宮内庁担当記者が見た「立皇嗣の礼」
コラム2回目、笛吹雅子です。今回は、11月8日に行われた「立皇嗣の礼」のお話を。
■「立皇嗣の礼」当日は、秋晴れ
秋篠宮さまが皇位継承順位第1位の皇嗣となられたことを示す「立皇嗣の礼」は、当初、今年4月19日に行われる予定でした。
政府は直前まで開催を模索していましたが、延期されることに。そこには、新型コロナウイルスの感染拡大と国民生活への影響を心配される、天皇陛下と秋篠宮さまの強いお気持ちがあったそうです。
およそ7か月経って迎えた儀式の日は、秋晴れの素晴らしいお天気に恵まれました。参列者の人数を減らし、祝宴を無くし、換気をよくするなど感染症対策をとって、「立皇嗣の礼」は行われました。
朝から秋篠宮さまのご表情は「晴れやか」には見えないものでした。緊張であったのか、オンラインを活用した公務や儀式のリハーサルなどでお疲れがあったのか、新型コロナが感染拡大の様相(11月8日当時)を見せる中で人々の気持ちに添おうとされていたのか、私には分かりませんでした。
秋篠宮さまにとってこの儀式は「おめでたいこと」である以上に、「厳かで重たいこと」だったのではないでしょうか。事前にリハーサルを何度も行い、お辞儀のタイミングなど所作を細かく確認されていたといいます。
対照的に、天皇皇后両陛下は穏やか、にこやかにされていました。儀式を行う大変さやお立場の重圧は、経験された方にしか分からないものがあるのでしょう。表情でお祝いを伝え、秋篠宮さまの緊張をほぐそうとされているようにも思えました。
■皇后さま、17年ぶりの「お言葉」
中心儀式である「立皇嗣宣明の儀」を終えた後、秋篠宮ご夫妻は宮中三殿に拝礼されました。殿上(でんじょう)に上がられるのは、1990年のご結婚以来30年ぶりのことです。
宮中三殿は、外からは見えませんが、中は「外陣(げじん)」と「内陣(ないじん)」に分かれ、宮家の方がご結婚の報告時に入られるのは外陣まで。
この日は、天皇陛下から皇太子に伝わる守り刀「壺切御剣(つぼきりぎょけん)」を授けられたことで、秋篠宮さまは祭祀でも「皇太子」と同じになり、ご夫妻は初めて「内陣」に入られたのでした。
拝礼の所作も全く違うといいます。陛下は事前の準備についても心配りを見せられていたそうです。「陛下は本当にお優しい」周りの人からよく聞く言葉です。
皇后雅子さまは、午後の「朝見(ちょうけん)の儀」で秋篠宮さまに言葉を掛けられました。公の場でのお言葉は、療養に入られて以来、なんと17年ぶりです。
「どうぞ、これからもお健やかにお務めを果たされますように」。温かい声。秋篠宮さまを見つめるその表情に気持ちが込められていたと思いました。皇后さまのこれまでの歩みを思い、私は、平成から令和となった去年からのことを思い出していました。儀式を終えると、先に「松の間」を退出した両陛下は、ご夫妻が出てくるのを待ち、ねぎらわれていたそうです。
代替わりに伴う国の儀式が、全て終わりました。
皇居をあとにする際、秋篠宮さまは記者に笑顔で会釈をされました。この日、私が拝見した初めての笑顔です。儀式を終え、本当にほっとされたのではないか、そう思いました。
■所作の美しさと日本の伝統技術
さて、儀式では様々な注目ポイントがある中で、目をひいたのは、皇后さまと紀子さまの衣装と所作の美しさでした。皇后さまの小袿(こうちぎ、上着)は藤色の「ハマナス」の文様、紀子さまの小袿は、萌木(もえぎ)のかさね(色の合わせのこと)、「檜扇菖蒲(ひおうぎあやめ)」の文様。ともにお印(しるし)です。
(皇室の方々は、持ち物や調度品に描かれる「お印」というものを個々に持たれています。天皇陛下は「梓(あずさ)」、秋篠宮さまは「栂(つが)」、他の方々にもあります)
日本の絹織物と染色の技術の高さ、美しさに改めて感じ入りました。陛下の装束「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」も秋篠宮さまの装束「黄丹袍(おうにのほう)」も、あの独特な色を出すのは大変だそうです。こうした儀式があるからこそ、継承出来る日本の伝統技術があると思っています。
「松の間」を歩かれた時には、絹の衣が擦れるゆっくりとした「しゅるり、しゅるり」という音が聞こえました。耳にしたのは去年10月の「即位礼正殿の儀」以来です。装束を身につけ落ち着いた所作の中で生まれる「伝統」の音だと思いました。
■儀式で盃に注がれる「九年酒」とは
儀式で言いますと、前から気になっていることがあります。残念ながら映像や写真にはありませんが、「朝見の儀」では、盃(さかずき)を交わされる場面があります。今回は、新型コロナ対策のため、口はつけられませんでした。
盃に注がれるのは「九年酒(くねんしゅ)」なる黒い液体。皇族方ご結婚時の儀式にも登場します。黒豆を日本酒やみりんで煮た汁を煮詰めて作るそうですが、遠目で見てもかなりとろりとしています。
聞くと、黒蜜のような、丁寧に煮詰めたみたらし団子のたれのような見た目で、香りもそんな甘い感じだとのこと。儀式は明治になって始まったものです。宮中のお祝いのたびに用いられてきたという九年酒。どんな味なのか興味深いです。
「皇室の伝統」について、天皇陛下は即位前の記者会見で、「過去から様々なことを学び、古くからの伝統をしっかりと引き継いでいくとともに、それぞれの時代に応じて求められる皇室の在り方を求めていきたいと思います」と述べられています。
新型コロナで皇室のご活動にも制約が多い時ですが、これから先、天皇陛下と皇嗣の秋篠宮さまが二人三脚で、皇后さまや紀子さまとともに、どのように皇室の在り方を求め続けられていくのか、その姿を取材していきたいと思います。
次回は、新型コロナと両陛下をテーマにと考えています。
動画は「立皇嗣宣明の儀(宮内庁担当笛吹キャップが解説)」(2020年11月8日放送「日テレNEWS24」より)