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学園長は元外交官 私学で取り組むSDGs

2021年5月20日 19:21
学園長は元外交官 私学で取り組むSDGs

広く見聞きするようになった「SDGs」。日本政府の担当職員として、普及活動に努めてきた山田基靖さん(38)。現在は、官民人事交流制度で赴任した学校法人摺河学園の学園長として、SDGs教育に取り組む。“異例の転身”の経緯と、いま抱く想いとは。

■姫路市の私学で取り組むSDGs教育

山田さんは官民人事交流で派遣された現職の国家公務員。以前の職場は外務省だ。外務省から教育現場と畑違いとなる環境で、SDGsのプロジェクトを推進する。一つは、SDGs教育のモデルケース作り。もう一つが、地域社会に共生することが可能な外国人人材の育成だ。地域の企業や金融機関、行政と一緒に活動している。

「どちらも、SDGsマインドでやっていることで、別々ではなくつながっていることです。外国人人材を受け入れるためには、世界とのつながりを分かっている日本人が必要ですし、SDGsは世界とのつながりの中で変革を起こして社会を持続可能にするものです。日本社会の抱える人口減という問題を考えたときに、外国人人材の受け入れは持続可能な社会に欠かせません」

摺河学園は、インドネシアの財団と協定を結び、現地に中学校を設立。卒業後は日本の高校に留学生ではなく本科生として受け入れ、日本の大学進学や日本企業への就職を目指してもらう。日本で暮らしながら日本の教育を受けることで、日本企業にスムーズに馴染むことを狙っている。

日本ならではの価値観を理解できる外国人人材を受け入れられる可能性があることから、企業側からも応援と期待が寄せられているという。

「労働人口減が課題となっている日本社会において、人材確保は重要な課題です。本プロジェクトで育成を目指すのは、単なる労働者ではなく、いわゆる高度人材と呼ばれる外国人人材。そうした人材を安定的に雇用できる可能性があるのは、企業側にとって大きな魅力なのです」

インドネシア側にとっても、本プロジェクトは魅力的だという。

「これまで日本と培ってきた関係もあり、インドネシアにとって日本はまだまだ魅力がある国なんです。プロジェクト開始当初は、2年で学校設立の合意に至れば御の字だと思っていたのですが、実際には3か月で設立合意に至れました」

■SDGsには「ゴール0」がある

2005年に外務省に入省した山田さん。2015年9月にSDGsが193の国連加盟国に採択された直後にニューヨークの国際連合日本政府代表部に派遣されたのが、SDGsとの出会いだった。当時、SDGsは国連機関と一部の政府関係者にしか認知されていなかったという。

「大変お恥ずかしいことに、外交官であり国際関係にも関心を持っていなければならない立場の私も、それまで何も知らなかったのです。政府に関わる人間の中でも十分に知られていないのに、SDGsは『No one will be left behind』、誰ひとり取り残さないと掲げている。そもそもSDGsが何なのか、わかってもらえないと実施なんて程遠い夢だと痛感しました。国連にいるメンバーは、SDGsのゴール1から17の重要性についてよく口にします。しかし、そもそも、それらを知ってもらう『ゴール0』があると思ったんです。日本の皆さんに知ってもらう必要がある。そのためにも教育が大切だろうと」

教育に目を向けた背景には、SDGsが掲げる「2030年」への意識がある。2030年に社会の主役になる今の子どもたちが「持続可能性マインド」を持っていないと本質的に持続可能な社会にはなり得ない。

「僕は、持続可能性というマインドを持って生きてきた人間ではありません。持続可能な社会のための取り組みは、意識した人がやる『いいこと』。このように捉えている人は、僕の他にもたくさんいるのではないかと直感的に思いました。しかし、SDGsについて知ると、これからの時代は持続可能性を意識しなければビジネスが成り立たなくなっていくことがわかるでしょう。大人たちが『いいことをしている』と自己満足するだけの取り組みで終わってはいけないのです」

2017年には「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」で人気を博していたタレントのピコ太郎さんにPPAPのSDGs版替え歌を国連で披露してもらった。その翌年にはピカチュウとのコラボも行った。いずれも「少しでも若い世代に届けられる取り組みにしたい」との担当チームの思いだったという。

ニューヨーク滞在中には、学校現場でのSDGs教育の必要性について訴える声も上げた。文部科学省からの理解を得たが、学習指導要領の改訂時期は最短で2020年。「待っているだけでは駄目だ」と危機感を覚え、私学連盟にも相談した。

■SDGsは流行りではない。本質への理解を

2018年まで国連でSDGsの普及活動に取り組み、帰国。2019年8月から摺河学園に派遣され、学園長を務めることになった。官民人事交流制度により職員が教育現場に派遣されたのは、外務省では山田さんが初めてのケースだという。

山田さんがSDGsを知り5年以上が経過した今、SDGsの認知度は飛躍的に向上。多くの人や企業が知る言葉になっている。「ここまでくれば、あとは加速度的に認知度が上がっていくと思います」と山田さんは語る。

「ただ、その一方で本質的な部分が置き去りにされてしまうことへの危機感がありますね。『とりあえずバッジを着けておこう』といった声や『SDGsは流行りだから、受験に出るぞ』と子どもに言う声を耳にしたことがあります。『コロナだからSDGsどころじゃなくなってしまった』と言われる方も多い。2030年までにまだ時間はあるので、本質的な認識を広めていく活動をしなければと思います。ボランティアやCSR(企業の社会的責任)マインドから抜け出す必要があるんです」

いずれは学園から離れ、再び外務省に戻る日がくる。「私がいなくなっても自走できるようなプロジェクトにしなければと思っています。さらに、産官学のモデルケースを日本全国に広げていくことも必要。人口減の問題は兵庫や姫路だけが抱えるものではありませんから」

環境改善の取り組みをしたいと思っていたわけではない。SDGsについても知らなかった。しかし、関心がないと思っていたことに取り組み続けた結果、「点と点が結ばれていった部分がある」と山田さんは言う。

「外務省に戻ったあとは、また全然違う仕事をすることになるでしょう。ただ、民間での経験は決して無駄にはならない。3年前の自分が想像もしなかったことを今やっているように、今やっていることが未来の取り組みにつながっていくのだと思っています」

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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。

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