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日大アメフト部は“一旦”廃部、一方で進まないガバナンス改革…取材記者が感じた日大への違和感とは

2023年12月31日 9:00
日大アメフト部は“一旦”廃部、一方で進まないガバナンス改革…取材記者が感じた日大への違和感とは
左から林理事長、酒井学長、澤田副学長

アメフト部の薬物事件をめぐり、深刻なガバナンス不全と上層部のずさんな対応が浮き彫りになった日本大学。2023年12月にはアメフト部の廃部を決定したが、こうした問題は未然に防ぐことはできなかったのだろうか。取材記者が感じた日大への不信と違和感とは。
(社会部 島津里彩)

■「廃部」に追い込まれた“不死鳥”

「フェニックス」の愛称で親しまれ、1940年の創部以来、大学日本一を決める「甲子園ボウル」で21回優勝するなど、国内屈指の強豪校として活躍してきた日本大学アメリカンフットボール部。

違法薬物事件をめぐり、これまでに現役部員が3人逮捕、1人が書類送検されたことなどを受け、大学の理事会は12月にアメフト部の「廃部」を決定。83年の歴史に完全に幕を下ろすように見えたが、大学側は「学生に不利益を生じさせないため」として、来年度に向けて、すぐ新しく部をつくり直す方針を打ち出した。

■“一旦”の廃部に結局なんの意味があるのか

この形だけの“一旦”の廃部で何が変わるのか──。大学は今後、新しい部の創設に向けて、入部するための条件を設けたいなどとしていて、薬物使用の疑いのある部員を一掃する考えを示している。

一方、変わらないのは、学内のアメフト部の立ち位置だ。大学の「競技スポーツ運営委員会」は新しく発足する“アメフト部”について、「学生部」所属に格下げすることなく、これまでと同様に「競技スポーツ部」の所属とすることを決定した。これにより新生“アメフト部”は引き続き大学側から活動費が割り当てられ、寮の使用やスポーツ推薦なども適用されることとなる。

あるアメフト部の関係者が「廃部したあとにすぐ立ち上げ直すというのは“継続”とほぼ変わらないのではないか」と疑問を示すなど、今回の大学の判断には、学内外から批判の声が上がっている。この一旦の「廃部」という処分は、あまりにも場当たり的なもので、大いに違和感を覚える。

■アメフト部総勢120人の連帯責任は妥当だったのか…

廃部を受け日大アメフト部は「関東学生アメリカンフットボール連盟」から退会することとなり、今後、新しい部として加盟したとしても、トップリーグで戦えるようになるには最短でも5年かかるという。

総勢120人の部員のうちの一部が起こした不祥事が発端で、残りの真面目に活動してきた学生が、連帯責任という形で母体を失うことになった今回の廃部。最上位のリーグでプレーすることなどを目指し入部してきた学生にとっては、納得のいかない、厳しい状況が続くことになる。

「自分たちが問題を起こしたのだから廃部の決定は仕方がない」。こうした意見が根強くあるのも十分に理解できる。しかし、ここまで事が大きくなったのは、未だ処分が決まっていないアメフト部の監督責任者をはじめとする競技スポーツ部の人間や日大執行部全体の、ずさんな危機管理意識と後手後手にまわった対応に大きく起因しているのではないだろうか。

■廃部回避のポイントはなかったのか…

仮に大学のガバナンスと情報伝達が適切に機能していれば、もっと早い段階で寮の薬物問題の情報をキャッチし、学内調査と並行して警察と連携をとることができ、廃部以外の方法で問題解決ができたはずだ。

ずさんな初期対応といい、大学の上層部のこの問題に取り組む姿勢そのものにも問題点は多い。例えば、大麻とみられる植物片がアメフト部の寮で見つかってから、澤田副学長が警視庁に報告するまで12日間保管していたことや、林理事長が、植物片が見つかったと報告を受けていながら、「薬物は見つかっていない」と失言に近い発言をメディアに対して行ったことなどは、大学ぐるみで隠ぺいしようとしていると捉えられても仕方がない行動だ。

また薬物事件の対応をめぐり、林真理子理事長が澤田副学長に対し「補助金をもらうために、自浄作用を示すためにも辞任してもらうのがいい」などと暗に迫った発言内容が明るみに出たことで、薬物事件から一転、ガバナンス問題が浮き彫りになり、日本大学が一層、悪目立ちする形になってしまったといえる。

■当事者意識に欠け、準備不足が露呈した8月の会見

8月に行われた大学の説明会見では、林理事長をはじめ、酒井学長と澤田副学長が出席した。しかし、林理事長は終始、「競技スポーツ部」のことについてはわからないというスタンスで、「スポーツの方は学長にお聞きする立場で、はっきり申し上げて遠慮があった」などと、記者からの質問を次々と酒井学長や澤田副学長に振っていく様子が見られた。

日本大学は巨大な組織で、細部まで情報を把握することには限界もあるだろう。しかし自身が組織のトップである理事長を務める大学で起きた不祥事に関する説明会見だ。少なくとも理事長として準備不足だったことは否めない。

■「学生ファースト」ではなく「自分ファースト」

大学が設置した第三者委員会から報告書が提出された後、ガバナンスの改善に向けた建設的な話し合いや問題点を明らかにする議論を行う前に、日大の内部で、誰かに責任を押し付け“尻尾を切ろう”とする動きが見られたことにも大きな違和感を覚えた。

薬物事件の対応の責任や、林理事長との音声データ流出が“情報漏えい”にあたるなどとして、理事会は澤田副学長と酒井学長の辞任を決定した。

その一方、林真理子理事長については半年間の減給処分にとどまり、また情報漏えいを批判しながら理事会の内容をインターネットメディアで発信している理事もいるなど、理事たちに対する学内の批判の声も大きいと関係者は話す。

第三者委員会の綿引万里子委員長は、会見の中で、「林さんは学生ファーストと言っているが、学生ファーストになっていないと思います」と厳しく指摘した。

日本大学がいま一番取り組むべきことは責任の押し付け合いではなく、失墜した信頼と形を成していない学内ガバナンスをどうするかということである。日大は11月、最初のガバナンスの改善計画などを文科省に提出したが、「具体性に欠ける」として再提出を言い渡され、年の瀬も押し迫った時期、林理事長自らが文科省に出向くことを余儀なくされた。

文科省は「理事長の権限や責任の明確化」や「競技スポーツ部の管理体制の見直し」などについて、どう取り組むのかしっかりと工程を示してほしいと要望した上で、改善計画の進捗などをチェックするため、有識者による異例のフォローアップ体制を省内に発足することを決めている。

■地に落ちた“日大ブランド”…「信頼」の回復なるか

林理事長は12月の会見で、学生らに対して「日本大学を信頼してほしい」という発言をしたが、看板をすげ替えるだけの“一旦”の廃部の決定や、具体性に欠けるガバナンスの改善計画の提出など、今のところ好転の兆しは見えていない。そんな中、「信頼してほしい」という言葉を持ち出すのは少々早すぎたのではないか。

第三者委員会の会見でも聞かれた言葉だが、「今のままでは日大は再生できない」。ポストに残留した林理事長は今後、新しく迎える学長らとともに、どういったガバナンス改革に出るのか。理事会を含む学内関係者が一丸となって、山積する問題一つ一つに丁寧に向き合い、日本大学の再建に取り組んでほしい。

(※肩書は全て2023年12月現在)