×

記者の実家も立ち退きに…どう決まる?道路建設【#みんなのギモン】

2024年1月28日 9:12
記者の実家も立ち退きに…どう決まる?道路建設【#みんなのギモン】

「あなたの家の土地は、道路計画のルート上にあるので譲って頂きます。立ち退いて頂き、新たに住む場所を探して下さい」ある日、役所の職員からこのような連絡が来たら…。
道路の建設計画は自分の知らない間に着々と進められていることがあります。
もしそうなったらどうしますか?
(報道局 調査報道班  川崎正明)

建設中の道路の先にあるものとは?

東京都練馬区大泉学園町。25メートもの道幅がある幹線道路が建設中です。工事を行っている区間は約2キロ。歩いてみると9割以上が完成しており、車が通行していてもおかしくない状態でした。しかし1か所だけ全く通れず、道路整備が止まっている場所がありました。

そこにあったのは100基以上もの墓。近くには寺の本堂も見渡せます。道路の計画線上に用地買収もされていない、寺と墓が立ち並んでいたのです。

この道路は千代田区九段北からつながる東京都市計画道路「放射7号線」、通称「目白通り」です。将来はさらに西に延伸され埼玉県狭山市まで結ばれ、都心と埼玉県西部を結ぶ重要な幹線道路となる予定です。

事業認可から18年…あと1か所立ち退けば

問題となっているのは東京都練馬区の「放射7号線」区間の西端部分。墓の立ち退きが進まないため、約2キロの工事区間については、国から事業認可が下り18年が経過した今も開通に至っていません。

130基の墓地を横切る道路計画

上空からの写真を見てみると、両側を道路に挟まれた形で墓が立ち並んでいます。道路整備は墓地の手前で完全にストップしています。

この場所は日蓮宗の寺、善行院。住職によると今から500年以上も前の1490年に開かれたといいます。敷地内には3階建ての本堂と約200基の墓が建てられています。そのうち約130基の墓が道路計画の線上にあります。住職はこれまで20年近く東京都側と移転や用地買収の話を続けてきたといいます。

善行院  大庭一記住職
「すべての墓と本堂が合わさって一つの寺なのですから、道路計画にかかっていない(約70基の)墓を残して、移転するわけにはいきません。都側と話し合いを続けていますが、担当者は人事異動で2~3年で変わってしまいます。代替地の提示もされましたが敷地が狭く、すべての墓が入りきらないのです」
 

寺側の負担は…

墓を移転するにあたっては、寺側は様々な事をしなければなりません。

・墓の持ち主すべてに改葬の同意を得る。
・新しい墓地の許可申請、改葬の許可申請、元の墓の廃止許可申請。
・新しい墓地周辺住民への説明会。
・継承者や縁故者がいなくなった「無縁墓」を調査し遺骨を合祀(ゴウシ)する。
・土葬していた遺体を掘り返して火葬する。

一般住宅の移転でさえも大変なのに、墓を移動させるのはとんでもない労力が必要となるのです。

開通が待たれる放射7号線。なぜ、たくさんの墓がある場所に道路を計画したのでしょうか。

墓地を横切る道路計画…誰が決めたのか?

東京都によると今回の放射7号線は、1946年の戦災復興計画で決定され、その後、1962年に寺の上を通ることが決まりました。つまり、今から60年以上前にはすでに立ち退きが必要となることが明らかになっていました。

その後も計画の見直しは行われず、2006年に国からの認可が下り用地買収などが始まりました。住職が具体的に立ち退きを求められたのも、このタイミングだといいます。

都市計画事業では、寺や墓があろうとも基本的には特例は認められません。また、墓の下に道路を通す「地下化」を望んでも、交差点や鉄道など交通障害が起きる場所以外は認められません。

なぜ500年以上も前からある寺の敷地内に道路を計画したのか?
東京都や国土交通省に問い合わせても、終戦直後の計画内容を知る人はいませんでした。

一刻も早い移転が求められるが…

善行院  大庭一記住職
「考えている事は私も檀家も同じで、円満に速やかに寺と墓を(新しい場所に)移すことです」

住職は20年近くにわたって"ごねて"いるわけではなく、道路開通を待ち望んでいます。ただ、墓の移転問題が解決しない以上、立ち退きに応じるわけにもいかない苦しい立場なのです。

開通を見越して出店する店も…

9割以上が完成している「放射7号線」の西端部。開通を見込んでドラッグストアが道路沿いに移転してきました。しかし目の前の道路は車での通行ができません。工事などを行う東京都第四建設事務所は、「地元からの要望もあり、部分的な開通を目指している」と語りました。

道路計画はどのように決まり、住民にはどう知らされる?

こうした道路の建設計画は、どのような形で進められているのでしょうか。

新たな道路づくりは「都市計画法」に基づき、都市づくりの一環として計画されます。そして「都市計画道路」として計画段階で、詳しいルートや構造が決められていきます。

立ち退きをしないといけないのか?

では、道路の計画線上に土地や家があったら、手放さなければならないのでしょうか。
私たちの取材に東京都の担当者はこのように語りました。

東京都の担当者
「道路の計画線上にある土地は譲って頂きます。これが基本です」

「都市計画法」に基づき、「この場所を道路」と定めたので、「土地は譲って頂く」というスタンスなのです。住民は都側と補償交渉を行い、他へ移り住むことになります。

東京都では「都市計画道路」のうち、10年間で優先的に整備する路線を「優先整備路線」とし2016年に320区間、226キロメートルを決めました。

東京都の担当者
「法的に決定しているものなので、大きく50メートル100メートルずれることはないです。また2500分の1の地図上でも公表もされています」

上の図の水色、ピンクなどの色のついている部分が「優先整備路線」です。整備の方針や路線図は東京都のホームページや各市区町の窓口で見ることができます。

記者の実家も「優先整備路線」の線上に…

実は、この「優先整備路線」をみて、記者もびっくり。東京都府中市にある記者の実家も「優先整備路線」の線上にあることがわかったのです。道路は総延長約8.5キロの「府中3・4・3号線」。1962年に都市計画決定され、現在、両端の約4.4キロはすでに開通済みです。

記者は子どもの頃、親から「ここは将来、道路が通ることになる」と聞かされたことがあります。しかし、それから40年以上経過しましたが、いまも行政側からは何一つ連絡はありません。ですので、事業化はまだまだ先だろうと考えていました。

ところが、自宅からわずか2キロのところまで事業計画が進み(赤実線部分)去年、周辺住民に説明会が行われていたことがわかりました。しかし記者の実家周辺(赤点線部分)ではまだ、説明会すら行われていません。つまり、自分で調べない限り、立ち退きが近づいていることにもなかなか気づけないのです。

事業が始まると何年で道路ができるの?

東京都によると一般的なスケジュールとして事業概要説明会から用地測量の実施までがおおむね2年。その後、国から認可を取得し、用地折衝・協議、物件移転、工事開始と進み、道路が完成するまでをおおむね7~10年と見込んでいます。

東京都北多摩南部建設事務所の担当者
「用地買収を1軒1軒やっていきますし、個別の事情もありますのでかなりの時間がかかります。そのため工事開始時期が延びることもあり得ます。府中3・4・3号線の今回の事業予定範囲以外の区間については、住宅が密集し工場や病院などがあることから、まだ進められていませんが、準備が整った所から並行して事業を進めていきたいと考えています」

記者の実家の土地は、今すぐに測量や用地買収の交渉が始まるという状態ではないですが、計画は着々と進められていることがわかりました。

公共の道路…しかし

新しい道路が作られることで、渋滞の緩和や災害時の避難路の確保、生活道路に流入していた車が減少するなど、地域の安全性の向上も図られます。

一方で「立ち退き」により今まで暮らしていた生活の場などが失われることになります。行政側と補償交渉を行い、代替地を探し、引っ越す事は大変な労力です。その時になって慌てないよう、自宅や実家が道路計画の線上に入っていないか、一度、詳細に確認することをお勧めします。

●あなたの身の回りの怒りやギモンをお寄せください。お寄せいただいた情報をもとに日本テレビ報道局が調査・取材します。
#みんなのギモン 
https://www.ntv.co.jp/provideinformation/houdou.html