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長周期地震動で高層ビルの揺れはどうなる?

2021年3月4日 11:45
長周期地震動で高層ビルの揺れはどうなる?

東日本大震災から10年、当時被災地では何が起こっていたのか、今一度検証し、これからの大地震へどう備えるか考えます。あの日、東京都心の高層ビルは、地表での激しい揺れが収まった後も、いつまでもゆっくり大きく揺れ続けていました。東日本大震災で発生した長周期地震動特有の揺れでした。


■揺れの「周期」とは…

地震が起きると地面などがガタガタと揺れますが、その1回の揺れ、行って帰ってくるまでの一往復でどのくらいの時間がかかるのか、その時間を「周期」といいます。

木造家屋がガタガタ揺れる場合、周期は1秒にも満たない短周期地震動です。一方の長周期地震動は、1往復に3秒といったように長い時間がかかり、ゆっくり揺れます。巨大地震が発生すると、こうした様々な周期の振動が生じるのです。


■長周期の揺れで高層ビルは…

地上55階建て、高さ256.0mもある大阪府の咲洲庁舎では、たまたま東日本大震災の直前に観測装置が設置されていて、ゆっくりと長く大きな揺れの様子が記録されていました。

地表での揺れは最大で震度3だったのですが、咲洲庁舎の52階では片側で1メートル40センチほど、往復で3メートル近い横揺れが約10分間続いていたことがわかりました。咲洲庁舎では天井の落下や床の亀裂など360箇所が損傷し、エレベーター全32基中26基が緊急停止。男性5人が5時間近く閉じこめられました。

当時庁内にいた人は
「このまま折れて自分が真下に落ちていくんじゃないかと恐怖を覚えた」と言います。


■高層ビルの揺れ方による危険とは…

東日本大震災の7日前となる2011年3月4日、東京・港区で日本建築学会が長周期地震動対策に関する会合を開き、記者会見を行いました。長周期地震動で超高層建物がどんな被害を受けるのか、それを防ぐための対策をどうしたらよいか、学会として検討してきた長周期地震動の問題を世の中に初めて示すものでした。

高層ビルが長周期地震動によって今まで経験したことのない揺れ方になることは、それまでほとんど知られていなかったのです。学会の報告書では、都心部に林立する超高層建物群が崩壊する可能性はほとんどないとしたうえで、次のような問題点を指摘しました。

・超高層建物は大きな揺れが長時間継続する

・柱などは大丈夫だとしても、天井や仕切り壁などの非構造部材の損傷は可能性が極めて高い

・家具や什器類が移動・転倒する可能性が極めて高く、ローラーがついている大型のコピー機などは凶器のようになってフロアを動き回る

・地域によって特性が違い、超高層建物の構造特性にも差があるので、個々の建物ごとに異なった揺れ方となり被害も違ってくる

・高層階で揺れを経験すると恐怖感から精神的なダメージが大きいので、所有者・使用者・居住者への啓発が重要

東京や大阪などの高層ビルでは、この指摘からわずか7日後、恐れていたことが現実となったのです。


■マンションの住民は在宅避難を(東京・港区)

それでは、高層マンションなどでは地震にいかに備えれば良いのでしょうか?

東京・港区は平成29年に「マンションの住民は避難所に避難するのでなく、自宅にとどまり、在宅避難をしてほしい」と呼び掛けるハンドブックを公表しました。

港区によると、約26万人の人口のうち約9割が共同住宅に住んでいて、20階建て以上の超高層マンションが55棟にも達しています(平成28年現在)。中には1ヶ所だけで1万人もの住民がいるマンションもあります。


■マンションの震災対策は…

そのマンションの高層階で、地震によってライフラインが途絶してしまうと、生活を維持するのは大変に厳しくなってしまいます。水を汲みに行くにしても、エレベーターがストップしてしまい、階段を歩いて重たい水を運ぶことになります。さらに、余震のたびに部屋は大きく揺れ続けます。

高齢者の場合は、何度も階段を往復するのは厳しく、一度地上に降りたらそのまま避難所に
避難したくなることも容易に想像されます。しかし、港区内の避難所は57ヶ所で、収容可能人数は約4万2千人に過ぎません。

さらに、コロナ対策を考慮すると収容可能人数はさらに減ってしまいます。港区としては、避難所ではプライバシーが保護された生活は厳しいうえに、避難所の収容能力に限界がある以上、自宅スペースが倒壊していない人は在宅避難してほしいとしているのです。

在宅避難で自宅に居続ける場合、重要となるのが食料や飲料水、バッテリーなどの備蓄で、港区では各家庭に1週間分以上の備蓄を呼び掛けています。


■トイレを使わないように

そして、過去の地震でも発生したマンションでの大きな課題が、下水の漏洩問題です。地震の揺れで下水の配管が一か所でも壊れたり外れたりすると、上階で流した排水が途中階であふれ出してしまい、悪臭が立ち込めてしまうのです。

こうしたことから、港区では地震発生後は排水管の安全が確認されるまではトイレは一切使用しないように呼び掛けています。簡易トイレやおむつなどを各家庭で事前に用意しておいて、そこで用を足すようにしてほしいというのです。

高層マンションでは、しばらく支援が届かなくても生活できるだけの備蓄をし、家具などが凶器に変身しないように固定するなどして、巨大地震から生き延びるための準備を進めておくことが求められています。