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【性暴力撲滅へ】「加害するとき、多くの人は意識していない」作家・山崎ナオコーラ取材“今日からできること”

2022年5月11日 20:10
【性暴力撲滅へ】「加害するとき、多くの人は意識していない」作家・山崎ナオコーラ取材“今日からできること”
作家・山崎ナオコーラさんに聞く “性暴力撲滅へ” できること
映画監督や原作者・俳優など、様々な立場から“性暴力の撲滅を訴える声”が広がっています。そんな中、作家の山崎ナオコーラさんが「文学界に性暴力のない土壌を作りたい」というハッシュタグをつけ、メッセージを発信しました。山崎さんにインタビューし、加害行為は“無意識”に起こる、大事なのは“被害者が無理して話さなくていい”、加害をなくすために“私たちが今日からできること”を伺いました。

■ “性暴力のない土壌” に必要なのは「下の立場の声も拾える職場環境」

――「#文学界に性暴力のない土壌を作りたい」を発信した経緯は?

これまで色んな業界の方が被害の告発などで声をあげられていたのを見て、多くの場合に二次被害を受けたり黙殺されたりというのを見てきていて、私みたいな力のない作家には“何もできない”みたいな思いでいたんですけど、今回、深沢潮さんという作家の人が声をあげていて、私も作家なので“絶対黙殺したくない”というのを思いまして。何かしらできることがないだろうかというのを思ってツイートをしました。


――どういう思いをこの言葉に込めた?

10年ちょっと作家の活動をしてきていまして、私は“文学界には性暴力が起こりうる土壌があるな”というのを感じていたので、“私の代で終わりにしたい”そう思ってツイートしました。

■加害行為は “無意識” に起こる「文章化するのが効果的かも」

――文学界に“性暴力のない土壌”を作るためにはどんな事が必要?

加害してしまうときに、多くの人は意識していなくて、これが加害行為に当たるというのがわかっていない場合の方が多い気がするんですね。

悪い人が加害しているというよりは、“知らない”とかちょっと意識が足りなかったりという場合も多いと思うので、まずこれが加害行為なんだというところをできるだけ文章化していくようなことが効果的かも、というのを1個思っています。

あと、やはり性暴力というのは多くの場合“上下関係の中で起こる”。上下関係というものをなくすことはできないんですけど、例えば“下の立場の人の声も拾えるような職場環境にしていく”。文学シーンはフリーランスが多く、それで芸術をやっている自由な環境ではあるんですけど、上下関係を感じるシーンは多いので。“下の人の声も拾えるような空気”とか、その上下関係を感じるシーンを少なくしていくような労働環境、空気を作っていくのも大事だと思います。


―― 文学界でいう“上下関係”とは?

キャリアもそうなのかもしれないんですけど、会社ではないけれどもなんとなく出世していくようなイメージはすごくありますし、“権威”のようなものもある気もしますし…。


―― それは作家同士?作家と編集?

作家同士でも(上下関係が)あると思うんですけど、色んな職業の人が働いているので、その職業ごとの上下関係も確かにあると思います。今回、私は「文学界」というワードでハッシュタグを作ったんですけど、「文学界」だと例えばライターさん、書店員さんとかが含まれない、みたいなことをツイートしてくださっている方もいらっしゃって。そういうのを読むと私も“加害側に加担しているようなシーン(作家がライターを下に見ていると思わせてしまうような状況)があったかもしれない”というのを思ったので、そこは変えていきたいと思います。

■今日から意識できること「行動ごとに一歩立ち止まって…」

――様々な業界から“性暴力撲滅”の声があがっていることをどう見ている?

業界ごとに出てきたというのは、恐らく私も“文学界”という言葉を使ったんですけど、やはりその言葉を使わないと“作家もなんだ”っていう当事者意識はなかなか持てなかったと思うんですよね。

もっと広い言葉で“性暴力のない土壌を作りたい”と言うのも、もちろんありではあるんですけど、最初に限定的なワードを出したことで“この業界の”って言うことで、「自分もなんだ」「俺もなんだ」というのを思うことができて、その業界ごとにそういう言葉が出てくるのはわかるというか。そのことでやっと“当事者意識が持てる”というところがあるのかなと思います。


――あげられた声をひとごとにしないために、今日から意識できることは?

一番大事なのは“立ち止まって考える”ということが一番大事だなと、私自身の自戒も込めてそう思います。私自身が加害をしている場合、あるいは加害をしている人に加担している場合というのも多分あって。だから“加害者はダメなんだ”って糾弾だけが変えていくことが出来る行動ではなくて、“自分も加害しているシーンがあるかもしれない”とか、“こういうのが加害なんだ”とかっていうことが、行動ごとに“一歩立ち止まって考える”というのを多くの人がしていくようになったら、少しずつ変わっていくように思う。何かの行動をしたときに“これ加害行動じゃないかな”って、ちょっと立ち止まって考えるのが大事かなと思います。

■連帯は “緩やかでいい” “ちょっとずつ違ってもいい”

――“連帯していく”ことで得られる強みは?

最初“連帯”という言葉を聞いたとき、ガチガチに連帯しなきゃいけないのかな、全く同じ思いを抱かないといけないんじゃないのかな、ということを私は思い込んでいて。私は“ノンバイナリー”という、女性とは自分のことを思っていないという性別ですから、“全く同じ思い”とか“同じ性別だから”みたいな思いで連帯するというのがなかなかできないから、連帯って難しいのかなって勝手に思っていたんですけど。

だんだんと“緩やかでいいんだ”“ちょっとずつ違ってもいいんだ”というのがわかってきて。当たり前なんですけど“性暴力の被害をなくしたい”というのをみんなが思っていても、微妙に考え方はみんな1人1人違うんですよね。だけど、緩やかに、ちょっとずつ違うけど“同じような方向を向いて何かやろう”というのができるんだっていうのがわかってきて。ちょっとずつ違うこと、ちょっとした違いを尊重しながらも動くことができるのがわかってきているので、それがわかったら“連帯”というのがものすごくいいものに思えてきたんですよね。

■一番大事なのは “被害者が無理して話さなくていい”

――(性暴力の被害を受け)声をあげられない人、傷ついている人にどんな言葉をかけたい?

私たちは今後のハラスメントや性暴力の被害をなくしていきたい、そういう目に遭う人が今後はなくなるようにしたいと思って動いているわけなんですけど、一番大事なのは“既にある傷がこれ以上深くならないようにすること”。もう傷を負っている方がこれ以上のご負担が増えないようにすること。そしていつか、少しずつでも傷が癒えることの方が大事だと思うんです。

だから“自分自身の負担がないことを一番優先”してもらいたい。無理して話さなきゃいけないんじゃないか、ということをこういうハッシュタグを使ったツイートをしていると「私は話せなくて…」というふうに感じてしまう方がいらっしゃったみたいで。“いや、それは話さなくていいんだよ”ってものすごく言いたいと思いました。無理しないこと、自分が一番負担が少ない道を選ぶことが大事だと思います。


【山崎ナオコーラ 経歴】
作家。2004年『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞しデビュー。その他『美しい距離』『リボンの男』など。エッセイも発表している。