HPVワクチン接種した男性医師に聞く
子宮けいがんの原因となるヒトパピローマウイルス=HPVは、男女問わず感染し、男性ののどや肛門のがんにも関係しています。HPVへの感染を防ぐためのワクチンについて、自らも接種した男性医師に聞きました。
子宮けいがんは、子宮の入り口にできるもので、ヒトパピローマウイルス=HPVへの感染が原因です。
HPVは多くのタイプがありますが、その一部の感染を防ぐためのワクチンは、小学6年生から高校1年生の女子は公費で、つまり無料で接種できます。
去年12月、厚生労働省が認可し、男性も自費であれば接種可能になりました。
実際にワクチンを接種した婦人科の重見大介医師に聞きました。
■子宮けいがんとは
【重見医師】
子宮けいがんは、他のがんと比べ、20代や30代で多く発症します。命を落とさなくても、子宮摘出など大きなダメージを与えてしまうのが特徴です。
妊娠直後や、まだ小さい子どもがいるお母さんの世代が発症し、長期入院が必要とか、もう治療の手だてがなくて「余命何年です」みたいなお話をしなきゃいけない時に、ご家族が小さなお子さんを抱いていたりするんです。
こうした状況で、そういったお話をしなくてはいけない時があり、医療者としてもすごく心を痛めます。
■なぜ男性も接種?
【記者】
なぜHPVワクチンを接種しようと思ったのですか?
【重見医師】
HPVは成人男女のほとんどが、生涯に一度以上かかることがあると言われているぐらいありふれたもので、私自身も無関係ではないと思っていました。HPVの感染を予防できる方法がワクチンなんですね。
私が接種したのは、30歳をすぎてからですが、一人の人間として、パートナーにHPVを自分からうつすということは、やっぱりしたくないですし、HPVの病気に関係した仕事をする上で、自分自身もしっかりと接種した上で、お話をしたいなというふうに思ったのです。
【記者】
パートナー間で感染するとなると、誰からうつったのか考えてしまいます。
【重見医師】
他のウイルスは、感染して少なくとも1~2週間ぐらいで何かしらの症状が出ることが多いです。風邪や新型コロナウイルスなどもそうです。
ただHPVが悩ましいのが、女性の場合、特に子宮けいがんの病気になるまでには、感染して数年から10数年、長い方だと20年間経過してしまう。その幅の中で、いつ感染したのか本当にわからない。現在の検査では、いつ感染したのかを特定する方法はありません。
患者さんも「これって、いつの何だったんだろう」と悩んでしまうことは当然ですし、男性パートナーがいれば、「自分のせいだったのか」と当然考えてしまう。
私たちとしては、「ありふれているウイルスなので、犯人探し、いつどこで誰が感染したのか、させたのかを考えることは、ほとんど意味がありません。お気持ちは大変わかるけど、そこを今考えるんじゃなくて、しっかりとこの病気をどう治していくか、どう支えていくかを一緒に考えましょう」とお話しています。
【記者】
この病気を男性が自分事としてとらえるには?
【重見医師】
男性からすれば、子宮の病気と言われたら、自分には関係ないと思ってしまいます。でも将来のことを想像してみて、「子どもをほしいと思ったけど、それがかなわなくなる可能性があるのかな」とか、そういったイメージで考えてみていただければ、ちょっと関心を持ってもらえるのかなと思います。
■実際に接種したい場合は?
【記者】
男性は自費での接種となりますが、費用は?
【重見医師】
HPVワクチンはいくつか種類があり、私が接種したのは4価というものです。3回接種が必要で、3回分合わせて、医療機関によりますが、4~5万円ぐらいしてしまうというのが現状です。
【記者】
ちょっと高いですね。
【重見医師】
そうですね。もちろん全然安いとは思いません。このウイルスに感染したとしても、9割ぐらいは自然にウイルスが消えると言われています。みんながみんな、必ず病気になるとは限らないですけれども、子宮けいがんは感染してから長年かけてがんになっていきます。
例えば男性だと、子宮けいがんは自分には起こらないが、性感染症の一つとして尖圭(せんけい)コンジローマという病気も、実はHPVが原因なんですね。
それは、がんよりもはるかにありふれた病気で、命を落とすことはほとんどないんですけれども、陰部にイボみたいなものがたくさんできて、目に見えてわかるので、男性としてもめちゃくちゃショックです。あと、治療がすごく大変なんですね。
そういった性感染症にも関係するので、HPVワクチンは子宮けいがんを防ぐということもあるけれど、尖圭コンジローマという病気もあるし、のどにできるがんなどにも関係しているので、トータルに、長い目で見れば、すごく費用対効果は高いと思います。
【記者】
男性が接種しようと思った時に、誰に相談したらいいですか?
【重見医師】
ワクチンを接種するには、病院やクリニックになります。ただ、そのワクチンを普段から置いてあるかどうかは、医療機関ごとに違うので、まず電話で聞いてみてください。
今まで基本的に女性を対象に、日本では接種がされてきたので、主に産婦人科に(ワクチンが)置いてあることが多いですね。
【記者】
産婦人科に男性が一人で行きにくいと思うのですが、実際にどこで接種されましたか?
【重見医師】
実際、男性が接種しようとすると、結構切実に難しい状況はあると思います。私は、先輩のドクターの産婦人科のクリニックで接種したんですけど、一人で待っているのが若干恥ずかしかったです。なんかチラチラ見られたり。
もうちょっとHPVワクチンについて広まっていけば、「HPVワクチンを接種している男性って、すごく考えてくれているよね」「かっこいい」とか、「しっかりしている」「優しいね」というイメージが男女の間で広がっていってくれたら、きっと男性も前向きにもっと接種するかもしれないなと思うので、そういうイメージも大事かなと思ったりします。
男性は「これは自分自身のためだし、世の女性たち、将来のパートナーのために自分は一歩を踏み出したんだ」ということで、自信を持って行ってみてほしいなと思います。
■プロフィール/敬称略
重見大介(しげみ・だいすけ)
1986年生まれ。産婦人科専門医・公衆衛生学修士。日本医科大学付属病院などで産婦人科医として勤務。2018年から東京大学大学院博士課程に在籍し、産婦人科領域の臨床疫学研究に従事している。
「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」のメンバーとして、HPVワクチンの啓発活動も積極的に行っている。