増える超高層ビルにタワマン…長周期地震動が緊急地震速報に追加された事情とは
地震の際に1回の振幅の時間が長い「長周期地震動」というゆっくり揺れる地震波によって高層マンションや長い橋などは非常に大きく揺れるケースがあります。東日本大震災の際にはこの長周期地震動によって東京や大阪で高層ビルが大きく揺れて被害が発生しました。
気象庁はこの長周期地震動による揺れについても、2023年2月1日から緊急地震速報を発表して注意喚起することになりました。なぜ長周期地震動が追加になったのでしょうか?
■そもそも長周期地震動ってどんなもの?
高層ビルの高いところが非常に大きく揺れる長周期地震動とはどういうものなのでしょうか。
地震が起きると、1秒間に何度も揺れる周期の短い揺れだけでなく、一回の揺れで行って来いする時間が何秒もかかるようなゆっくりとした周期の長い揺れも発生します。木造住宅などが被害を受けやすいのは、1秒間に何度も行って来いを繰り返す短い周期の地震動です。
一方、1回の揺れが3秒とか6秒もかかるようなゆっくりした揺れでは、超高層ビルや長い橋などが非常に大きく揺れることがあります。この周期の長いゆっくりとした大きな揺れのことを長周期地震動といいます。長周期地震動による高層ビルへの影響について、日本建築学会は報告書のなかでつぎのように指摘しています。
◆超高層建物は大きな揺れが長時間継続する
◆柱などは大丈夫だとしても、天井や仕切り壁などの非構造部材の損傷は可能性が極めて高い
◆家具や什器類が移動・転倒する可能性が極めて高く、ローラーがついている大型のコピー機などは凶器のようになってフロアを動き回る
◆地域によって特性が違い、超高層建物の構造特性にも差があるので、個々の建物ごとに異なった揺れ方となり被害も違ってくる
◆高層階で揺れを経験すると恐怖感から精神的なダメージが大きいので、所有者・使用者・居住者への啓発が重要
長周期地震動は規模の大きな地震ほど発生することが多くなり、周期が長い地震動ほど遠くまで伝わりやすいという特徴があります。また、地盤によっても影響がかわり、堆積層の地盤では揺れが増幅され建物などの揺れも大きく長く続くことになります。
このため、堆積層の厚い地域にある東京・名古屋・大阪の三大都市圏などでは長周期地震動による揺れに特に警戒する必要があります。
■全国で増え続ける超高層ビル
今回、長周期地震動が緊急地震速報に加えられることになった背景には、全国で超高層ビルが増え続けていることがあります。東京消防庁の統計では、東京都内の30階建て以上の超高層ビルは、東日本大震災が発生する直前の2010年末には267棟だったのに対し、2021年末には375棟と、この10年ほどの間に108棟も大幅に増加しています。
全国的に見ても高層ビルは東京を中心とする関東や、大阪、名古屋などで多く建設が進められている状況にあります。
■長周期地震動による被害はこれまでにも多く発生
過去の地震でも長周期地震動が観測されてきました。
2003年9月26日に起きたM8.0の十勝沖地震では、長周期地震動によって苫小牧市の石油タンクでタンクの中の液体が、スロッシングと呼ばれるたっぷんたっぷんと大きく揺れる現象が起き、多くのタンクが壊れて火災も発生しました。
2004年の新潟県中越地震では遠く離れた東京にある六本木ヒルズでエレベーターのケーブルが損傷。
2011年のM9.0の東日本大震災では東京23区内の多くのビルの高層階で、恐怖感を抱くようなゆっくりとした長い大きな揺れとなりました。
さらに遠く離れた大阪市住之江区にある55階建ての高層ビルでは、往復で3メートル近く動く横揺れが約10分間も続き、エレベーターのロープ類が損傷、防火戸がゆがんだ、天井が落下、床面に亀裂ができたなどの被害がでました。
このように、長周期地震動は震源から遠く離れたところまで伝わり、高層ビルなどを大きく揺らして被害を発生させるのです。高層階では右に左にと大きく長く揺れるので、固定していない家具は大きく動き、特にキャスターのついているコピー機などはものすごく動き回ってまさに凶器と化す事態が発生します。
ただしすべての高層ビルなどがひどく揺れるわけではありません。地盤や建物がそれぞれ持っている固有周期と、地震による長周期地震動の周期が同じくらいになると共振を起こして大きく揺れることになるので、ビルによって揺れ方が変わることになります。また、高層ビルでなくても最近普及している免震建物は、固有周期が長いため長周期地震動の影響を受けて大きく揺れる場合があるので注意が必要です。
■長周期地震動の揺れは震度ではなく「階級」で発表される
この長周期地震動によるゆっくりとした大きな揺れによる被害について、気象庁は1~4の階級に分類しています。
階級1は「やや大きな揺れ」で、揺れを感じても驚く程度。
階級2は「大きな揺れ」で、物につかまりたいと思うほどの揺れです。
階級3になると「非常に大きな揺れ」となり、立っているのが困難な状況になりキャスター付きの家具が大きく動き回るようになります。
階級4は「極めて大きな揺れ」で立っていることはできず、家具が動き回って非常に危険な状況となります。
階級3以上では高層ビルの中でけがをするなどの被害が十分想定されることから、今回、階級3以上の揺れが想定されるエリアに緊急地震速報が発表されることになりました。
■長周期地震動の階級3以上のエリアにも緊急地震速報を発表
これまでの緊急地震速報は、短周期の地震動によって起きる震度4以上の揺れが想定されるエリアが対象に発表されてきました。
今後は、長周期地震動による階級3と階級4が予測された地域が追加される形で、短周期地震動の震度が高いエリアと長周期地震動によるエリアが区別されることなく速報が発表されることになります。
例えば、東日本大震災の時は震度4以上が予測される左の図の黄色い範囲に緊急地震速報が発表されましたが、長周期地震動の予測では階級3~4のエリアは右の図のオレンジのところと赤く表示されている大阪府南部が該当することになります。
長周期地震動の対象エリアも多くはこの震度4以上のエリアと重なりますが、大阪のように震源から遠く離れた震度3以下の場所でも、高層ビルなどで被害が想定されることから緊急地震速報が発表されることになったのです。
■緊急地震速報が出たらどう行動したらよいのでしょうか
緊急地震速報は今後もテレビやスマホなどでは地図に危険なエリアが赤く塗られて伝えられるというこれまでの伝達方法に変わりはありません。ただ、今後は震源に近いところだけでなく、飛び地となった地域でも赤く塗られて速報が発表されることがあるので注意が必要です。
どういう揺れなのか区別しないのは、長周期の揺れでも短周期の揺れでも、落下物から頭を守ったり、家具などが倒れてきても良いように危険なものから離れたりするといった私たちがとるべき行動には違いが無いからです。たとえ地震の震源が遠いところであっても自分のいる地域に緊急地震速報が発表されたら、危険なものから離れるなどすぐに安全を図ることが重要になります。
とくに、高いビルの高層階にいる人や、免震建物にいる人も長周期地震動が来るとゆっくり非常に大きく揺れる可能性があることを念頭に行動する必要があります。