「お役ってご縁」次世代の女方担う中村米吉
緊急事態宣言を受け、公演が中止となっていた「五月大歌舞伎」ですが、5月12日より再開され、初日の幕が開きました。かれんで華やか、いま若手の女方として注目されている米吉さんは5月、そして6月、歌舞伎座の公演で初めての役を勤めます。コロナ禍での生活、女方やお芝居への思いを聞きました。
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■「お客様あっての歌舞伎なんだなと」
――2020年、公演が一部中止に。コロナ禍で感じたことは。
「最初のうちは良かったんですよ。休みが増えたくらいの感覚で、のん気だったんですよ。根が能天気なものですから、しょうがないなと。
興行を再開しましたけど、対策をしてくれている劇場のみなさんと、来てくださるお客様が気をつけてくださっているので、本当にありがたいですし、役者自身はもちろん、今まで以上に健康に気をつけなければいけないなと思いますね。
お客様あっての歌舞伎なんだなと、当たり前のことですけれど、改めて気づかされましたし、そう感じる毎日を過ごしましたね」
――自身の生活について。
「ぼけーっとしていたんですけど、それじゃいけないと思って、何か決まった行動をした方がいいかなと。本を読む時間をお昼過ぎくらいに、お風呂入る前に踊りのお稽古をしようとか、芝居が再開するまでやっていました。
学校じゃないけど、時間割のような。夕方4時からは家族で映画を見て……見すぎて何を見たのか覚えてない。これって見た、あれって見たっけ、そんな会話です家族でも」
■「“あなたの手は女方に向いているかもしれないね”と」
歌舞伎では、男役のことを立役(たちやく)、女役のことを女方(おんながた)といいます。米吉さんは多くの舞台で女方を勤められています。女方中心となったきっかけについては。
「顔がこんなんでしょ?(立役の)梅王丸の筋隈(隈取)はのりにくい。よく僕、大福をつぶしたみたいな顔って言うんですよ。女方の役に憧れたことも少なくともありましたし。亡くなった祖母が、“あなたの手は女方に向いているかもしれないね”と言っていたことが昔あったんです。
18歳で大学に入って真剣に役者の勉強を始めた時に、“どうするつもり?”と聞かれて、一念発起ですね。とても立役をやりながら女方の勉強をするのは僕には無理だと思って、女方の勉強をさせてください、比重を女方に置かせていただきたい、とお話ししたという感じですね」
―-新しく始めたことは。
「インスタグラムを始めたんですよ。3月の南座公演が若手の公演ということで、SNSを使って発信をできるようにと。
若さある芝居はまだまだ技術的にはよろしくないこともたくさんありますけども、熱量は負けないぞ!ということをみなさんにも見ていただくためにやってみようと!」
「突然、(中村)壱太郎のお兄さんから“しゅうちゃん(本名)インスタとかやらないの”って意味の分からないLINEがくるわけですよ、僕は“はいー”って、始めた方がいいですかって、始めたんですよ。でもなかなか大変ですね(笑)。日々何も起きないですもん!ぼんやりしてるんだから毎日!」
まじめに話される一方、突然スイッチが入り、早口でたたみかけるように話す場面も。その表情はまるで舞台かのように、板の上に立ち一人芝居を演じているこのように感じました。
■「空気感を感じるのはありがたい」
--楽屋に入ってからのルーティンは何かありますか。
「昔でしたら挨拶もあったけれど、今はないので。お化粧も女方の時は足を崩さないでするようにと思っています。1人部屋の時はお香をたくときもあります。最初は曽祖父のブロマイドを飾っていて……楽屋見舞いでお香をいただいて、せっかくだからと。だんだん癖になっていきましたね」
――どちらも初役となる5月、6月の公演について
「(5月の)『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』は舞踊の中でも大変重たい演目で、新歌舞伎十八番。空気を感じられることはありがたいです。お役の性質上、きっちりした人なので品よく、(尾上)菊之助のお兄さまのやりやすいように手を引いて勤めたいですね」
「(6月の役は『夕顔棚(ゆうがおだな)』の)“里の女”、漠然としておりますが、ほのぼのとした物語です。家元である(坂東)巳之助お兄さまと、坂東流の踊りを踊らせていただけるのはありがたいので、足手まといにならないようにしたいです。
雰囲気を大切に、何よりも立役さんにやりにくいと思われないように勤めたいなと思いますね」
――初役を勤めるにあたって、心がけていることは。
「教えていただいたことを少しでもなぞれるように、ということが一番大事かなと思いますね。2度目、3度目から自分の工夫を加えるというように昔から言われているので。
それが中々できなくて怒られてしまうんです。基本に忠実に、しっかりと丁寧に。何度も勤めることがある職業ですから。お役ってご縁なんですよね。初めてを大切に勤めたいなと思いますね」
――最後に、どのような歌舞伎俳優を目指していますか。
「出てきただけでお客様に喜んでいただけるようなと、そうなるために何が大事かと考えるようになりまして、しっかりと基本に忠実に、特に古典歌舞伎のそれぞれのお役によって、どういう演じ方があるのか一つ一つのお芝居を掘り下げていきたいなと」
「見えるものを大事にして、その中で自分なりのお役それぞれの魅力を見つけて、それをお客様に伝えられるようにやらなきゃいけない。
お客様に伝わらなければ自己満足でしかないですから、でもそれが一番難しいし、先輩方が当たり前のようにやっていると改めて気づかされましたね。お客様に喜んでいただけて、歌舞伎という演劇に必要な役者、必要な女方になりたいというのが一番ですね」
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実はここでは書ききれないほど、普段の生活からお芝居への思いまで、本当にたくさんのお話をしてくださった米吉さん。感染対策の都合上、歌舞伎座の公演が3部制になっていることについては“さっさと帰れるから、楽ちん”と、お話の中で時々出てくる“米吉さん流・辛口トーク”は新鮮でした!
最近始めたものの何を投稿するか悩まれているインスタグラムは、あるハッシュタグをつけて個性を出しているとのこと。それは“甘いものは世界を救う”。大のスイーツ好きという米吉さんの今後の活躍、そして投稿にも注目です!
【中村米吉(なかむら・よねきち)】
五代目中村歌六の長男として生まれる。2000年7月、歌舞伎座『宇和島騒動』の武右衛門のせがれ 武之助で、五代目中村米吉を襲名し初舞台。
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【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。