燃料デブリ初取り出し…「現世代の責任として、できるだけのことをやる」取り出し工法チームのトップに聞く“廃炉への道筋”
事故から13年半がたとうとする福島第一原発。溶け落ちた核燃料「燃料デブリ」の総量は推定で880トン。その「燃料デブリ」が事故後、初めて取り出されます。しかしその量は耳かき1杯程度です。国や東京電力は“最長40年で廃炉を終えるとする計画”ですが、実現はできるのでしょうか。“廃炉への道筋”について、デブリ取り出し工法チームのトップに聞きました。
880トンもの「燃料デブリ」
福島第一原発では1号機から3号機まで3つの原子炉でメルトダウン。核燃料は原子炉圧力容器を突き破り、格納容器の底の部分に溶け落ち固まっていると見られています。これが「燃料デブリ」と呼ばれるもの。3つの原子炉を合わせると推定880トンあるとみられています。廃炉の最難関と言われるのがこの「燃料デブリ」の取り出しです。
耳かき1杯分を取り出す意味とは?
事故から13年経った今でも、格納容器の中は放射線量が極めて高く、人が立ち入っての作業は不可能です。そこで遠隔で動く装置を開発してデブリを取り出すことになりました。今回行われるのは2号機での「燃料デブリの試験的取り出し」。装置の開発に時間がかかるなど、当初の計画から3年遅れての作業となりました。採取する量は3グラム以下、耳かき1杯程度です。今回は2週間かけて取り出し作業を行います。
取り出した燃料デブリの硬さや成分などを分析し、得られたデータをもとに今後“デブリの大規模取り出し”をめざします。
私たちは原子力規制委員会前委員長で原子力損害賠償・廃炉等支援機構、燃料デブリ取り出し工法評価小委員会の委員長でもある更田豊志氏に話を聞きました。
▽燃料デブリ取り出し工法評価小委員会更田豊志委員長
「今回は中に手をつけたという行為そのものの意味が大きい。今までは(格納容器の)中から、危険な物が外へ出てこないように守ることに力を入れてきた。今回は中に手を突っ込む。そういったことができるんだという経験を積めるのは非常に大きい。本格的にデブリを取り出すためにはどういう作業が必要かという議論をする大きな材料を提供できると思う」
最長40年の廃炉計画…見直すべきでは?
国や東電が示している廃炉完了までの目標期間は事故後30~40年です。すでに事故から13年が経過したので、あと17年~27年で廃炉を完了させるということになります。現実的と言えるのでしょうか…。
▽燃料デブリ取り出し工法評価小委員会 更田豊志委員長
Q 廃炉まで30~40年の目標について?
「難しいのは間違いない。30~40年というのは明確な根拠あって決められたものではない。いろんなことがわからない状況の中で必ずしも工学的な技術的な根拠があって決めた期間ではないのは事実だ。様々な社会的政治的な理由があって決められた(廃炉目標の)期間だ。きちんと定められるような情報が出てきた時点で、(廃炉目標の)期間の議論を始めることになると思う。デブリの試験的取り出しもその一つのポイントだ。この1~2年でこれまでになかった情報がずいぶん得られるようなる。(廃炉目標の)期間も含めて、次の段階の議論をする時期に近づいてるんだろうと思う」
Q 廃炉までの期間が延びるということか?
「必ずしもそうではない。あくまでその30年40年の(廃炉までの)期間を維持するという結論もあり得るし、一定の延びる期間を設定することもあり得るし、(廃炉までのの)期間は設定できないという結論になる可能性だって否定はできない」
本格的な「デブリ取り出し」…取り切れるのか?
燃料デブリは核燃料だけが溶け落ちて固まったものではなく、原子炉の中の金属やコンクリートなどと混ざり固まっています。そのため非常に硬く、簡単に取り出すことができないと想定されています。これらの大量の燃料デブリを砕いて運び出す装置の開発や、取り出したものをどこに安全に保管するのかなど、課題は山積しています。
▽燃料デブリ取り出し工法評価小委員会 更田豊志委員長
Q燃料デブリを全て取り切れるのか?
「今から45年前の1979年、アメリカ・スリーマイル島原発2号機でも事故があった。この時、燃料デブリは圧力容器という金属製の容器の中にとどまって外には出なかった。燃料デブリは99%ぐらい取り切れたが、(一部は)まだ残っている。
Q スリーマイル島原発では圧力容器の中の燃料デブリでさえも1%残っている。福島第一原発はさらに難しいのではないか?
「(福島第一原発は)スリーマイル島原発事故とは比較にならないぐらい困難だ。遥かに難しい。 福島の場合も、私達が目指してるのは100%ではなく、ほぼほぼ取り切るところまで持ち込みたい。95%ぐらいは少なくとも取りきりたい。ただこれも何をもって100%とするかだが、一口にお答えするのは難しいが9割以上は(取りきりたい)というところだ」
取り出した燃料デブリはどこへ?
将来、取り出した燃料デブリをどこに持って行くのか。東京電力のホームページにはこのように書かれています。
「取り出した燃料デブリは、遮蔽・放射性物質閉じ込めのため、金属製の密閉容器に収納したうえで、発電所内に整備する保管設備 に移送し、金属またはコンクリート製の密閉した部屋の中で保管 (乾式保管)をします。その後の扱いについては、調査や研究開発 等の成果をふまえつつ、処理に向けた検討結果を踏まえて決定し ていくものと考えており、国と連携して進めていくこととしています」
つまり“デブリの最終処分”をどこでどのように行うかは、まだ決まっていないのです。燃料デブリを取り出した後の管理の難しさも問われています。
▽燃料デブリ取り出し工法評価小委員会 更田豊志委員長
「デブリは取り出すこと自体よりも、取り出してからの方がやっかいだと思えてしまう。取り出した途端に放射性廃棄物として厳重な管理が必要となる。廃炉作業全体からいうとデブリ取り出しが困難な作業であるのは事実だけども、困難が更なる混乱を呼ぶわけです。廃炉作業の後に生まれてくる廃棄物の問題の方が、遥かに困難だと思われる」
Q デブリを取り出さないという選択は?
「選択肢として完全に排除するわけではないが、まだまだ時期尚早だと思う。取り出さないという選択は次の世代、更に次の世代に対して、負担や判断、ツケを回すことになる。そういった判断を現世代がしていいかどうかは大変重要な問題で、安易に次の世代に負担を回すべきではない。現世代の責任として取り出すだけ取り出そうとするのは、正しいことだと思う。現世代の責任として、できるだけのことをやろうとするのが大事だ」
廃炉作業の厳しい現実
事故後、13年で初めて取り出される“耳かき1杯分”の燃料デブリ。原発事故の“処理”を次世代に先送りせず、私たちの世代でどこまで責任を果たせるのか。廃炉作業の厳しい現実が、この先何十年と待ち構えています。