“性的シーンを安心安全に” インティマシーコーディネーターを取材 映像業界はどう変わるのか
■映画業界におけるインティマシーコーディネーターの役割とは
世界には複数のインティマシーコーディネーター団体があり、浅田さんはアメリカのIPA(Intimacy Professionals Association)という団体に所属しています。トレーニングを受け、団体から認定されたことで、インティマシーコーディネーターの資格を取得しました。現在、IPAに所属する日本人はわずか2人となっています。
――そもそもインティマシーコーディネーターとはどのような仕事ですか?
映像制作において、俳優がヌードになったり、肌の露出が多いシーン、それから疑似性行為をするシーン、身体的接触があるシーン、そういった性的なシーンを“インティマシーシーン”と呼ぶのですが、そのようなインティマシーシーンの撮影時に、俳優の身体的・精神的安心安全を守りつつ、監督が思い描くビジョンを最大限実現させるためにサポートします。
――具体的に仕事の内容としてはどんなことをするのですか?
例えば、台本に“キスをする2人”、ト書きに“激しい”とあった場合、監督に「この“激しい”というのは、どのぐらいの激しさを望まれているのか」ということを確認するんですが、もちろんそこまでの話の展開や、どういったキャラクターが物語の中で展開されて、ここまで来たのかということも考えつつ、情熱的な激しさなのか、少し暴力的な激しさなのか、本当に唇、口を開くか閉じているか、それから舌を入れるのか、舌を絡めるのか、そのとき手はどこにあるのかなどヒアリングします。
――そんな細かいところまで全部確認するんですか?
はい、お聞きします。大体のカメラで映す画角がわかると、例えば腰に手を回しているけれども、そこは映っていないとなれば、必要ではない露出や動きが出てきます。男女のキスシーンで、男性の方が激しい(演出の)場合だと、もしかしたら男性は腰に回した手に力が入る可能性があります。でも、女性の俳優の方が、もしそれが嫌な場合、映っていなければ、我慢しなくていいわけですよね。「必要以上の密着があったら嫌だな」と思われる方もやっぱりいらっしゃるので。本当に細かく伺いますね。
■インティマシーシーンにおける浅田さんからの『3つの約束』
浅田さんは、インティマシーコーディネーターとして撮影現場に入るとき、“お願い”として3つの約束を提示しているといいます。
(1)どのような演出、動き、露出においても俳優の同意をとる。そこに強制がない。強要しない。
(2)いかなる状況においても、俳優がヌードになるときに局部が出ている場合は、共演者やスタッフのためにも必ず前貼りなどのアイテムで隠す。
(3)クローズドセットという、必要最低限の人数で撮影を行う方式を取る。人数を決めるのではなく、その撮影に必要な役割がある人だけが現場に入る。
――撮影に役割のない人が、現場に入らないようにするのは当たり前なのでは、と思ってしまったんですが、今まではどうだったんですか?
きちんと守られていたところ(現場)もたくさんあるとは思うんですが、やはり「今日はそういう撮影(インティマシーシーン)があるから」ということで、あまり関係のない人たちがスタジオに来たという話もよく聞くので、セットに関しては必要最低限の人数しか入れない。モニターも数を減らし、向きに気をつけ、覗き見できないような環境を作ることを徹底しましょう、としています。
――監督と俳優が直接やりとりをすることは、あまりないのでしょうか?
インティマシーコーディネーターが入っていない現場では、監督の方から“こういったことをやってほしい”という話があると思うんですが、監督だったり、プロデューサーから話がいくと、パワーバランスにおいて、俳優は立場が弱いところにいるので、ハラスメントが起こってしまう可能性がある。ノーと言えない俳優がどうしても出てくると思うんですね。第三者としてフラットな立場で監督と俳優の間に入って、あくまでも「こういったことをやりたい」、「どうですか」というような形でお伝えします。
■主演でもデビュー作でも…サポートするのに“俳優の経験値”は関係ない
――俳優にはベテランから新人まで多くの方がいますが、経験値の差によって気を配るところの違いはありますか?
どのような経験値であっても、インティマシーシーンということであれば変わらずサポートします。例えばその俳優が、映画1本目だったり、肌を露出するのが初めてというときは、より気をつけなければいけないと思っていて。「まだ経験が少なくて、ここでノーと言ってしまったら、次につながらないのではないか」と思われる方は、少なくないんです。その俳優が今までどの作品でどれぐらいの露出があって、どれぐらい激しいことをしてきたかは関係ないです。また、一度その作品が世に出てしまったら、それは一生取り返しがつかない。俳優の生涯が終わっても(作品は)生き続けることや、経験が少ない方は、これからどんどんそういった作品が来る可能性があることなどをお話しします。不安を感じている場合は「今回はちょっと考えた方がいいのではないですか」という話をすることもあります。
■インティマシーコーディネーターの導入が“抑止力”に…日本の映画業界のこれから
――インティマシーコーディネーターの導入によって、今後の日本の映画界はどのように変化していくとお考えですか?
やはり“インティマシーコーディネーターが入っているんだ”というのは、ちょっとした刺激になるというか、何かの“抑止力”に私はつながっていると思っているんです。全員が安心安全な撮影を心掛けようとすることっていうのは、インティマシーシーンだけじゃなくて、全体につながることだと思うので、そういった形で私なりの底上げの協力ができたらなと思っています。