SDGsで注目の“リサイクル繊維”未来に
■リサイクル繊維を使った特殊紡績
繊維産業が盛んな愛知県。製造工程で残る半端な糸や余った布を綿に戻す工程を担う「反毛工場」が多数あり、そこから供給される再生綿を主原料とした特殊紡績が発達していた。
愛知県・西尾市にある石川メリヤスも特殊紡績で作られる糸を活用した工場の一つ。1957年の創業以来、リサイクル繊維を用いた作業用手袋、いわゆる軍手などを生産してきた。海外の安価な製品の流入や後継者不足により作業用手袋業界は苦しい状況に立たされているともいわれるが、SDGsへの関心が高まる中で、リサイクル繊維について取引先や他メーカーから相談が寄せられるようになったという。
「ファッション業界でSDGsやサステナビリティがトレンドになっています。しかし、だからといって後継者不足や業界の問題がすぐに解決されるわけではありません。特殊紡績の技術は、失われてしまったら取り戻すのは難しいと思います。情報発信などを続けて、まずは多くの人に知ってもらいたいと考えています」
再生繊維は、均一な太さになっていない事が多い。ただ、そのさわり心地や耐久性が、作業用手袋においては評価されてきたという。太さの違う糸を調整してものづくりをする経験と勘が、工場では長年引き継がれてきた。大宮さんによると、繊維工場の強みは「糸を変えればいろいろなものを作れること」だという。
「繊維業では、使う原料を変えれば、同じ機械を使いながらいろいろなものを作ることができます。私たちも、再生綿を使った特殊紡績のみを行っているわけではありません。オーガニックコットンやアラミド繊維(合成繊維の一種)など、製品に合わせて材料を使い分けています」
工場で作られる製品のうち、20%程で特殊紡績の糸が使われているという。
■家業と地場産業のストーリーを伝える
幼い頃から工場の近くで育った大宮さんにとって、繊維の仕事は身近なものだった。三姉妹の長女。家業を継ぐことを考えつつ、他の道も模索していたという。
「家業を継ぐように言われた記憶はほとんどありません。父は冗談のつもりか『3代目が会社をつぶす』とよく話していて、それを聞くたびに子どもながらに悔しいと思っていましたね。家業を継ぐという意識はありましたが、宣言してまわりから期待されるのも嫌だったので、うやむやにしていました」
大学卒業後は、総合商社に就職。転機になったのは、社内で募集されていた海外研修への応募を検討したことだった。
「留学で身につけられるものや強みを考えた時に、自身の最大の強みは“家業があること”だと感じたんです。そこで、会社を継ぐことを決心しました」
4年勤めた商社を退社。その後、中国の繊維関係の検品工場で半年ほどインターンをした。そこでは、中国の様々な工場で作られた製品を見る機会を得た。
「自分たちの工場とあまり変わらないと感じましたね。当時は中国の賃金が安く、同じものが日本よりも安く作れました。ただ、会社の根っこにあるものは一緒で、だったら自社工場を磨いていくほうが競争に勝てると感じました」
石川メリヤスは、多品種小ロットの生産にかじを切り、国内顧客からのきめ細かい要望に応えられるようにしたという。大宮さんは入社後、企画営業を担当。顧客企業と向き合いながら様々な製品づくりに関わる。
入社して10年たった2016年、父親から事業を継承して代表取締役に就任した。代表になって着手したのはブランディング。自分たちが何を大切にしてものづくりに向き合っているか。取引先や製品の利用者に伝えるため、デザインの統一や情報発信をするようになったという。その一環で、作業用手袋の一般むけ販売も開始した。
「作業用手袋は、私たちの原点であり、コアの事業です。様々な製品を出す中でも、いまだに生産量の70%を超えるほどの量を作っている製品です。また、地場産業でもある特殊紡績を活用しているものでもあります。この製品のストーリーを伝えられていないことに、違和感がありました」
高価な作業用手袋の需要があるか、懐疑的な声もあったという。それでも「ブランド物の軍手があってもいいのではないか」という思いで、一般向けに販売することを決めた。
■社会的な意義や理念だけでなく、製品で勝負する
後継者不足を解消して持続可能な産業にしていくために何ができるのか。大宮さんは、ものづくりの面白さを感じてもらうためには、オリジナル商品を作ることが大切だと話す。
「下請けの仕事だけだと自分で値段を決められません。その状態が続くと、仕事のやりがいも感じづらいかもしれません。自分たちで新しい商品を作り、その価値を自分たちで決めていくことで、若い人にもものづくりの面白さを感じてもらいたいです」
石川メリヤスでは10年ほど前から大卒の新卒採用を開始。これまでに4人が定着しているという。今後は「あこがれの仕事」として選ばれる仕事にしていきたいと考える。作業用手袋のイメージの変化やSDGsの広まりは追い風になるのだろうか。
「私が入社した頃は、作業用手袋を一般の人が使うイメージはありませんでしたが、最近ではおしゃれでかわいいものというイメージも世に広まってきました。また、サステナビリティの観点で注目をいただくことも増えています。ただ、社会的な意義や理念の良さだけでは長くは続きません。デザインが良くて、価格もお手頃、しかも使いやすいという実用品としての価値を高めることが大事だと思います」
最後に、ものづくりへのこだわりを聞いた。
「使う人の視点を持つことを大事にしています。利用者のちょっとしたこだわりを想像してものをつくる。これは簡単に見えて意外と大変です。そういう意味でも、使う人と作る人が同じ文化圏にいるのは、ものづくりでは大切だと考えています。それが、この産業や日本のものづくりを残していきたい理由でもあります」
◇
この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加しました。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。