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初対面「彼氏/彼女いる?」をアップデート

2021年5月29日 14:54
初対面「彼氏/彼女いる?」をアップデート

多様な性のあり方を認めあう価値観が社会に広がりつつある中で、LGBTQ当事者に対して、どう接したらいいだろう。差別的な言葉を使わないことは大事だが、誰にもミスはある。大切なのは、間違えた時にそれを伝えあえる関係性づくりだという。

■その質問、大丈夫ですか?

初対面の人に、「彼氏/彼女いるの?」と聞いたことはあるだろうか。

たとえば飲み会の席などで、男性に対して「彼女いるの?」、女性に対して「彼氏いるの?」といった会話は日常的に行われているかもしれない。だがこの言葉、実は相手の性のあり方を決めつけた問いかけで、LGBTQの人たちにとっては、ストレスを感じる場面もあるという。ライターとしてLGBTQについて発信しつづけている松岡宗嗣さんが明かす。
 

「ゲイであることをオープンにする以前は、初対面の人の多くに『彼女いるの?』と聞かれて。それがビクッとする、ちょっと怖い言葉だったんですよね。最近は徐々にLGBTQという言葉が知られ始めてきて、場合によっては差別的な態度に出ない人もすごく増えてきました。ですがやはり、『彼女じゃなくて彼氏がいるんです』とカミングアウトしてもいいのか、言ったら差別されてしまう可能性があるのか、それとも話をそらされて腫れ物扱いされるのか、などいろんな可能性を考えてしまうんです」

では、相手のことをもっと知りたい、会話をしたい、と考えたときは、どのような姿勢でのぞめばいいのだろうか。

「何かひとつの質問をするとき、なるべく多くの引き出しを持っておくのが大事だと感じますね。“彼氏彼女”と異性愛であることを決めつけるのではなく、“パートナー”というふうに広く考えてみるのもいいかもしれません。加えて、そもそも恋愛しない人もいるかもしれないなど、様々な想定を持ってみることが大切だと思います」(松岡さん)

目指すべきは、目の前にいる相手の性のあり方について、幅広い可能性を考えておける柔軟さ。最近では、決めつけのもとに「彼氏」「彼女」を使うのではなく、「パートナー」「相方」「つれあい」など性別を特定しない表現を用いることも多いそうだ。


■偏見の歴史に想いをはせつつ、まずはしっかり対面すること 

徐々にカミングアウトする人も増えてきたものの、多くのLGBTQ当事者が、自分の性のあり方についてありのままに話すことができない現状がある。広告代理店に勤め、在職中にトランスジェンダーであることをカミングアウトした岡部鈴さんは言う。
 

「たとえば夏お盆になって、『田舎帰るの?』という質問や『私の実家は東京なので田舎はありません』という会話。これ普通ですよね。そして『彼氏いるの? 彼女いるの?』と聞かれたときに、『いや私はゲイなので、レズビアンなので、彼氏です、彼女です』と返すのも、本来はそれで終わる普通の話なんです。では、何でそんなに気を使わなければいけないのか。そこには今までの背景があります。たったそれだけのために、いじめられたり不愉快な思いをさせられたりという歴史があることを知っておけば、もっとオープンでフランクな関係が生まれてくるのではないでしょうか」

LGBTQ当事者がこれまで、どんな境遇に置かれてきたか。不当な扱いを受けてしまうことはなかったか。そこを想像することで、相手の立場を考えながら、打ち解けた会話ができるようになるかもしれない。一方で、岡部さんは、こうも語る。

「仮に不当な差別を受けてきた経緯を知らなかったとしても、人と付き合って近しくなるために聞くことと、ただ単純に笑い飛ばすためや、興味本位で他人を詮索するために聞くことは、まったく次元の違うこと。おそれることなく、皆さんと対面していければいいかなと思いますね」

 
■LGBTQ当事者であっても、言葉を間違える

まずは、おそれることなく向き合う。これは、すべてのコミュニケーションの基本なのかもしれない。誰だって、間違えてしまうことはある。たとえLGBTQ同士であっても、ミスはあるそうだ。

「LGBTQの当事者でも、言葉を間違えることはあるんです。当事者であれば完璧、では一切ないので、みんなで意識をアップデートしていくことが大事だと思います」(松岡さん)

当事者かどうかにかかわらず、LGBTQに対しての理解を深めながら、関係性を構築していく。それができれば、言ってはいけないことを気にするあまり、会話自体がきごちなくなってしまうような場面を避けられるかもしれない。

「よく『NGワードって何ですか?』と聞かれることがあります。もちろんNGワードはあり、たとえば『ホモ』といった差別的、侮蔑的に使われてきた言葉は基本的にダメだと伝えるのですが、NGワードさえコンプリートすれば完璧、とはならないですね。間違えてしまったときには、ちゃんと『それは私にとって快適な問いではない』と言ってもらえ、それ対して『ごめんなさい』と言い合える関係性を作っておくことが大事だと思っています」(松岡さん)


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この記事は、2021年1月31日に配信された「Update the world #1 LGBTQ~『彼氏/彼女、いるの?』をアップデート~」をもとに制作しました。

■「Update the world」とは

日本テレビ「news zero」が取り組むオンライン配信番組。SDGsを羅針盤に、社会の価値観をアップデートするキッカケを、みなさんとともに考えていきます。