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「防衛力強化」の是非が沖縄の争点に浮上へ~「戦場化」への懸念を背景に

2024年1月7日 10:00
「防衛力強化」の是非が沖縄の争点に浮上へ~「戦場化」への懸念を背景に
陸上自衛隊石垣駐屯地に配備されたミサイル発射機

2022年末の安全保障関連3文書の改定を受けて、南西諸島の「防衛力強化」が急速に進む中、沖縄では自衛隊と「有事」への備えを巡る諸問題が、「辺野古」の次の争点として浮上しつつある。
(那覇支局 佐藤拓)

「子どもたちの未来が戦争の未来であってはならない。不穏な未来であってはならない」

2023年11月、那覇市の公園で開かれた「県民平和大集会」で、来賓として挨拶した沖縄県の玉城デニー知事は、慎重に言葉を選びながらも、「沖縄を再び戦場にさせない」という集会の趣旨にそったスピーチで、会場から大きな拍手と声援を受けた。

沖縄では長年、米軍基地や沖縄戦の記述を巡る教科書の問題などに抗議するため、政党や労組の主導で数万人規模の「県民大会」が繰り返し開かれてきた。

ただ今回の集会は「県民大会」とは異なり、市民団体や趣旨に賛同する個人が手づくりで準備したもので、参加者は主催者発表で1万人だった。

この規模の集会に知事が出席して挨拶するのは異例で、日米安保体制や自衛隊の存在を基本的に容認する玉城知事が、いわゆる「反撃能力」の保有を含む「防衛力強化」には批判的な姿勢で臨むことを、県民に強く印象づける形になった。

■県民感情との“ズレ”広がる

ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区の惨状が伝えられるほど、沖縄ではせい惨な地上戦となった沖縄戦の記憶が呼び起こされ、県民の平和志向と反戦感情を強めている。

一方、東アジアの安全保障環境はいっそう厳しさを増しているとして、政府は沖縄県内の離島を中心に、ここ数年、自衛隊基地の新設や機能の強化を進める。

陸上自衛隊は2016年の与那国駐屯地、2019年の宮古島駐屯地に続き、2023年には石垣駐屯地を開設した。宮古島と石垣島には地対艦と地対空のミサイル部隊が配備され、当初は沿岸監視隊が中心だった与那国駐屯地にも今後、電子戦部隊とミサイル部隊を追加配備する方針だ。

防衛省は、「反撃能力」の保有に向けて現在開発している国産の「スタンド・オフ・ミサイル」を、予定より1年前倒しして、2025年度に配備する計画を公表した。具体的な配備先はまだ明らかにされていないが、やがて沖縄にも配備され、いわゆる「台湾有事」で攻撃目標にされるリスクが高まるのではないかとの懸念が、住民の間に広がっている。

■離島自治体と県に温度差

一方、与那国町や石垣市など離島の自治体からは、ミサイルなどの攻撃から身を隠すシェルターの設置や、住民避難計画の詳細の確定を求める声のほか、有事の際の自衛隊や海上保安庁による使用に向け、空港や港湾の整備を国の支援で進める「特定重要拠点」への指定に期待する声も上がる。

こうした主に離島の自治体からの突き上げに対し、沖縄県は難しい立場に置かれている。

住民の安心や安全の確保は一義的な優先課題だとしても、「有事」に向けた備えの加速化が、かえって「有事」を呼び込むことにつながらないか、「国防」を名目としたインフラ整備が、健全な沖縄振興のあり方を変質させないか、といった行政としての懸念に加え、玉城県政の支持基盤が、防衛力強化だけでなく「有事」への備え全般に消極的な指向を持つことも、県の判断に影響しそうだ。

米軍普天間基地の名護市辺野古への移設を巡る「代執行」訴訟で2023年12月に国が勝訴し、沖縄県が工事を止める手立てが乏しくなったことで、「辺野古移設反対」を最大の公約として掲げてきた玉城県政の求心力の低下が予想される。すでに対抗勢力からは、辞職や出直しの知事選を求める声も上がり始めた。

さらに2024年6月には現在与野党がきっ抗する県議会選挙が控えていて、玉城県政の「中間審判」的な意味合いも持つ。

そうした中、自衛隊と「有事」への備えを巡る諸問題で、政府と一線を画し、県民の平和志向に寄り添う方向へより踏み込むことで、玉城知事は県政継続の正当性をアピールすることができる。

2024年1月の台湾総統選挙を経た後の中台関係や、政府による「防衛力強化」の進め方次第では、「沖縄を再び戦場にさせない」というスローガンは今後、さらに県民的な広がりを見せるかもしれない。

玉城県政が、変化する状況の中でどのような路線を選択するのか、注目される。

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