広島にウクライナを重ね…娘2人と避難してきた母の思い 大統領の来日に「言葉にできない」 G7サミット開幕、望む未来は
G7広島サミットが19日、開幕しました。ウクライナから広島県に避難した家族に、有働由美子キャスターが取材。広島での生活にはなじんできましたが、現地に残る夫を心配しています。ゼレンスキー大統領の来日や各国の指導者への思い、望む未来を聞きました。
■原爆ドームを望み「恐ろしい悲劇」
G7広島サミットで来日した各首脳たちも目にした原爆ドーム。そのすぐそばで、有働由美子キャスターが19日、ある家族と待ち合わせていました。ウクライナから広島県に避難してきている、アンナ・セメネンコさん(40)と娘のエヴァちゃん(6)、ソフィアちゃん(2)です。
有働キャスター
「私たちが立っている所も原爆で被害があって。(原爆ドームの)上が爆弾で溶けているのが見えますけど、どう思われますか?」
アンナさん
「とても恐ろしい悲劇だと思います。このようなことはあってはならない」
エヴァちゃんは「今のウクライナみたい」とつぶやきます。重ねていたのは、ふるさとの姿でした。有働キャスターは「そっか…ウクライナのことを思い出してしまうんだな。ごめんね、ありがとう」と声を掛けました。
一家が暮らしていたのは、ウクライナでも激しい戦闘が繰り広げられている東部ハルキウです。去年6月、幼い娘2人を連れて、知人が住む広島県に避難してきました。
■「戦争はすぐに終わると思っていた」
有働キャスターは、アンナさんたちを広島のソウルフードの“お好み焼き”でもてなしました。
有働キャスター
「お好み焼きは広島に来てから食べましたか?」
アンナさん
「食べてません」
有働キャスター
「初めて!? お好み焼き?」
お好み焼きは、戦後の食糧難の中、配給される小麦粉で作ることができる料理として考え出されたという、広島復興のシンボルです。アンナさんは日本語で「おいしい。甘いけど、慣れた。日本の料理がたくさん甘いソース使うから」と言いました。
2人の娘と避難生活を初めてまもなく1年。「この1年ってどんな気持ちでした?」と有働キャスターが聞くと、アンナさんは「最初は恐怖。でも戦争はすぐに終わると思っていた。ウクライナがこれからどうなるのか、私たちはどうなるのかという不安が一番大きかったです」と教えてくれました。
■畳に納豆も…広島は第二のふるさとに
ただ、今では広島での生活にもなじみました。寝る時は畳の部屋で布団を敷き、納豆は子どもたちも1日1個欠かさないといいます。この春から、子どもたちは2人そろって保育園に通うようになりました。少しずつ日本語も覚えてきました。
「私は日本が好きです。嫌なところはありません。ウクライナも好きです。私は日本もウクライナも大好きなんです」とアンナさん。家族にとっては、広島も第二のふるさとになっています。
■攻撃の恐怖…夫は今もハルキウに
しかし、頭から離れず心配なのは、ウクライナに残る夫アンドリーさん(44)の存在です。
スマホの画面越しに、アンドリーさんは「やっほー、プリンセス。元気かい?」と話しかけると、エヴァちゃんは「パパ! 歯が抜けたよ! 妖精にコインをもらったの」とうれしそうに伝えました。アンドリーさんは「すごいね! 初めて歯が抜けたから、もう大きくなった証拠だね」と成長を喜びました。
ウクライナは今、法律により成人男性は出国できません。そのため、今も攻撃の恐怖にさらされているハルキウで生活を続けています。アンドリーさんは「自宅に隣接するアパートでは直撃があり、いくつかの部屋が燃え尽きました」と話します。
■「ゼレンスキー大統領は必ず日本に行くべき」
アンナさんは、夫との電話を毎日欠かさないといいます。19日にお好み焼き店を訪ねた際も、言葉を交わしました。有働キャスターが現地の状況を訪ねると、アンドリーさんは「現時点では比較的落ち着いていますが、1日5回ほど空襲警報が鳴ります」と言いました。
――G7サミットでゼレンスキー大統領が日本に来て対面で会議をする、それについてどう思われますか?
アンドリーさん
「正直言って驚きです。もしそのようなチャンスがあるのなら、ゼレンスキー大統領は必ず日本に行くべきです。ウクライナの人々はゼレンスキー大統領を全面的に支持しているので、彼の言葉はウクライナの人々の意見なんです」
アンナさんも「言葉にできないほどうれしいです。肉親が来るような気持ちで…」と話しました。
――(G7の)リーダーたちに、どんなことを期待しますか?
アンドリーさん
「毎日、多くの人が死んでいくんです。逃げることができないほど、各国はロシアに対して厳しい制裁をしてほしい。ウクライナ側は軍事的な支援を求めています」
■「勇敢であれ」と書かれたバッグに涙
有働キャスターは取材中、「ちょっと、このまま待ってて」と席を外し、トートバッグを手に戻ってきました。「これ、去年、ウクライナに行った時に買ってきたんですよ。ウクライナ色(のバッグ)」と話し、アンナさんに手渡しました。アンナさんは「ありがとうございます」と受け取ります。
去年8月、ウクライナで取材した有働キャスター。プレゼントしたトートバッグは現地で購入したもので、銃を肩にかけた女性が、リュックとぬいぐるみを持った女の子と手をつないで歩くような絵が描かれています。さらに絵の横には「ウクライナ人のように勇敢であれ」という文字が書かれています。有働キャスターが「日本でウクライナの女性に会ったら、渡そうと思ってたんです」と伝えると、思わず涙があふれるアンナさん。「私の家族のような絵です」とつぶやきました。
サミットではウクライナの未来が議論されます。
アンナさん
「戦争が終われば、多くの人がウクライナを訪問したくなると思います。今、多くの人が広島に訪れているように、ウクライナを訪れるようになると願います」
(5月19日『news zero』より)