上皇さま、87歳の誕生日 ご近況【全文】
上皇さまは、87歳の誕生日を迎えられました。今年3月末に東京・高輪にある仙洞仮御所に引っ越し、上皇后さまと穏やかな時を過ごされています。
新型コロナウイルスにより、国民生活が一層厳しく、困難な状況になっているとして、誕生日の行事は全て取りやめられました。
宮内庁が公表した上皇さまの近況について以下、全文です。
【上皇陛下のご近況について(お誕生日に際し)】
上皇陛下は、仙洞仮御所において87歳のお誕生日をお迎えになります。
仙洞仮御所はかつて高松宮邸として使用されていましたが、陛下は、ご疎開先からご帰京になった翌年の昭和21年2月、当時の高松宮邸をご訪問になっています。その頃、仮御所に隣接する高松中学校はまだ建設前で、その場所は宮邸の敷地内でしたが、陛下は、そこにあった大きな池に坂を下りて行かれたことを懐かしく思い出されていました。
仙洞仮御所でのご生活は、新型コロナウィルスの蔓延により、当初の想定から一変しました。陛下は、上皇后さまと共に、新型コロナウィルスの感染が国内外で拡大し、人々の健康と日常生活に大きな影響を及ぼしていることを深く案じられ、この感染症への理解と感染防止のための医学的、社会的な取組みに関心を向けてこられました。侍医や侍従からは日々の感染状況を、永井皇室医務主管からは100年前に流行したスペイン風邪との違いやこれまでの感染症の歴史などについてお聴きになりました。
新型コロナウィルスの感染拡大により、様々な社会活動が大きな制約を受ける中、青年海外協力隊員の活動にも影響が出ていることをご心配になりました。
両陛下は、昭和40年の第1回派遣から出発前の隊員を、昭和43年からは帰国隊員の代表を定期的に御所にお招きになり、また、外国ご訪問の度に現地隊員にお会いになった他、10年毎の青年海外協力隊発足記念式典へのご臨席、都内の訓練施設のご視察、殉職隊員の慰霊等、様々な形で青年海外協力隊の活動を支えてこられました。昭和60年に隊員数名が交通事故で負傷し一時帰国した時には、非常に案じられ、お気持ちをお察しになった当時の妃殿下が病院に見舞われ、様子をご報告なさっています。
海外のことですが、新型コロナウィルスの感染拡大により運営の困難化が報じられたブラジル・サンパウロの「ブラジル日本移民史料館」は、昭和53年6月のブラジル日本移民70周年記念式典の折にその落成式にご臨席になり、その後も運営を支援してこられた施設であり、その行方を案じていらっしゃいます。
また、陛下は早くより沖縄の人々の苦難の歴史を深く心にされ、昭和の時代から、当時まだビザを持って本土を訪れる沖縄の「豆記者」や伝統文化の継承者を御所にお招きになり、沖縄の詩歌を研究してご自身でも琉歌をお詠みになるなど、その文化の理解と継承を大切にされてこられました。沖縄に寄せる思いは今も変わるところがなく、首里城の焼失を悲しまれ、首里城の歴史を紹介する長いテレビ番組を上皇后さまと共に何回かに分けてご覧になり、その再建が着実に進むことを願われています。
再び急増する新型コロナウィルスにより、国民生活が一層厳しく、困難な状況になっていることから、今年は記帳を含めすべてのお誕生日行事をお取り止めになり、恒例の御祝御膳もお控えになります。
ご即位前から大切にしてこられた沖縄県慰霊の日、広島・長崎原爆の日、終戦記念日並びに阪神淡路大震災及び東日本大震災の発生日には、上皇后さまと共にご黙祷になりました。また、宮中祭祀が行われる時間は、いつもお慎みでいらっしゃいます。
東日本大震災で全村避難となった福島県飯舘村村長退任報道の折には、同村をお見舞になった当時を振り返られながら、被災地のその後の様子を案じていらっしゃいました。これまでにお訪ねになった国や地域、お繋がりのある人が新聞やテレビで報じられると、いつもその時のご訪問やお会いになった人のことを上皇后さまにお確かめになったり、記録をお取り寄せになったりして、当時の状況や人々の苦楽を思い起こされ、静かに社会の安寧と人々の幸せを願っていらっしゃるご様子です。
今年は、両陛下とご親交のあったねむの木学園園長の宮城まり子さん、環境保護活動家のC・W・ニコルさん、和歌担当の元宮内庁御用掛の岡井隆さん、作家で沖縄県在住の大城立裕さん、文化勲章、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんらが亡くなり、陛下は深い弔意を表されると共に、上皇后さまをお相手に思い出のあれこれをお話になり、一人ひとりをお偲びのご様子でいらっしゃいます。
生物学研究所でのご研究は、ご移居後、新型コロナウィルスの感染拡大により暫く控えていらっしゃいましたが、職員体制の縮小、Web会議システム導入等の感染防止対策を講じ、5月末からお出ましを再開していただきました。当初は週1回程度でしたが、今は週2回通っていらっしゃいます。
現在、昨年来の西表島等で採集された標本と海外の標本との比較研究を更に進めておられ、南日本に生息するオキナワハゼ属に関する新たな論文の完成が近づいています。また、日本の河川に広く生息するチチブ類の研究も続けられ、生物学研究所職員とチチブ類3種における鰾(うきぶくろ)の機能と遊泳行動の関係を明らかにするため、飼育と実験観察を進めていらっしゃいます。
生物学研究所へのお出ましがない日は、午前中1時間程、地球上の動植物の生態や自然環境、世界の文化遺産や文化交流の足跡等を紹介するテレビ番組の録画をご覧になります。
ご体調については、幸いなことに特段の問題はありませんが、お年を召され、上皇后さまにいろいろとお尋ねになることが多くなられたようにお見受けします。何度か繰り返されるご質問にもその都度丁寧にお答えになる上皇后さまと、それを聞かれご納得になるといつも明るい笑顔におなりになる陛下。時に、勘違いや戸惑いがあっても、一緒にお笑いになりながら、ご記憶を新たにされ、日々のご生活を確かなものとされています。
なお、陛下には、昨年から始まった一連の御代替(みよがわ)りの行事を上皇后さまと共にすべて静かに見守ってこられましたが、先般の立皇嗣の礼をもって、全ての即位行事がつつがなく終了したことに深くご安堵のご様子でいらっしゃいました。
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先週16日、大雪により新潟県関越自動車道で発生した最大2100台の車両立ち往生は、18日夜に全車両の移動が完了し救出されましたが、19日朝、それまで様子をご心配になっていた陛下は、上皇后さまと共にこの報道を御覧になり、ご安心になっていらっしゃいました。