“お手伝い”でお得に旅行 人手不足も解消
旅先で、お手伝いを。永岡里菜さん(30)が代表を務める「おてつたび」は、人手不足を抱える地域と旅をしたい人をマッチングするユニークなサービス。立ち上げ背景と、コロナ禍で浮かび上がる新たなニーズについて聞いた。
■地域の人手不足と旅行者の旅費負担を「おてつたび」で解決
「おてつたび」は、永岡さんが作った造語だ。「お手伝い」と「旅」を掛け合わせたこの言葉が、サービス内容を物語っている。人手不足を抱え手伝いを必要とする地域と、できるだけ旅費を抑えて旅をしたい人とをマッチングし、両者の課題を解決するという。おてつたびの特徴について、永岡さんは次のように語る。
「お手伝いは無償ボランティアではありません。おてつたびでお手伝いをすればするほど、利用者は報酬がもらえます。それで、また次の旅に出られる。金銭的負担を軽減できる仕組みになっているんです」
想定していた利用者層は学生から30代の若年層。事実、20、30代の利用者が多いという。一方、最近では60、70代の利用者も。多様な層に広がりを見せている。
「これまで、当社では広告宣伝費を一切かけてきませんでした。力を入れてきたのは、サービスの利用満足度を高めること。利用者は主に口コミで広がっている状況です」
旅先で行うお手伝いの種類も多種多様だ。
「地域には短期的に人手が必要な仕事があります。例えば、農作業などの一次産業ですね。田植えや収穫作業、出荷などに加え、海藻類を広げたりワカメを刈り取ったりする漁業の仕事も。一時的な人手不足を解消するためにおてつたびを利用していただいています。また、地域の祭りのお手伝いといったユニークなものもあります。おてつたびは、地域に根差した日常の困りごとを解決するためのサービスなんです」
■“私の夢の国”尾鷲のように、どの地域にも「何かがある」
永岡さんは、自分のことを「起業したいと思ったことがない人種」だという。
「高校時代までの夢は教師。そのため、教育学部に進みました。卒業後、一度は社会を経験しようと思い、民間のベンチャー企業に就職して、そこから、何だかんだと来た結果が今、といった感覚なんです」
おてつたびを始めようと思った明確な岐路があったわけではない。ただ、原点は永岡さんの幼少期にあった。
「三重県尾鷲市という、漁業と林業の町で生まれました。ほどなくして名古屋市に引っ越すのですが、長期休みになるたびに祖父母のいる尾鷲に遊びに行くのが恒例で。私にとって、山や海、川で思いっきり遊べる尾鷲は“夢の国”。休みが終わって名古屋に帰るのが、毎回嫌でたまらなかったことを覚えています」
永岡さんにとって“夢の国”である尾鷲市。しかし、大人になり出身地の話をすると、相手から返ってくるのは「どこ、それ?」という反応だった。学生時代には、あえて知名度のある「名古屋出身」と説明することもあったという。
小さな違和感を抱えながら、社会人に。1社目に入社したベンチャー企業では、主に企業を相手にする仕事で、プロモーションに関わった。ハードな仕事をこなす中で、永岡さんの中に「私は誰を幸せにしたいのだろう」という思いが芽生える。3年目に転職。社員5名の小さなベンチャー企業で、一次産業のサポートに携わり始めた。この仕事で、永岡さんは全国各地を飛び回ることになる。
「他人から見ると、尾鷲のように『どこ、そこ?』『何もないでしょ?』と思われる場所にも行きました。ただ、私にはどの地域にも魅力があると感じられたんです。各地を巡る中で、尾鷲のような地域は全国の7、8割を占めるのではないかと思うようにもなりました」
魅力のある地域がたくさんある。一方で、実際に足を運ぶにはハードルがあるとも感じたという。
「学生時代から、国内外を旅してきましたが、経済的な制約があるため、どうしても旅先は著名な観光地を選びがちだったんですよね。あえてその土地の地元らしい場所に行きたくても、友達の同意が得られないなど難しさがありました。ただ、本当はいわゆる観光では得られない深い関わりこそが旅の体験価値なのではとも感じていました。海外に行ったとき、地元で仲良くなった人とその土地の店に行く体験が、名所を見たことよりも強く印象に残っていたんです」
ただ、旅先で地元の人との関わりができるかどうかは運次第。話しかけてみたくても、突然初対面の人間に話しかけるのは困難だ。
「旅行者と地元の人、双方に『話したいですバッジ』を付けてもらうのはどうだろうと考えたこともありました(笑)。会社を辞めて地域を半年間巡り、対面やネットでアンケートを取ったり声を聞いたり、SNSで発信したりしていくうちに、徐々におてつたびの原型が固まっていったんです」
■「行ってみたい」に距離は関係ない。地域との接点を作り後押しを
主に都市部から地方部に足を運ぶことの多いおてつたび。コロナ禍による影響について、永岡さんは「長距離移動をネガティブに捉える人はいる」という。しかし、その一方で「地方への関心度は非常に高まっているとも感じます。コロナ禍以降、テレワークが可能になるなど、東京から地方に行きやすい環境の整備が加速していると感じますね」と語る。
「とはいえ、知り合いのいない地域との接点の作り方がわからないというニーズも感じています。さまざまな地域と接点をしっかり作れる仕組みを、より強固にしていきたいです」
コロナ禍でも安心して接点を持てるよう、旅行者のPCR検査費用を受け入れ側の地域が負担する取り組みも始めた。
「コロナ禍であっても、人手不足に陥る産業があることに変わりはありません。互いが安全にマッチングする仕組みは、今だからこそ求められているのではないでしょうか」
一方で、コロナ禍により、地元を見直す動きも出てきた。長距離移動にハードルを感じる分、今住んでいる都道府県内の「行ったことがない場所」に興味を持つ人が増えているように感じるというのだ。
「地元だからこそ、わざわざ足を運ばない場所の価値を再発見する動きがあります。実は、地元の魅力の再発見はおてつたびがもっと先に取り組みたいと思っていたこと。コロナ禍により、やりたいことが目の前に現れた気持ちです。距離に関係なく、その地域の魅力と『行ってみたい』人をつないでいきたいですね」
◇
この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。