「ソーシャルサーカス」で多様な社会へ
障害や事情のある・なしを超え、あらゆる人が一緒に演じる「ソーシャルサーカス」が世界で広がっています。日本で初めてその一座を立ち上げたのは栗栖良依さん。個性を引き出すパフォーマンスへのこだわりや、違いを認めて支え合う社会への思いに迫りました。
■「ソーシャルサーカス」の広がり あの世界的パフォーマンス集団も
今、世界で広がりを見せているエンターテインメントに、「ソーシャルサーカス」があります。障害のある人やアルコール依存症患者、犯罪歴のある人や貧困層など、さまざまなマイノリティーが、サーカスを通して社会的な能力を身につけることを目的にしています。
ソーシャルサーカスをめぐっては、世界的に有名なエンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」も、貧困地域の子どもたちのためにワークショップを開くなど、注目されています。
日本では、初となるソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」が立ち上がり、その公演が6月1日からオンラインで配信されます。
■健常者と障害者みんなでパフォーマンス
その公演「True Colors CIRCUS『T∞KY∞(トーキョー)~虫のいい話~』」(日本財団主催「超ダイバーシティ芸術祭」)では、車いすを改造したようなものに数人が引っ張られるコミカルな場面や、車いす上で体を浮かせる演技などが楽しめます。
次々と大技が披露されますが、この公演の特徴は、健常者と障害者が一緒になってパフォーマンスすることです。聴覚障害がある「KamiERI」さんは、ポールダンスを披露。脳性まひのある「はづき」さんは、4.5メートルの高さでつるされた輪に座り、回ります。
■骨肉腫からパフォーマンスの世界へ「全国に」
「SLOW CIRCUS PROJECT」は定期的に公演を行い、サーカスというエンターテインメントで多様性を認め合う社会を実現するために活動しています。
この日本初のカンパニーを立ち上げた栗栖良依さんは、11年前に骨肉腫を患い、右脚が不自由となって、障害者パフォーマンスの世界に飛び込みました。2016年にリオデジャネイロで行われたパラリンピックの閉会式では、旗引き継ぎ式でステージアドバイザーを務めるなど活躍する中、ソーシャルサーカスの存在を知りました。「日本全国に広めたい」という思いを抱き、カンパニーを率いています。
栗栖さんに、公演をプロデュースする上で大切にしていることを聞きました。
栗栖良依さん「『頑張っている障害者を健常者が支えている』とか、どうしても、そういう風に捉えられがちなんですけど、作品の中では、障害があるとかないとか関係なくて、1人1人の個性をどう出すかというところで、作品づくりをしています」
■個性生かした演技に「多様性」
サーカスでは通常、個人の技にスポットライトが当たることが多いのですが、「SLOW CIRCUS PROJECT」の公演はひと味違います。
光を使った演目を見ると、「ディアボロ」というコマを操るパフォーマーや、体に光の装飾をつけて踊るダンサー、車いすを光らせながら表現するパフォーマーらが、それぞれの個性を生かした多様性のあるパフォーマンスをしています。
栗栖さん「多様な人たちが集まる現場というのは、みんな価値観も違うし、ものの見方やコミュニケーションのスタイルもみんなバラバラで違います。それぞれの個性を出し合って、補い合いながら、支え合いながら作り上げているコミュニティーは、必ず実現できるものだと思っていますし、そういう未来の姿、理想の姿を多くの人たちに目撃してほしいです」
(5月21日『news zero』より)