濡れ衣 ~闘い続ける余命一年~
殺人の濡れ衣を着せられ、29年間を塀の中で過ごした男。余命1年、司法との闘いはまだ続く…。
桜井さん「自分たちが正しいとしたことを、正しくするためにあらゆる不正を行う。この部分がなんとしても許せない」「腐ってるんですよ!あいつら」
桜井昌司(74)獄中で書いた詩を、自ら披露する多才な男。
「強盗殺人」容疑で逮捕されたのは20歳の時。法廷で無実を訴えたが、判決は無期懲役。身に覚えのない罪。仮釈放となり、ようやくシャバに出た。この時49歳。自分はやっていないと、無実を訴え続けた。
桜井さん「いくら冤罪事件があっても反省しない警察、反省できない検察庁、無責任でいる裁判官、許せません」
事件から43年、ついに濡れ衣は晴れる。裁判所は冤罪だったことを認めた。29年を獄中で過ごした後の無罪判決。64歳になっていた。
桜井さん「やっと念願がかなって無実を勝ち取ることができました」
叫び続け、ようやく手に入れた潔白…。桜井が犯人にされた「布川事件」。大工が殺害され、現金を奪われた。警察は、素行不良者を次々に別件逮捕した。桜井は知人のズボンを盗んだ容疑で別件逮捕される。刑事は桜井を脅し「殺人の自供」を迫った。
桜井さん「『お前が犯人なんだ。見た人はいる、証拠があるんだ』要するに自白しないと死刑なんだと、そういう脅しをされることがすごくつらいんですよ」
強引に、自供させられた時の音声。
「玉村象天さんのところに金を借りに行って断られたので、殺して金を取った」
ところが、一連のテープを専門家が鑑定すると…
中田宏さん(音声分析の専門家)「10か所以上の編集されたであろう跡が検出されました」
編集されていたテープが見つかったのである。そして桜井のアリバイを証明するはずの調書も再審まで隠されていた。警察と検察が隠し続けた証拠は全部で154。それが世に出たことで、真相が明らかになり、無罪となった。
桜井さん「明らかに無実の証拠を隠したままで、平然としていられるというのは、ほんとに納得できない」
両親は息子の無罪を信じながら、亡くなった。親の死に目にもあわせなかった司法。いまだ、おわびの言葉もない。
桜井さん「やっぱり親に会いたかった」「親不孝ってとり返しつかないじゃないですか」
残された人生を妻と過ごす桜井。ところが、今度は病魔が狙っていた。
桜井さん「残念ながら、がんそのものはちょっと大きくなっていると言われまして」
医師から告げられたのは、末期がん。余命1年。だが、人生に無駄な時間はなかったといつも言う。
桜井さん「もし人生に無駄な時間があったと思ったら、その方は生きた時間が間違っていると思います。どんな時間でも無駄になることはありません。自分にとっては千葉刑務所が故郷だと思っています、今でも。やっぱり自分はこの故郷で今の桜井昌司という人間にしてもらったなと心から思います」
残された人生、明るく、楽しく生きる…
「♪それが私の それが私の 私の人生」
2021年4月放送 NNNドキュメント’21
「濡れ衣」(日本テレビ制作)を再編集しました。