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福島第一原発「処理水」海洋放出 最新装置とヒラメも飼育のナゼ

2022年3月9日 21:37
福島第一原発「処理水」海洋放出 最新装置とヒラメも飼育のナゼ
福島第一原発(2月26日)

東京電力福島第一原発の「処理水」を大幅に薄めて海に放出する計画は、開始が約1年後に迫る。処理水の濃度をはかる作業では「スマートグラス」を導入し、効率化とミスの防止をめざす。さらに構内では、ヒラメなども飼育し、風評被害対策への強化をはかる。
(社会部・松野壮志)

■原子炉建屋には「ガレキ」

2011年3月の原発事故から、まもなく11年。

先月26日、私は東京電力福島第一原子力発電所の今を知るため、構内に取材に入りました。

福島第一原発では、現在、1日約4000人の作業員が廃炉作業にあたっています。

3号機の原子炉建屋の間近に行くと、建屋の中には、まだガレキが残されているのも見え、まるで当時から時間が止まっているかのような状況でした。

構内全体を見渡すと大変目立つのが大きなタンク。石油コンビナートを連想させるかのように、たくさんあります。

実は、このタンクが今課題になっているのです。

タンクの中に入っているのは「処理水」と呼ばれるもので、汚染された水を浄化したもの。

タンクの数は1061基。これ以上、増設することは難しい上、来年の春には満杯になってしまうとの試算も出ているのです。

■「処理水」を海へ

増え続ける処理水を、今後どうすべきか。

国は去年4月に、処理水を国の基準より大幅に薄めた上で海へ放出する計画を決定しました。

計画では、濃度の基準を満たした処理水は、大量の海水と混ぜ合わせられます。

薄める海水の割合は処理水の100倍以上。

放出されるときの濃度は、国の基準の40分の1にあたる、1リットルあたり1500ベクレルを、さらに下回る濃度です。

薄められた処理水は、放水立坑(ほうすいたてこう)と呼ばれる場所に送られて、濃度をはかった後、海に放出されます。

放出先は、沖合約1キロのところで、海底にトンネルを作り、そこを伝って海中に出すイメージです。

海底のトンネルは、地下に道路などを作るときなどにも使用される「シールドマシン」で掘るという、とても大がかりな工事です。

処理水の海洋への放出は、来年の春から約30年かけて行われる計画。長い期間を要するため、丈夫なトンネルが必要なのです。

■残ってしまう放射性物質「トリチウム」

処理水は、「ALPS(アルプス)多核種除去設備」と呼ばれる浄化設備で、セシウムなどの放射性物質を取り除きますが、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことができません。

ただし、トリチウムは川や海などの自然界にも存在している物質です。また、日本だけでなく海外の原子力施設でも海や大気などに排出されているものです。

■最新装置「スマートグラス」

では、分析はどのようにして行っているのでしょうか。

福島第一原発の構内にある処理水を分析する施設「化学分析棟」を見せてもらいました。

化学分析棟では、トリチウムなどの濃度をはかるために、処理水に薬品を入れたり、蒸留したりと様々な工程が行われています。

そこで、ひとつ気になるものがありました。分析の担当者が頭につけている「スマートグラス」と呼ばれる装置です。

これには、マイクやカメラなど、様々な機能が取り付けられていました。

マイクは、処理水がいつどこで採取されたものか、容器に書いてある情報を声で伝えることで、音声入力されます。

また、入力された情報は分析担当者のグラス(メガネ)の内側の部分に、文字として映ります。

さらに、カメラで容器を映すと、別の部屋で映像として見ることができ、別の物と取り違えていないかのダブルチェックもできます。

この装置を導入したポイントのひとつは、業務の効率化です。

例えば、年間で約80万枚必要だった、分析時に使うチェックシートがいらなくなりました。

さらに、紙やペン、試料などを、その都度、手で持ち替える必要がなくなる上、手書きによる記入ミスの可能性もなくなったそうです。

処理水に含まれるわずかな量のトリチウムの分析には時間もかかるため、こうした効率化は大切です。

■無色透明の「処理水」

そして、処理水も実際に見せていただきました。

全くの無色透明。においも全く感じず、普通の水のよう。この中にトリチウムが含まれているとは想像できないほど、透き通った液体でした。

■原発にヒラメとアワビ!?

さらに、東京電力ではある調査を行おうとしています。

それは、福島第一原発の構内において、ヒラメとアワビを飼育するというもの。

海水で希釈した処理水を使って飼育したものと、通常の海水を使って飼育したものとで、放射性物質の濃度を比較します。

薄めた処理水を海へ放出することによる、魚などへの風評被害対策を強化するために、こうした飼育を行って安全性を示したい考えです。

では、どうしてヒラメとアワビなのか。

それは、専門家のアドバイスによるもので、飼育がしやすいことや、福島県沖の近海でとれるものがいいということから、この2つが選ばれました。

飼育は、今年9月頃から始まる予定です。

■地元はまだ納得していない

ただし、この海洋放出については、地元の漁業関係者の合意は、まだ得られていません。

これについて、東京電力の担当者はこう話します。

東京電力ホールディングス・福島第一廃炉推進カンパニー・木元崇宏リスクコミュニケーター「科学的にまず大丈夫だということをお示しをすると同時に、本当に大丈夫かというご不安の声にしっかり応えていくということが大事だと思っております。しっかりご説明を尽くしていくということが、これからしっかり行わなきゃいけないことだと認識しております。」

処理水の海への放出開始は、約1年後に迫っています。

地元の関係する方々への理解と合意形成はもちろん、消費者である我々も正しい理解と知識が必要だと感じました。