスのCNC(=国立映画映像センター)を紹介。

第二次世界大戦のあと、戦争で痛んだ文化の復興を目的に設立され、現在は450名以上が働く機関として「映画製作の支援のみならず脚本さらには海外展開まで幅広く支援する」と説明しました。

財源は、劇場で観客が支払うチケット料金の10%強があてられるほか、時代に合わせて放送・ビデオ、さらに近年は配信にも徴収の範囲を広げるなど変化してきたといいます。

資金は、小さな映画館や製作者の支援にも還元するなどして、文化の多様性を実現。

また支援の前提として、国産映画の価値を高めるために「ハラスメント防止やジェンダー平等」の約束をしている点にも触れました。

■韓国では公的な資金が

一方、韓国では公的資金を入れて映画製作を行う仕組みがあります。

KOFIC(=韓国映画振興委員会)の財源は、公的資金管理基金を通じた国債など国家予算が62%、劇場での興行収入などが38%で、資金は企画や脚本、製作、流通そして人材育成などに分配されています。

■労働環境とジェンダー

フランスや韓国と比べても年間製作本数が多いという、日本の映画界。

しかし過酷な労働環境によって、働き盛りの世代が働きづらい状況があります。

映画監督の岨手由貴子氏は「2人目の子供を産んだことは半年言わなかった」と話し、これに多くの女性の仲間が賛同したことを挙げて、出産すると働きづらい深刻さを明らかにしました。

助監督の石井千晴氏は「映画業界・映像業界のハラスメントや労働環境問題はとても闇と根が深いと思います」「私も3人の子育てをしながら働いているので労働時間の問題は切実です。製作者の情熱を時間とお金に替えるやり方には限界があります。持続不可能です。映画業界の止まった時間が動き出す事を願っております」とコメントを寄せました。

■掲げる「4つの柱」

是枝監督らが掲げるのは「教育支援」「労働環境保全」「製作支援」「流通支援」の4本柱。

財源と支援を循環させ、多様性を尊重する文化として支援していきたいとしています。

日本映画製作者連盟(映連)など各所と話し合いを進めていますが壁もあり「コロナ禍のような有事の際に下支えとなる基金の運営、業界全体の保護と振興活動を」と訴えます。

■縦社会”しきたり”

【水原希子さんコメント抜粋】
「映画界には、長い歴史があるがゆえに縦社会の様なものが存在しており、目上の方に対して言いたい事が言えなかったり、過去のしきたりに縛られて、ディスカッションがしづらい状況になっている事も多いかと思います」「現場にいる誰かが傷ついたり、苦しい思いをするという事がないように」「様々なサポートをして頂ける機会が増えるという事は日本の映画界をもっと盛り上げていくことができるのではないでしょうか」

【役所広司さんコメント抜粋】
「日本映画界を誇らしく思い、ここまで映画作りに参加してきましたが労働環境や映画製作への支援、人材育成などを考えると確かに海外の映画界に比べると後れを取っているように感じます」「将来、日本映画界を目指す若者たちにのびのびとその才能を発揮できるような環境を用意してあげることが世界に誇れる日本映画を生み出す大きな力になると信じています」

「action4cinema」には吉永小百合さん、山田洋次さん、行定勲さん、犬童一心さん、小泉今日子さん、坂本龍一さん、黒沢清さん、濱口竜介さん、井浦新さん、斎藤工さんらも賛同しています。

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