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「翻弄された」水商売 第2波への不安

2020年6月18日 12:37
「翻弄された」水商売 第2波への不安

6月19日、東京都では全業種での休業要請が緩和されます。

新型コロナウイルスのクラスター発生が指摘されたバーやナイトクラブ、いわゆる「水商売」も営業を再開します。

国や自治体の方針に「翻弄された」という水商売の現場。

同時に“第2波”への不安を抱いています。

■水商売一筋37年「初めて人として認められた」

「私、水商売に37年いるんですけど、初めて国から補償をいただいたなと思っているんです。もちろん足りない面もありますが、初めて人として認められたような気がして嬉しいです」

17歳から水商売一筋。銀座のナイトクラブ『ル・ジャルダン』『月の庭』など、4店舗を経営している望月明美さん(55)。

話を聞くと、まず出てきたのは感謝の言葉でした。雇用調整助成金や持続化給付金など、一部の経済支援の対象になったからです。

望月さんは水商売の社会的立場について「基本的に通常の融資も受けられない」と語ります。

■売上は消滅、毎月1200万円の支出

一定の経済支援は得られるとはいえ、極めて厳しい状況は続いています。異変は2月から始まりました。

望月さん「バレンタインの盛り上がり方が例年と全く違って、やばいなと思っていました。3月初めには、一部上場企業の方たちから、来店を自粛するということを聞きました。銀座は一番の稼ぎ時が12月、二番目が3月です。昇進祝いだとか、海外に転勤される壮行会とかが多い月ですから」

そして、東京都の小池百合子知事は3月30日、バーやナイトクラブに行くことを当面控えるよう、都民に呼びかけました。

これが営業自粛の決め手になりました。4月1日から全店営業を自粛しています。

望月さん「景気が悪いときはこれまでもありました。バブルの崩壊、東日本大震災やリーマンショックでも景気は悪くなりました。ただ、私たちが頑張ることを、誰かに止められはしなかったので・・・」

利益がギリギリ出るという売り上げラインは、月に約8000万円。

しかし、営業を自粛した4月からは売り上げが消滅。

家賃は4店舗合わせて約600万円。

従業員への給料や諸経費も約600万円かかり、月1200万円ほどの支出だけが2か月続いています。

■再開待てず、性風俗へ流れるホステスも

水商売では多くの場合、ホステスが個人事業主として店側と契約。

つまり、固定給は発生していません。

望月さんの店に在籍するホステスは約100人。

なかには、休業要請を無視するナイトクラブへ流れるホステスもいるといいます。

望月さん「さらに、性風俗に流れざるを得ないという子たちも実際にいます。『早く再開してください。そうしたら戻りますから』というようなことを言われます。彼女たちも可能なら性風俗へは流れず、銀座のナイトクラブにいたいと思うんです。でも、背に腹は代えられない」

■在籍するホステスへの支援

望月さんは、在籍するホステスたちを救おうと、大きく3つの取り組みを行っています。

在籍ホステスへの無料のランチ提供。さらに「オンライン接客」など、インターネットの活用。そして、各種補償に関する申請手続きの代行です。

在籍ホステスへの無料のランチ提供は『女の子たちを孤独にしたくない』との思いから始めました。在籍するホステスなら、いつでも温かいご飯が無料で食べられます。

取材日のメニューは「カツオのたたき定食」。

食べに来たホステスたちが「魚料理を食べられるのは嬉しい」と喜んでいました。

在籍ホステス「金銭面や体調面の不安があって(望月)明美ママに相談したら、結構気にかけてくださるので。女の子たちとコミュニケーションを持とうとしてくれているのかな、と思います」

「オンライン接客」などのインターネットの活用は、“新しい日常”を見越して始めた取り組みでもあります。

望月さん「このような状況が長引くんだったら、ホームページも充実させておきたかったです。いくらなんでも、5月からは営業再開できると思っていました」

■“新しい日常”に向けて

政府が緊急事態宣言解除の検討に入った5月22日。

望月さんは、一般社団法人「日本水商売協会」の記者会見の壇上にいました。

業界の健全化と活性化を目指す同協会は、“新しい日常”に向けて、業界独自の営業再開ガイドラインを作成しました。

ガイドラインでは、スタッフと客には「飲食時以外のマスク着用」「検温による入店規制」「ソーシャルディスタンスの確保」を求め、「定期的な換気」「保健所への情報開示」も徹底。

さらに、カラオケ利用時には「マイクの消毒」「歌う人のマスク着用」を求めるなど、項目は多岐に渡ります。

「日本水商売協会」代表・甲賀香織さんは、こう訴えました。

「ある大手キャバクラチェーンは、50店舗が閉店に追い込まれたと聞いています。営業を再開する店舗が出てくることは、もはや生きるために止むを得ない状況。せめて無防備な状態ではなく、このガイドラインを守って慎重に営業していただきたい」

ガイドラインを監修した、元佐賀大学医学部教授 医学博士・奥村徹さんは、新たな生活様式に合わせた水商売のあり方が必要だと指摘します。

「これから水商売が社会的に受け入れられるには、業界全体で頑張って、実際にクラスターもでていない、という実績を積んでいかなければ」

記者会見では「客やカラオケ利用時のマスク着用義務付けは、現実的か?」と質問が出ました。

望月さんはこう答えます。

「“闇営業”というと失礼ですけど、もうすでに営業を行っている店はいっぱいあるんです。だとしたら、客もガイドラインを守る店に来てほしい。私の店ではマスク着用を義務付けられる自信があります」

日本水商売協会は、国や自治体に働き掛け、連携してガイドラインの普及を進めていきたいとしています。

■長引いた休業要請「翻弄された」

5月25日、緊急事態宣言が全国で解除され、自治体によっては、全業種で休業要請が緩和されました。

しかし、東京都では休業要請が長引き、水商売の緩和は6月19日からの予定になっています。

望月さんは「すごく翻弄された」と話します。

「緊急事態宣言の解除後も、『ステップ2』や『ステップ3』の段階。

さらに『東京アラート』が発動されるなど、基準が明確でなく、よく分からない進み方でした」

さらに”第2波”への不安も拭えません。

「『夜の街』への対応を検証して、もっと効果的なやり方を行政の方々に考えていただきたい。逆効果の面もあったと思います。風営法を守らない店へスタッフも客も潜ってしまうことがあったので」

水商売一筋37年。「この仕事にプライドを持ってやってきた」という望月さん。

「夜の街」や水商売に対する無理解や偏見とも向き合っていきたいと決意しています。