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世界を救う“ワクチン開発立役者”カリコ氏「女性は目標高く」小西キャスターが聞く

2022年3月8日 12:25
世界を救う“ワクチン開発立役者”カリコ氏「女性は目標高く」小西キャスターが聞く
右:カタリン・カリコ博士、左:小西美穂キャスター(2022年2月16日取材)
ノーベル賞候補との呼び声も高いカリコ博士。40年にわたる研究生活は苦難の連続でした。
3月8日の国際女性デーを機に、世界的にも女性研究者が少ない現状をどう思うのか、小西美穂キャスターが聞きました。

■女性の科学者は必要とされている

ファイザーと共同でワクチンを開発した「ビオンテック」の上級副社長、カタリン・カリコ博士(67)。1年足らずで新型コロナのワクチンができるきっかけを作りました。

ハンガリーで生まれ、地元の研究機関で研究員として働きましたが、研究費を打ち切られ、30歳で夫と幼い娘との3人でハンガリーから渡米。アメリカの大学で研究に没頭しました。当時ハンガリーは社会主義体制で、カリコ博士は娘のクマのぬいぐるみに900ポンドをしのばせてアメリカに持ち込んだといいます。

――日本では、女性の研究者の割合は16.9%で、ハンガリーは28.0%、アメリカは33.7%です(*)。日本はOECDで最下位となっていて「理工系は男性」という根強いステレオタイプがあります。こうしたジェンダーギャップをどうとらえますか。

 2006年に札幌での会議に招待されたとき、女性の科学者がほとんどいなくて驚きました。女性はマルチタスクができるし、男性とは異なる考え方ができます。ですから、女性の科学者は必要とされています。本当に。女性も男性も研究をするべきだと思います。

――世界的にみても女性の研究者は少なさが問題になっていますが、カリコさん自身、これまでのキャリアで女性ゆえの壁に直面したことはありますか?

 妊娠出産の期間は、実験室で仕事をすることができませんでした。我々は、放射性物質を扱いますから。その期間は自宅で博士論文を書いていました。出産後は、質が良くて政府の補助金が出る安い保育園に娘を通わせることが重要でした。当時いたハンガリーでは低料金で健全な環境に預けられたのです。看護師が世話をしてくれて、毎日、小児科医が保育園に来ていました。そのおかげで、とても仕事に集中することができました。娘が日中は良い場所にいることが分かっていたからです。

 日本特有の難しさがあるのかもしれません。私は(女性だということで)、実験室の中で難しさを感じたことはありません。一緒に働いていた同僚たちは私を助けてくれました。そのほとんどは男性でした。実際、私を降格させた人は女性の同僚でした。ですから私は特別扱いされたり、能力が劣っていると感じたり、女性だからと感じたことは全くありません。むしろ外国人であることの問題の方が大きかったです。

私は訛りが強いですし、18歳から英語を学び始めたので、英語もうまくありません。私が講義すると、「上司は誰だ?」と言われました。誰かが私を指導するべきだと思ったのでしょう。でも、それも問題ではありません。私は批判を個人的なものとして受け止めたことはありません。それも重要なことです。

■すべて完璧にやる必要はない

――女性には出産・育児といったライフイベントがあり、それが女性研究者の昇進の遅れにつながっていると指摘されています。

 女子の学生は大勢いるのに、キャリアを積むことができないのは、家庭とキャリアのどちらかを選ばなければならないからです。どちらかを選ぶ必要はないのです。私には娘がいるのですが、彼女は順調に育ちました。オリンピックで2回も金メダルを獲得しましたが、私はたいした手助けもしませんでした。

朝の6時には実験室にいましたので、娘は自分で起きなければなりません。夫はいましたが、娘にも(身の回りのことを自分でする)責任があります。午後迎えに行くと、娘が膝に大きな穴の空いたズボンをはいていて、「何を着ているの?!」とびっくりしたことがありましたよ。でも、娘が選んだものなのです。

我々、女性は完璧であろうとします。それは止めて下さい。

大丈夫です。完璧な母、妻、姉妹、近隣住民などになろうとする必要はないのです。そうすれば、自分のキャリアに取り組む時間もできます。

■目標は下げず、高く持って

――研究者になりたいと思っている女性へのアドバイスはありますか?

 女性の方が地位が低く、「教授になれないけれども、助教にはなれるかもしれない」と言われるようです。それは制度の問題かもしれないけれども、我々にも問題があるのかもしれません。女性の中には「自分で全部やるのは無理だから、誰かのアシスタントになろう」と思う人もいるかもしれません。

女性として、自分ができることを考え、自分を信じることができれば、前進して、頂点にたどり着けるかもしれません。そして、もちろん政府も支援できます。特に質が高くて安い保育園によって育児との両立を支援できます。

――3月8日は国際女性デーです。カリコさんの活躍は、多くの女性の未来へ道を拓き、希望を与えました。最後に若い女性へのメッセージをお願いできますか?

学校は基本的なことを学ぶ場所です。そこで「ああ、これが好きだ」と気づくのです。何が自分をハッピーにするか。それを見つけなくてはいけません。幸せな人生を送るためには、それが非常に重要なことです。

私の場合はチャレンジが好きです。人生の一部が理解できるような問題を考えるのが好きで、物事がどのように起きているかを発見する最初の一人になれて、毎日、ほんの少しの謎めいたことがあり、実験をしてワクワクできる…。その興奮や期待感が好きならば、科学者になるべきです。楽しく生きることができるからです。

目標を下げずに、高く持ってください。夢を実現するために。
そして必ず、あなたには夢があることを理解し、感謝し、夢の実現を助けてくれるパートナーや夫を選んで下さい。

私に言えるのはそのくらいです。あきらめたらだめですよ!


(このインタビューは2022年2月16日にオンラインで行われました) *21年版男女共同参画白書より

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