五輪で注目LGBTQ×スポーツ専門サイト
多様性を掲げた東京オリンピック。世界のメディアが注目して引用した“あるデータ”。アメリカのスポーツ専門メディア「アウトスポーツ」が報道した、「LGBTQ公表アスリート」のリストです。どのようにして作成されたのか、共同創設者のジム・ブジンスキさんによると、そこには「絶対に暴露しない」ための厳しいルールがありました。
■シドニー7人→東京183人“LGBTQ専門スポーツメディア”の草創期
──「アウトスポーツ」のスタートは?
1999年、インターネットにもウェブサイトがあまりない時代、事業パートナーのシド・ジグラーと2人で始めました。私たちはスポーツが本当に大好きなゲイです。ゲイの視点でスポーツ取材している人がいなかったのが、始めた理由です。今ではレズビアン、トランスジェンダー、バイセクシュアル、クィア、ノンバイナリーを含めてLGBTQの視点で取材しています。私たちにとっての初のオリンピックはシドニーで、当時公表していたLGBTQアスリートは7人でした。東京五輪は183人、21年間でそこまで増えました。
■世界の読者の協力が頼り 独自リスト作成の舞台裏
──リストはどのように作られた?
まず、ロンドンとリオの選手リストを見ながら、エクセルのシートにLGBTQを公表している可能性がある選手の名前をすべて書き、イエス・ノー、出場、予選などの項目を作りました。ケガをして出場を断念したり、今回は新型コロナで参加をとりやめたりした選手もいました。最後の6か月間は一人ひとりを丹念に調べて、かなり手間のかかる作業でした。
一方で、読者が定期的に新しい情報を提供してくれることも。「この水球の選手を忘れているぞ」とか、「このブラジル人のバスケットボール選手も」とか。情報が英語でなければ私たちは見つけることができませんが、読者がポルトガル語で書かれたブラジル人選手の記事を見つけてくれて、記事が書けることもありました。
──インターネット時代の現象ですね。
その通りです。世界中から情報が寄せられます。すごいですよ。それが楽しいところですね。読者のみんなが教えてくれるのです。
■「今、東京にいます」選手本人から直接連絡も
これは、これまでになかったことなのですが、「今、東京にいます。リストに加えてください」と連絡してきたアスリートが9人いました。ある女性は、私とガールフレンドをリストに加えてくださいと言ってきました。ここまで増えるとは思っていなくて、驚いています。
■絶対に“暴露”しないために 厳密なリスト掲載基準
──LGBTQ当事者であることはデリケートな情報ですが、リスト掲載の基準は?
基準のひとつは、選手がメディアにインタビューで公言しているか。もうひとつは、ソーシャルメディアでの公表です。女性選手がSNSにガールフレンドや妻の写真を投稿して「私が愛する人」と呼んでいたり、ハートやレインボーのマークがあったり、「妻」「ガールフレンド」といった言葉を使っていれば、隠していないとしています。
オランダの男性陸上のラムジー・アンジェラ選手は、ボーイフレンドとのビデオや写真を投稿していて、カミングアウトしているとみなしました。しかし、2人の女性が手をつないでいたとしても、友達同士かもしれず、それだけでは関係は明確ではないと判断します。
基準はかなり厳しくしています。読者からこの人をLGBTQと公表している選手に加えてくれと言われても、カミングアウトしているかどうか確証が得られないと伝えることもありますし、選手に関する情報を送ってきても、これだけでは不十分だということもあります。選手に直接「あなたがLGBTQだという人がいますが」という手紙を書いて返事が来なければ、その人は掲載しません。
東京オリンピックの出場選手の中には、100%確証が得らなかった人が20人いて、リストには入れていません。間違って、掲載を削除するようなことはしたくないのです。また、これまでに、自分の意志に反して記事によって勝手に公表されたと言われたことはありません。それは誇りに思っています。公表する時は自分で言いたいですからね。うっかり暴露してしまわないように細心の注意を払っています。
■同性愛禁じる国も… なぜ掲載?伝えたい“希望”
──参加国の中には同性愛を違法とする国もあります。
LGBTQと公表するアスリートの出身国は、アメリカやヨーロッパに偏っているのが現実です。リストに掲載された183人の中に、同性愛を違法とする国の選手はいません。でも、私たちが掲載したリストは全世界の人から見られていて、人々に希望を与えていると、私たちは実感しています。なぜなら、アスリートたちを見れば、公表し自分らしく生きることが可能だということがわかりますし、それは素晴らしいことだと思っています。
画像:ラムジー・アンジェラ選手(AFP/アフロ)