「理念に反するけど、違反ではない」 公選法の「穴」ついた“2馬力選挙” 法改正には「大きな意義」でも実効性は?

選挙の立候補者が、自分の当選は目指さずに、他の候補者を応援する、いわゆる“2馬力選挙”。「公平な選挙」をかかげる公職選挙法の違反にはあたらないが、「理念に反する」と識者は指摘します。こうした動きを規制する法改正案が26日、参議院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立しました。改正法は6月の東京都議会選挙や夏の参議院選挙にも適用される見通しで、実際に歯止めをかけられるのか、注目されます。(日本テレビ報道局社会部・選挙取材班 島津里彩)
■2馬力選挙の違和感とは
2024年の兵庫県知事選挙で再選を目指していた、斎藤元彦知事を応援するため立花孝志氏が自身も出馬し応援したことが問題視されたことをきっかけに、“2馬力選挙”という言葉が生まれ、注目されるようになりました。
公職選挙法=公選法では選挙活動の公平性を担保するため、候補者1人に割り当てられる政見放送の枠、ポスターや選挙カーの数などが決まっています。
一方で、現行の公選法では選挙運動において、候補者が他の候補を応援するということは想定されておらず、「他の候補者を応援してはいけない」というルールは設けていません。
しかし、2馬力選ではこの法の穴をついて、選挙カーや政見放送の枠など、本来であれば候補者1人に対して数の制限などが設けられているものについて、自分の分を他の候補者を応援するために使用し、まさに”2馬力”で選挙を進める現象が起きています。
こういった2馬力選挙をめぐっては、国会答弁で石破総理が「どう考えてもおかしい。各党の合意を得て、法改正をはじめ誰もが納得する運動のあり方を確立するのは喫緊の課題だ」という認識を示しているほか、全国の知事の有志らが政府・国会に対し抜本的な対策を要請しています。
選挙問題に詳しい早稲田大学・政治経済学術院の日野愛郎教授によると、ポスターや選挙カーの数が設定されている理由として、誰もが同じ量で選挙活動ができるように、という公選法の理念が背景にあるといいます。
こうした理念がある中で、2馬力選挙で他の候補者を応援する行為は、違反には当たらないが公選法で掲げる公平性の理念に反した行為にあたるとしています。
2馬力選挙をめぐっては、国会に提出され、26日に成立した、改正公選法の付則で、2馬力選挙を念頭に候補者間の公平を確保するため、施策のあり方を検討し、必要な措置を講じることとされています。
このほか、「ポスターの内容」については、現在の公選法ですでに他の候補者の応援として選挙運動を行うことなどを禁止していましたが、一方で「ポスターの内容」を制限する規定はなかったため、新たに規定が設けられました。
・ポスターには候補者の名前を記載しなければならない
・他人や他の政党などの「名誉を傷つける」ことなど禁止
・「営利目的」商品の広告や宣伝の禁止→違反した場合100万円以下の罰金
改正法は、6月の東京都議会選挙や夏の参議院選挙にも適用される見通しです。
■売名や営利目的の立候補防ぐ“供託金” しかしストッパーにならない?
各選挙では当選する意思のない人が、自分の売名行為や営利目的などのためにむやみに立候補するのを防ぐための「供託金」という仕組みがあります。
供託金は選挙の種類により金額が決まっていて、例えば、都道府県の知事選挙では300万円、比例代表の場合は600万円となっています。
この供託金はいわばエントリーフィーのようなもので、投票総数に対して一定の票に達しない場合は全額没収される仕組みとなっています。
しかし、昨今の選挙では供託金の没収のリスクを超える、メリットがあると指摘されています。
・政見放送の枠の確保・選挙カーを使った演説
・ネットやSNSでの意見拡散→知名度の向上と、それによるSNSでの収益化など
こうしたメリットもあり候補者の乱立を防ぐ役割としての供託金が、その効果を十分に発揮できていないケースも見受けられます。
実際に、去年の東京都知事選では過去最多の56人が立候補し、このうち53人の得票数が基準に達せず供託金が没収となりました。中には政見放送で都政と関係ない自身の主張や、自身のSNSアカウントや、動画チャンネルの宣伝などをする候補がいましたし、掲示板に自身と全く関係のない画像やイラストのポスターを掲示する候補もいて、物議を醸しました。
■供託金の金額をあげるよりも制度の見直しを
こうした当選を目的としていない候補者の乱立を防ぐために、供託金の金額をあげたらいいのではないかという声もありますが、日野教授は金額をあげるというのは「国民の被選挙権として誰しもが選挙に出ることができるという権利を制限することにもつながりかねない問題」だとします。
また、打開策としては、供託金を「あげるというよりは、選挙公営制度(=ポスターやビラの作成、政見放送などに必要な選挙の経費を国が負担する制度)の制度自体を現代的に見直していくという方法がいいと思う」としています。
■「選挙のルールを一人ひとりが知っておくことが重要」
ポスターの規制や、2馬力選挙をめぐり、法改正が行われた場合、どのくらい制限ができるのかについて、日野教授は「理念として明記されることには大きな意義があると思う。あとは実効性の問題で、どういった処罰が考えられるのか、そしてそれを厳格に適用しうるのかという問題をこれから議論しなければいけない」といいます。
「また、法律において、判断基準がどこにあるのかというのは特別明記されていないので、議論の余地がある」と話したうえで、「どれだけ実効性を伴うのかということは成立したあと、しっかりと注視していかなければいけない」としています。
さらに、有権者である我々が投票する際にきちんとした判断基準をもつためにも、「ちゃんと法律があって、そういった不正利用は認められないのだということを国民が認識し、一人ひとりがルールを知っていることが大事」だとしています。