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【詳報】闇バイト事件裁判 被告が繰り返した「軽率さ」【#司法記者の傍聴メモ】

2024年12月30日 15:40
【詳報】闇バイト事件裁判 被告が繰り返した「軽率さ」【#司法記者の傍聴メモ】
警察署から送検される饗庭元被告(21) 2024年10月

「私の軽率な考えでやってしまったと思います」

2024年8月、埼玉県さいたま市で発生した逮捕監禁・恐喝未遂事件。闇バイトに応募し、指示役から言われるがままに犯行に加担した2人の被告。裁判で明らかになったのは、2人のあまりに「軽率」で「浅はか」な行動だった。
(社会部さいたま支局 浅賀慧祐)  

■闇バイトに応募 後戻りできない状況に…

関東で相次いでいる、闇バイトによる事件。ことし8月、さいたま市で起きた逮捕監禁・恐喝未遂事件の裁判が12月12日に行われた。

饗庭元被告(21)と佐藤拳太被告(25)は仲間と共謀し、さいたま市の公園の仮設トイレで被害者Aさん(当時34歳 男性)に対し腹を殴るなどの暴行を加えたうえ車に監禁し、現金を脅し取ろうとした罪に問われていた。

実は被害者のAさんも闇バイトの応募者で、指示役から報酬などの受け渡しという名目で呼び出され、事件に巻き込まれていた。事件の背景には、闇バイトのグループ内でのトラブルがあったのだ。

初公判で起訴内容を認めた2人。犯罪に加担するかもしれないと思っていても「軽率」に、あるいは「浅はか」に闇バイトに応募した結果、後戻りができない状況に追い込まれていた。

■「やめれば同じ目にあうかもしれない」”高圧的で乱暴な”指示役からの指示

実行役の1人、佐藤被告がSNSで「運び」と検索して闇バイトに応募したのは事件から2~3日くらい前のことだった。もう一人の実行役・饗庭被告も「パチンコの打ち子」などとバイトを探していたが、結果的に闇バイトに応募した。

事件当日、佐藤被告はまず、指示役「アカニシ」からの指示で都内のスーパーマーケットで饗庭被告を車に乗せる。この時点での佐藤被告の仕事は、まだ「運び」だったというが、その後、指示役が「アカニシ」から「ゴッサム」に変わった。

すると、「ゴッサム」は2人に「債権回収役として、詐欺の報酬を受け渡すと言って呼び出している人を車に乗せてほしい」などと指示。車から逃げないよう、抵抗したら暴行を加えていいとも伝えた。その理由について「ゴッサム」は、「その人がルールを破ったからだ」と説明したという。

公園に到着すると、2人は仮設トイレにいた被害者Aさんを引きずり出し、腹を殴るなどの暴行を加えて車に乗せた。そして「ゴッサム」は、スピーカー状態にしたスマートフォンの通話で、Aさんがルールを破ったとして叱責した。

「よその案件やってましたね」「この責任どう取ってくれるんですか」「きょう生きて帰れないかもしれませんよ」

Aさんが釈明をすると、2人に「殴れ」などと指示した。

2人は車を埼玉・秩父市に走らせたが、その途中、Aさんの口座に現金があることを知り、その金を引き出せるカードを取りに行くためAさんの自宅近くまで戻ることに。自宅に帰ったAさんが母親に被害を訴えたため、母親が110番通報し、現金を脅しとる計画は未遂に終わった。

なぜ2人は、指示役から言われるがまま犯行を続けたのか。

佐藤被告(被告人質問より)「(指示役ゴッサムについて)今回の仕事で初めて知り合ったが、高圧的で乱暴な印象がある」

そんな指示役グループに対し、饗庭被告の場合はすでに氏名や住所などの個人情報を送ってしまっていたという。

饗庭被告(被告人質問より)「住所や氏名などを指示役に渡していて、自分も同じ目にあうのではないかと思い、抜け出すことはできませんでした」

佐藤被告「やめたら同じ事を自分がされるかもしれないと思った」

こうした指示役との関係について、自身も闇バイトに応募していた被害者のAさんも「指示役に逆らえない立場だったのかなという思いもあり共感できる部分もある」などと話していた。

■高収入に疑問を感じても…なぜ闇バイトに?楽して稼げる仕事を選ぶ「軽率さ」と「浅はかさ」

2人の被告に共通する動機は「お金が必要だった」という点だ。とは言え、犯罪に直結する闇バイトに手を染めることにためらいはなかったのだろうか。

饗庭被告が聞かされていたのは、ATMを操作する男性を見張る仕事で、報酬は10万~20万円だったという。

検察官「報酬が10万~20万円ももらえるのを怪しいと思わなかった?」饗庭被告「思いましたが、軽率な行動をしてしまった」

弁護士「闇バイトに手を挙げたのはなぜですか」饗庭被告「お金が必要だったからということと、後のことを考えられなかったから」弁護士「後のことを考えられないくらいにお金に困っていた?」饗庭被告「・・・それほどではないです」

饗庭被告は、楽をして金を稼ごうとしたと認め、「私の軽率な考えでやってしまったと思います」と当時を振り返った。

その後も何度も「軽率」という言葉を使い、後悔を口にした饗庭被告。

一方、佐藤被告は闇バイトの背景に犯罪組織があると分かったうえで、犯行に及んでいたという。

佐藤被告「簡単には抜けられなくなるというのは想像していました」

検察官「振り返ってどういったことが原因だったと思う?」佐藤被告「浅はかな発想で、簡単にお金を得られると思って、闇バイトに応募して連絡してしまったことが、そもそもの間違いだった」

抜けられなくなることが想像できていながらも、楽に金を稼ごうと闇バイトに応募していたのだった。

■言い渡されたのは執行猶予付きの有罪判決 そのとき被告らの様子は

2人は被告人質問の中で、それぞれ今後どうしていくかを語った。

饗庭被告「しっかりとした普通の仕事につくことで、こういった世界から抜けられると思う」「調理師の資格を持っているので、そのような仕事につきたい」

佐藤被告「いまは決まっていないが以前働いていたところで働きたい」「(今後お金に)困らないように計画的にお金を使っていきたい」

そして迎えた12月23日の判決で、2人に言い渡された判決は懲役3年、執行猶予5年の有罪判決。

判決の理由について、裁判長は「役割を分担しながら行った組織的、計画的な犯行である」とした上で今回の犯行が、「犯罪組織が、闇バイトに手を染めた者に制裁を加えるなどして実行役を確保し、犯罪組織の維持を図る側面も有している」と指摘。

その上で「警察に相談するなど、ほかの合法的な手段をとらずに違法行為に及んだことに酌量すべき事情は見当たらない。被告人らは、強く非難されなければならず、その刑事責任は軽視できない」と指摘した。

2人は判決の理由が読み上げられるとき、裁判長の言葉に静かに耳を傾けていた。

◇ ◇ ◇

【司法記者の傍聴メモ】法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔……。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。

最終更新日:2024年12月30日 15:44