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【専門家解説】観光船事故は「人災」 読み誤った気象予測――現場は複雑な波…「海域の特性に慣れるまでのトレーニングあったか疑問」

2022年4月26日 8:41
【専門家解説】観光船事故は「人災」 読み誤った気象予測――現場は複雑な波…「海域の特性に慣れるまでのトレーニングあったか疑問」

北海道・知床半島沖で起きた、観光船「KAZU 1(カズワン)」の事故。波浪注意報が出ていたにもかかわらず出航した判断が問われています。高さ3メートルという波や、30度という船体の傾きは、どんな状況だったのでしょうか。水難事故の専門家に聞きました。

■8項目の「発航前検査」不十分か?

有働由美子キャスター
「元海上自衛官で水難学会副会長の安倍淳さんは、今回の事故を人災と捉えています。『船体・機関などの整備』『積み荷の配置、安定性』といった8項目がある、船長の義務である『発航前検査』が不十分だった可能性は考えられますか?」

安倍さん
「そうですね。8項目は非常に重要なものが並んでいますが、特に、知床のような切り立った、気象の変化が激しい所では『気象などの情報収集』が本当にされていたのか、予測されていたのかが、大きなポイントになるのではないかと思います」

■波は「3メートル」に…予測は

有働キャスター
「国土交通省北海道開発局によると、斜里町ウトロの23日の波の高さは、観光船が出航した時間には50センチに満たなかったものの、船から『沈みかけている』と連絡があった頃には2メートル、そして最終的には3メートルを超えています」

「出航前に波浪注意報が出ていましたが、2メートル、3メートルという波は予測できなかったのでしょうか?」

安倍さん
「おそらく波浪注意報の中で、午後から波も風も上がるという予測はされていたのだと思います。現に、ウトロ港から出ている漁船や同じ観光業の船も出航を手控えている状況からすると、読み誤ったと言わざるを得ないと思います」

有働キャスター
「あの地形で3メートルの波というのは、どういうものでしょうか?」

安倍さん
「予報値の3メートルは、何分かに1度、何百回に1回の割合で、3メートルを超える高波が発生するというものです。『一発波』が発現すると言われています。5メートル近い波が立っていた可能性もあるといいます」

「現場の海域付近は岩礁が切り立ち、これが海底の中まで続いているので、波も回折や屈折をします。そうすると、あらぬ方向から高い波が押し寄せていた可能性もあると言えると思います」

■舷の近くまで水…「船体30度」とは

有働キャスター
「船体が30度ほど傾いているという連絡があったということですが、どの方向に、どういう風に傾いていたと考えられますか?」

安倍さん
「(事故を起こした)『KAZU 1(カズワン)』のサイズからすると、おそらく両弦のタラップ付近、ほとんど舷の高さまで水が迫っていたのかなと思います」

有働キャスター
「(船の)中にいる方々は、立っていられないような状況でしょうか?」

安倍さん
「中から見たら水が目の前に迫り、体を保持する、真っすぐ立つことができない状態です。ライフジャケットを着た状態なら、特に高齢者の方は動けない、脱出口まで歩けない状況に陥っていたのではないかと想像されます」

「(現場の海域では)波が立つと、一方向からのうねりだけではなく、岸に押し寄せたうねりが反射して返ってきます。それらが岬の突端付近、浅い所に行くと波は曲がるので、屈折を繰り返して、非常に複雑な波が発生する所だと思います」

■船長ら「総入れ替え」影響は?

有働キャスター
「そういう状況を考えても、去年の春、運航会社の従業員がほぼ全員入れ替わったのは影響が出ているのでしょうか?」

安倍さん
「この海域の特性に慣れるまでに、運航会社と船長が現場を把握するためのトレーニング、完熟するための期間があったのか、非常に疑問が残るところです」

有働さん
「一刻も早く救助するためのポイントは何になりますか?」

安倍さん
「25日で事故の発生から3日目で、知床岬の先端付近でご遺体の多くが発見されています。岬を回り込んで羅臼町にまでご遺体が流れていることを考えると、捜索範囲がものすごく放射状に広がっています」

「捜索に当たられている地元の漁師や、海上保安庁の船や航空機がこれから広範囲を探すことになると思うと、発見(され得る範囲が)が時間とともに延びていくことになると思います」

(4月25日『news zero』より)