若者にまん延する大麻…「そんな悪いものじゃない」 “マトリ”に密着取材 覚醒剤へのゲートウェイ
健康に悪影響を与えるとして、所持や栽培が禁止されてきた「大麻」。法改正により、その使用も禁止されることに。しかし、ネット上で検索すると、隠語で書かれたたくさんの売買情報が。大麻犯罪を取り締まる厚生局麻薬取締部、通称「マトリ」を取材。若者たちの間にまん延する大麻の実態に迫りました。
去年10月のある夜、20代の若者が警察官に囲まれていました。
「出せ!」「口の中見せろ、コラ!」と現場に響く警官の声―――。そして、「午前1時45分、大麻取締法違反で現行犯逮捕します」
いま、若者にまん延する大麻。危険な世界への入り口は、いま、どうなっているのか。ある若者は「周りの若い子たちがみんなやってるっていうので“ちょっと吸ってみない?これ”みたいな感じで」と語りました。
今回、取材が許されたのは、九州厚生局麻薬取締部。通称「マトリ」だ。薬物犯罪に関しては警察と同じ捜査権限が与えられている。
麻薬取締官
「キーワード検索で入れると、そういう(大麻関連の)広告がばーっといっぱいでてくる」
「大麻のことを隠語で『草』と言うから、草っていれると…」
取締官のPC画面を埋め尽くすような書き込みに行き当たった。「これ全部そうですよ、全部」
カラフルな絵文字は、いわゆる“暗号”だといいます。
麻薬取締官
「ブロッコリーのマーク、これ大麻のことなんですね。隠語みたいな」
「“ストロベリー”とか“チェリーパイ”とかは、品種の名前を表していると思うんですけど」
取締官によると、手渡し取引のことを、隠語で「手押し」と表現するという。PCで手押しというワードを入れると、“福岡手押し”、“博多手押し”という言葉にあたった。「福岡や博多周辺で手渡し取引できます」という意味なのだという。普段、多くの人が行き交う場所だ。
麻薬取締官
「スマートフォンが普及しだしたくらいからだと思いますけど、一般人の学生さんとか主婦とか、普通の会社員みたいな人が、興味本位で手に入れることができるような土壌ができちゃったんで、薬物使用者の裾野が広がっている」
2023年、福岡県警の大麻による検挙者は、過去最多の478人。その8割を占めたのは、20代以下の若者だ。
麻薬取締官
「今回の事案は福岡市内に住む40代の男が、自宅とは別の場所でマンションを借りて、そのマンション一部屋で大麻を栽培しているという」
「大麻のにおいが部屋の外に漏れている状況なので、相当な規模で栽培しているものと思われます」
この日、マトリが着手した大麻事件。家宅捜索に入った部屋からは、車2台分にもなる大量の大麻が押収された。大麻は、闇で流通し続けている。
麻薬取締官
「年明けに同じやつを逮捕したときに大麻の栽培をしていたけど、覚醒剤も持っていたんですよね」
「大麻が“ゲートウェイ”みたいな形になっているなと思いましたけどね」
“ゲートウェイドラッグ”と言われる大麻。大麻という入り口に足を踏み入れると、さらに作用の強い覚醒剤などにエスカレートする可能性があるという。
一方、街では「CBD」と呼ばれる大麻由来の成分が入ったオイルなどが、コーヒーやスイーツに混ぜ、提供されていた。幻覚作用など、有害な大麻成分とは別のもので、大麻取締法の規制対象ではない。(※輸入には厚労省の確認が必要)
Healthy TOKYO マイケル・ボブロブCEO
「ビーガンフード(植物性食品)とCBDを扱っているから、健康意識が高い方が多いです」
店のスタッフは「プリン食べるみたいにお召し上がりいただいていいんですけど、飲み込まないで、30秒から1分くらい口のなかに(含むようなかたちで)」と説明していた。
すると店の女性客は味について、「抵抗なかった」と話した。「CBD オイルはよく眠れる」と聞いたのだという。
来店した女性客
「日本はもともと麻文化でもあるので、なじみがないわけではないかなと思ったのもあります」
「逆にミンザイ(睡眠導入剤)の方が抵抗感があります、自然な方がいいかな」
“大麻由来”の成分が人気を集める一方で、大麻グミで大きな問題となったのが大麻の“類似成分”HHCHです。
厚生労働省は、HHCH など複数の合成化合物を指定薬物として規制したが、構造を少し変えるだけで同様の化合物が作れるため“いたちごっこ”の状態が続いている。
SNSで販売している業者
「(今回の規制)僕はあんまり痛くないですね。合法のなかで、他の商材を選んでいくようなカタチになるかと思います」
「使用している人は、違うものを買うのはもちろんですけど、違法品に戻っちゃうみたいな人も逆にいるんじゃないかってちょっと思っていますね」
若者たちにとって、「大麻」とは―――。「たばこと同じくらいかもしれない、感覚で言ったら。別にそんな悪いモノじゃないっていう認識に近くなってきているんじゃないかな」と話した。
なぜ、若者の間で”大麻”が広がっているのか。
松本俊彦氏(国立精神・ 神経医療研究センター薬物依存研究部長)
「時代の潮流とかファッションとか、例えば憧れのミュージシャンとかがどんな薬物のことを言及しているかっていうこともすごく大事になってきて、そういう若者たちのカルチャーで大麻というものの価値があがっている、注目されている」
「それが現在の若者たちと大麻との結びつきを強めている可能性はある」
私たちは、16歳の時から大麻を吸っていたというゆうとさん(仮名・30歳)を取材しました。
ゆうとさん(仮名)
「(吸った回数は)もう何千、何万と。数え切れないっす。依存性はないとかって一部では言われているけど、生活の一部みたいになるとやめられない」
大麻だけでなく、シンナーや危険ドラッグも乱用するようになったという。
ゆうとさん(仮名)
「周りが“誰々が捕まった”とか“誰々がまた捕まった”とか。やめるって決めてからの1か月間が地獄で、めちゃくちゃきつかった」
ひと月で20万円を大麻に費やすこともあったという。
ゆうとさん(仮名)
「ぼくの場合は仕事のストレスが 1番大きかったんですけど。人間関係とかですね」
「結構つらかったですね、一回自殺未遂しました」
26歳のときに大麻取締法違反の容疑で逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けた、ゆうとさん。これ以降、大麻と縁を切っている。
2023年12月、深刻化する大麻のまん延を受け、国会で「改正大麻取締法」が可決・成立した。これまで「所持」「栽培」などに加え、改正法では新たに大麻の「使用」も禁止されることになった。
しかし国立精神・ 神経医療研究センターの松本部長は「法律によって問題を解決するということには、限界があると私は思っています」と話します。
大麻に「悩み」や「救い」を求めているという現実。複雑な社会の中で疲弊した若者を狙い、大麻は根を張り続けている。